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エリオット

本日二話目です




 目の前には優雅に紅茶を飲む婚約者がヴィクトリアを見てほほ笑んでいた。

 いつでも完璧な王子様である彼に、思わず見惚れてしまう。出会って何年も経っているというのに、ヴィクトリアはいつだって彼に目を奪われてしまうのだ。


 これは今朝エリオットから訪問したいと連絡があり、急遽整えられた場だ。突然の訪問だが、彼の訪問であればいつだって歓迎である。


「今日は急に来てごめんね」

「いえ、エリオット様にお会いできるのは嬉しいですから」

「それは私もだよ」


 しばし二人で見つめ合う。ヴィクトリアは恥ずかしくなって目をそらすと、エリオットは笑みを深めた。


「今日は、君に頼みたいことがあって」

「どのようなことでしょう?」

「実は今度、君の学年に転入生が来る」

「そうなのですか」


 珍しいことだ、とヴィクトリアは内心驚いた。

 ヴィクトリアとエリオットが通う王立学園には途中入学の制度があるが、その制度を活用された例はあまり聞いたことがない。外国要人の留学生ぐらいだ。


「ローラン男爵家の令嬢なのだが、彼女は精霊の加護がある」

「精霊様の……精霊術師ということなのですね」


 現在、国内で精霊術師の存在は確認されていなかった。つまりその令嬢は国で唯一の精霊術師ということになる。

 数年ぶりの精霊術師の出現だ。きっと王宮はそのご令嬢の件で騒がしくなっているのだろう。


「実は加護を受けるまで、彼女は平民だった。ローラン男爵家の養女となって最低限の教育は受けているが、きっと学園では浮いてしまうだろう。ヴィクトリアには彼女のことを気にかけてやって欲しいんだ。君と同じ学年になるし、同じ女性だからね」

「もちろん、構いません」


 ヴィクトリアは何のためらいもなく頷いた。

 つまりその令嬢は精霊の加護を受けたことにより、ローラン男爵家に引き取られたのだろう。これまでと全く違う環境で不安なことも多いに違いない。

 精霊の加護を受ける人物は皆誠実な人柄だというし、元平民という属性であれば苦労することもあるかもしれない。自分が助けられることがあるなら、力になりたいと思う。

 

「もし叶うならば、そのご令嬢が精霊様にお会いになったときの話をお聞きしたいですわ」


 知らずに声が弾んでいる気がする。エリオットはそんなヴィクトリアを優しく見返した。


「それは私も聞きたいな。……懐かしいな。昔、精霊を探しに行こうと一緒に精霊の森へ行ったよね」


 エリオットがしみじみと言うので、ヴィクトリアはかつての自分を思い返し、思わずうつむいてしまう。


「あの時は……ご迷惑をおかけしました」

「迷惑な訳ないじゃないか。とても楽しかったよ」


 四年ほど前の、一三歳のとき。妃教育で精霊のことを詳しく学んだヴィクトリアは、どうしても精霊に会いたくなった。もともと精霊を敬う気持ちは強い方だったが、精霊と会える人物がいると聞いて居ても立っても居られなくなったのだ。

 王都近郊にある精霊の森と呼ばれる森で彼らに会えるという伝承を聞き、会いに行くことに決めたのである。


「いつも控えめなヴィクトリアがどうしても行くと言うものだから、これは私も付いていかなければいけないと思ったんだよ」

「エリオット様が共にいてくださって心強かったですわ」


 騒がしいことを嫌うという精霊のために最低限の護衛で森へ向かった。多くの目撃談がある泉や花畑を回り、長時間粘ったものの、結局精霊には会えなかった。それからも数回森へ訪ねたが、結果は同じ。精霊を祀る教会にも頻繁に赴いたが、精霊が姿を現すことはついになかった。自分は精霊と縁がなかったのだと、諦めたのだった。

 王子であるエリオットを何度も付き合わせた上に、結局成果を得られなかったのだ。後になってヴィクトリアは後悔した。


(あの頃は、本当に精霊様のことばかり考えていたわね)


 なぜかあの頃のヴィクトリアは、精霊に会いたいという思いでいっぱいになっていた。それに突き動かされて、森へ行くことにしたのだ。


「ヴィクトリアと外で食事をして、自然の中を歩いて……精霊とどうしたら会えるかって真剣に考えてさ。色んな話をしたよね。凄く良い思い出だ」


 確かに、精霊を探したあの時間で、二人の距離が縮まった。物語の王子様に憧れるような気持ちだったものが、エリオット個人を慕う気持ちに変化した。

 ヴィクトリアの大切な思い出を、同じようにエリオットが大事に感じてくれているなら、嬉しいことだ。


「エリオット様がそのように思ってくださっていたなら、嬉しいです」


 その時ヴィクトリアの口角がほんの少し上がったのをエリオットは気付いた。エリオットは思わず、笑みを深めたのだった。



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