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訪問の約束



「オーレリア様が公爵家へ?」

「公爵が陛下に泣きついたらしい。裁きはきっちりと受けさせるから、それまで彼女を公爵家で預かりたいと」


 ジョシュアがそう報告したのは侯爵家の夕食の席だった。

 普通なら一度捕らえられると、量刑が確定するまで牢からは出られないものだが、公爵家からの嘆願により、先日オーレリアは自宅に戻ったという。彼女は素直に聴取にも応じ、反省も見せていることから、逃走の恐れがないと判断されたらしい。


「一体何を言っているんだ。自分の娘が何をしたか分かっているのか」

「公爵は国王陛下の従兄だとはいえ、甘すぎるわ」


 両親が不満を隠さずに言う。もちろん外国と通じていたという罪も許されざるものだが、長い間ヴィクトリアの悪評を広めていた張本人だと発覚してから、両親の彼女に対する印象はかなり悪いらしい。


「さすがにこのまま無罪放免とはならないが、腹立たしいのは確かだな」


 ジョシュアが皮肉気に口端を歪め、ヴィクトリアを見た。


「ヴィッキー、もうアセルマン公爵家には近づかない方がいい。オーレリア嬢はなぜか特別お前にこだわっていたようだから」

「分かりました」


 自分の何が彼女に気に入らなかったのかは分からない。きっとこれからも分かることはないのだろう。




 アンバーから精霊の加護を貰った今も、ヴィクトリアは教会に通っている。祈りを捧げることは生活の一部になっていたし、教会に行くとアンバーも嬉しそうにしているからだ。

 今日も空いた時間に教会へ訪れると、ナディアがいた。

 先日エリオットたちを除いた遠征隊は帰還していたので、もうラウルも家に戻っているだろう。しかし彼女も教会で祈りを捧げることが習慣になっているのか、今もよく教会で会う。

 今日は意外なことにスザンヌも隣にいたのでヴィクトリアは驚いた。スザンヌはヴィクトリアを見ると少し気まずそうな顔をした。


「ナディア様。それにスザンヌ様も。ごきげんよう」

「ふふ。ごきげんよう、ヴィクトリア様。今日は孫も来てくれているの。最近一緒に祈りに来ているのよ」

「そうなのですね。スザンヌ様、ここでお会いできるなんて嬉しいわ」


 そう言って彼女に近付くと、スザンヌは目を見張った。


「……わたくしは、おばあさまに付いてきただけよ」


 ふん、と顔を背ける彼女に、ナディアは困ったような顔をした。



 ヴィクトリアが祈りを終えるのを、ナディアとスザンヌが待っていてくれていた。ヴィクトリアが彼女たちの元へ行くと、ナディアは満面の笑みを浮かべている。


「ヴィクトリア様、スザンヌがね。あなたを家に招かないかと言っているの。どうかしら」

「まぁ、スザンヌ様が? 嬉しいですわ」

「本当はヴィクトリア様と仲良くしたかったのね。この子ったら素直じゃないんだから」

「ち、違うわ! 今までヴィクトリア様には悪いことをしたと思っているけど……」


 顔を真っ赤にして言うスザンヌに、ヴィクトリアは嬉しくなった。

 彼女はずっと、陰口を言わずに堂々とヴィクトリアへ苦言を伝えてきた。ヴィクトリアから見ると、彼女は裏表のない分他の令嬢より信用できる。彼女がナディアという素敵な友人の孫であるということも大きい。


「バルテ伯爵家なら、問題ないですわ。ぜひ行かせてください」


 ヴィクトリアがそう答えると、スザンヌはどこか複雑そうな表情を見せた。

 あれほどヴィクトリアへ意見してきたのだ。過去のことが気まずいのかもしれないとヴィクトリアは思った。

 今後の予定を調整し、またバルテ伯爵家へ訪問することを約束して彼女たちと別れを言い合った。




「ねぇアンバー、エリオット様たちはお元気?」

『んー……だいじょうぶ。けっこう近づいてきた』


 くぁ、とヴィクトリアの膝の上であくびをしながらアンバーが答えた。

 一度、アンバーに彼らを王都まで移動させられないかと聞いたが、『いや』と言われてしまった。移動はアンバーもかなり疲れるので、やるとしてもヴィクトリア一人しか動かしたくないらしい。そう聞くと気軽に彼らに会いに行きたいとも言えなくなった。


 しかし先日エリオットたちから、自分たちが無事であること、彼らが今レスピナス子爵領にいて、王都への馬車を調達できたという内容の手紙を持った早馬がきた。彼らの不在に気をもんでいた面々は皆その手紙に胸をなでおろした。特にソニアは安堵で涙を流し、国王が慌てて彼女を慰めていたという。


 ヴィクトリアも、アンバーから彼らは無事だと聞いてはいたが、実際にエリオットからの手紙を見たときは涙が滲んだ。無事でいてくれたのだと実感し、見慣れた彼の筆跡に、恋しさが募った。


(早くエリオット様にお会いしたい……)


 十二歳で彼の婚約者候補になってから、こんなに会えなかったことなどなかった。早くエリオットの顔を見て安心したい。沢山話したい。


 ヴィクトリアは出発前にエリオットから贈られたイヤリングに触れながら、彼に思いを馳せるのだった。





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