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消えた三人

予告もなくお待たせしていしまい、申し訳ありませんでした。





 そこはなだらかな丘陵地だが、目前に山が迫っている。馬車は半刻ほど前にここに止まった。今日は山に入る前にここでキャンプをすることになったらしい。クリステルは馬車の中で前にもらったヴィクトリアからの手紙と自分で書いた彼女の絵を見ていた。


 数日前の夜、遠征隊に潜り込んでいた数人が突然クリステルを連れ去ろうと行動した。今のところ黙秘しているが、実は連邦国の人間だったらしい。彼らがシリルやラウルに勝てるとは思わなかったし、怖くはあったけど前のように取り乱すことはなかった。

 ただ、仲間として共に過ごしていた彼らが敵だったという事実が悲しかった。


 でももっと驚いたのはエリオットにも襲撃があったことだ。相当ひどい状態だと聞いたときは血の気が引いた。何とかならないかとリツに聞いたけど、「どうしようもない」と言われてしまった。

 しかし次の日の朝、エリオットのテントへ見舞ったとき、彼が元気そうにリュカと話しているのを見て拍子抜けした。エリオットは嬉しそうにヴィクトリアが傷を治してくれたのだと言う。


(ヴィクたん……! 加護をもらったんだね)


 クリステルは涙が出そうになった。

 これでヴィクトリアは本来の道を進むだろう。二人は幸せになれるのだ。

 どんな風に加護を貰ったのだろう。どうやってエリオットを治したのだろう。クリステルはヴィクトリアの絵をじっと見ながら、早く彼女と話したいと胸を弾ませるのだった。




 その兵士のことは、以前から認識していた。目立たない容姿だが人当たりがよく、重い物を持ったり、けが人を運んだりなど、色々な人を助けている場面を目にして印象に残っていたからだ。

 クリステルは彼が目端に入ると「あ、あの人」と思うようになった。目が合えば挨拶や世間話をすることもあった。襲撃のときもクリステルを守ってくれていた。

 だから馬車から降りたときに、彼がため息をついて下を向きながら困っている様子にも気が付いて、ついつい声を掛けてしまったのだ。


「どうしたんですか?」

「あ、ローラン嬢」

「もしかして何か困ってます?」


 その時ラウルは野営のテントの設営を手伝い、シリルとエリオットは何やら大事そうな話をしていた。何度も危ない目にあったのもあって、クリステルは遠征隊の外には出ない。遠征隊の誰かと一緒にいるように自分でも気を付けていた。


「実は、仲間の体調が悪いので薬草を探しているんですが、見分けがつかなくて」

「薬草でしたら救護班にあるんじゃないですか?」

「あいつの症状に合うものはないみたいで……」


 話を聞くと、喉の腫れを和らげる作用が強いカーマ草という薬草が必要らしい。道に生えていることも多いので、運良くこのあたりに生えていないか探していたという。

 クリステルはずっと薬草採集をしていたので、カーマ草の見分け方は良く知っている。周囲を見ると、カーマ草が生えていそうな木陰があったのでそちらに足を向けた。ここなら離れていないし、この兵士もいるから大丈夫だろう。


 薬草のことを兵士に教えつつ、しばらく二人で薬草を探していると、クリステルは良質そうなカーマ草をみつけた。すぐに振り返り、「ここにありました!」と兵士に呼びかける。

 兵士はにこやかにクリステルに近付いて、「どれがカーマ草ですか」と聞きながらしゃがみこんだ。クリステルも彼の隣に座り、カーマ草に触れたところで、突然彼は布をクリステルの口元に当てた。同時に意識が遠のいていく。


 そこは目立たない木陰で、並び始めたテントにより視線が遮られており、座りこんだクリステルに異変が起きたことに誰も気づくことはない。


(まさか、この人……)


 声を出すことも、動くこともできずに静かにクリステルの視界は黒く沈んでいった。




 エリオットとシリルの前に、一羽の鳥が飛んできた。


「ピーちゃんじゃないか」


 精悍な印象のシリルがそう口にしたので、どこかちぐはぐな気がしてエリオットは思わず笑いそうになった。しかしこの鳥には見覚えがある。


「あぁ、クリステル嬢の鳥か」


 よくクリステルの周囲を飛んでいる鳥のようだ。とても賢いらしく、いつも静かにクリステルの肩に止まっている。だが今この鳥は「ピーピー」と何かを伝えようするように必死に鳴いていた。


「どうした。お前の主はどこだ」

「ピー!!」


 鳥がこっちへ来いと言っているような気がする。普通じゃない様子に嫌な予感がしたエリオットは、鳥が示す方向へ走り始めた。慌ててシリルも付いてくる。


 鳥に導かれるままエリオットとシリルがたどり着いたところで、二人の目に入ったのは兵士がクリステルを抱きかかえている光景だった。最初はクリステルを助けているのだと思ったものの、兵士が進む方向はキャンプとは真逆だ。


「おい、お前、どこに行く」


 エリオットが声を掛けると、兵士は走りだしたので、エリオットたちは追いかけた。


「とまれ!」


 シリルが兵士に魔法を放つ。兵士はそれをよけ、反撃した。強い炎が放射線状にエリオットたちに放たれ、二人はすんでのところでそれをかわした。


「くそっ。お前ら、俺を攻撃したらこの女もただじゃすまないぞ」

「お前……!」


 エリオットたちがひるんだところで兵士の後方の脇道から仲間と思われる男が出てきた。打ち合わせていたらしい。

 兵士が仲間にクリステルを渡そうとしたところで、シリルが兵士の下の地面を盛り上がらせ、同時にエリオットがクリステルの元へ駆け寄った。地面の変化でバランスを崩した兵士が倒れそうになり、エリオットは兵士を蹴ってクリステルを受け止めた。


 兵士は舌打ちをして、エリオットとクリステルに炎を放った。エリオットは風を放ちそれを相殺する。焦ったように後ろの男が叫んだ。


「おい、やめろ! 女は無傷っていう厳命だっただろうが!」

「だがこれを逃すともう無理だ!」


 シリルがエリオットとクリステルの前に立ち男たちから二人を守る体勢になる。


「殿下、逃げてください!」

「シリル……!」


 エリオットが立ち上がろうとしたところで、兵士が焦ったように魔法を発動した。


「させるか!」


 シリルに向けて業火を放たれ、上を飛んでいた鳥が「ピィー!」と鳴いた。

 そして次の瞬間には三人の姿が消えていた。

 確かに先ほどまで三人がいたはずのからっぽの土道を、男たちはしばらく呆然と見ていたが、彼らはすぐにその場から逃げ出したのだった。









ここまで読んでくださりありがとうございます!!


投稿を数日休んでました。

実は書いていた部分をどうしても修正したくなってしまい、

予約投稿していた分も書き直ししていました……

でも作品の内容は良くなったと思います。

最終話まで頑張りますので、最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!

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