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帰還



 王宮に一行が帰還したとき、ヴィクトリアは王宮にいた。王妃とオーレリアとともに、王宮行事について話し合っていたところだった。


「オーレリア、ヴィクトリア。あなた達も行くわよ」


 王妃がそう促したので、共に謁見の間でクリステル達を出迎えることになった。




 エリオットと共に王族席へ並ぶと、隣にルシアンとオーレリアがきた。


「ヴィクトリア。先ほどから気になっていたのだけれど、そのペンダントはどちらのものなの?」


 オーレリアがヴィクトリアの胸元に目線を配る。

 ヴィクトリアの胸元で光るのは、先日猫がくれた魔石だ。色も形も綺麗だったので、商人に頼みペンダントにしてもらったのだ。


「これはお友達からのプレゼントなのです」


 まさか猫から貰ったとも言えずそう答えると、オーレリアが目を細めてほほ笑んだ。


「まぁ、そうなのね。素敵な色だわ」

「なんだ。エリオットからのプレゼントかと思ったよ」


 二人の会話を聞いていたルシアンが笑うと、エリオットは口端を上げた。


「では私はもっと素敵なものをプレゼントしなければなりませんね」


 四人で歓談していると、謁見の間に一行が入ってきた。

 彼らは謁見前に身を清めたのだろう。皆服装が綺麗で、クリステルなどは光り輝くようだ。クリステルはドレスではなく、シスターが着るような衣装に、複雑で美麗な刺繍が入った衣装を着ている。レースで髪を覆っていて、それが彼女の白い肌に合い、神秘的である。まさに物語に出てくる聖女といった風貌だ。

 クリステルはヴィクトリアに真っすぐ視線を合わせると、柔らかく笑った。


(元気そうだわ。良かった)


 無事な彼女の姿を実際に見られて、ヴィクトリアは胸のつかえがとれたような気になる。クリステルの近くにいるシリルとラウルも元気そうだ。他の者たちを見ても、皆大きな怪我をしたものは見当たらない。


「みな、よくやってくれた」


 立ち上がった国王が労いの言葉を発した。クリステル達は臣下の礼をとり、国王の言葉を受ける。

 国王はルシアンに似た風貌で、少し白髪交じりの赤髪に、ダークブルーの瞳をしている。壮年に入ってもなお体格が良く、威圧感を感じさせる佇まいだ。


「ローラン男爵令嬢。国のために、これからもまた、そなたの力を借りたい。頼まれてくれるか」

「はい」


 きっと事前に練習してきたのだろうが、クリステルは美しい所作で礼を取った。






「ヴィクトリア様!」


 国王夫妻が下がった後、クリステルがヴィクトリアの元へ駆け寄ってきた。


「クリステル様」


 クリステルがヴィクトリアの手を取って、満面の笑みを浮かべている。

 隣にいるオーレリアとルシアンが驚いたようにこちらを見ていた。クリステルのヴィクトリアへの親しげな態度に驚いているのかもしれない。


「えっ、その石」


 クリステルはヴィクトリアのペンダントを見て、驚いたように声を出した。


「何かあって?」

「これ、どうしたんですか」


 なぜか周囲を気にするように、小さな声でクリステルは問いかけた。


「お友達に……ふふ。実はね、猫に貰ったの」

「猫……!」


 気付けばクリステルの光がヴィクトリアの前まできていた。光はペンダントの前でふわふわと飛んでいる。精霊もペンダントが気になるのだろうか。


「ヴィクトリア、猫って?」


 隣で会話を聞いていたエリオットが不思議そうに問いかけた。


「いつも南門の近くにある教会で祈りを捧げているのですが、その教会に猫が住み着いているのですわ。わたくしに懐いてくれていて、この前この魔石をくれたのです」

「そうだったんだ」


 エリオットが目を丸くしてペンダントを見る。

 しばらく黙っていたクリステルは、顔を上げてじっとヴィクトリアを見た。彼女はまた小声を出す。


「ヴィクトリア様。このペンダントをいつも身につけていてください」

「いつも?」

「これ、とても強い守りの力があるみたいですから」


 守りの力の魔石は、精霊の加護を受けた者がその加護を魔石に込めたもので、とても希少なものだ。思ってみない話に驚いたが、クリステルの言葉なのだから真実だろうと頷いた。


(猫ちゃんはどこでこんなものを拾ったのかしら)


 しかし話せない猫に問いかけたところで、疑問は解消されることはないだろう。


「ヴィクトリア様は、その教会に良くいかれるのですか?」

「そうね。行きやすい場所というのもあるのだけど、あの教会が好きなの。猫以外に友人もいるしね」


 優し気な老婦人ナディアのことを思い返して温かい気持ちになる。ヴィクトリアはクリステルに顔を向けた。


「それにしてもクリステル様。本当にお疲れ様でした。大変だったでしょう」

「魔物は怖かったですけど、出てきても全部シリルとラウルがやっつけてくれるし、安心して結界を張れました。色々怖いこともあって、迷惑もかけちゃいましたけど」

「怖いのは当たり前だし、あなたが成したことは素晴らしいことよ。ゆっくり休んでちょうだいね」


 クリステルはぱっと胸を抑える。


「……推しが優しい……っ」


 クリステルの変わった言動にも慣れてきたので、ヴィクトリアは何も言わずに頷く。そこでエリオットが声を出した。


「ローラン嬢、お疲れ様」

「有難うございます、殿下」

「君にはカリエ夫人の授業はもう必要なさそうだね」


 エリオットがそう言うと、クリステルは目を見開いた後、嬉しそうに礼を取った。




 その後、クリステルはルシアンとオーレリアに声をかけられ、しばらく話をしているようだった。表情を見ると、また顔がこわばっている。どうもクリステルはオーレリアが少し苦手なようだ。

 エリオットがヴィクトリアの肩に手を置いたので、彼を見上げる。


「ヴィクトリア、私もその猫に会えるかな」


 隣にいたエリオットには先ほどのクリステルとの会話が聞こえていたので、守りの力が込められた魔石についても気になるのだろう。


「えぇ。いつも教会にいますわ。とても可愛らしいのですよ。うちの子になって欲しいのですが、いつも振られているのです」

「それは何という不届き者だ」


 エリオットが冗談めかして笑う。

 二人で話している間に、クリステルを含んだ一行は謁見の間から退室していた。

 ヴィクトリアたちも、その場から辞したのだった。




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