カメムシのたまご
3年ほど前のことだったか,トイレの網戸に緑色の卵が20個ぐらい産み付けられていた.
ネットで調べたりはしなかったが,多分カメムシだろうなと思った.何せこの辺りにはカメムシが多い.純水都市を謳う相模原市であるが,カメムシシティーと言った方が僕はしっくりきてしまう.
卵径が網目よりも大きかったので,孵化した赤ちゃんがトイレに入ってくることはないだろう.カメムシは好きではなかったが,取り除かず放置することにした.
1週間後,透き通った薄緑色をしたカメムシの赤ちゃんが,網戸を我が物顔で闊歩していた.不覚にも可愛いと思ってしまった.数日間は網戸の上をうろちょろしていた赤ちゃん集団だったが,いつの間にやらいなくなっていた.
俺にお礼の一つでもしてくれよなぁとこぼしつつ,網戸から見える大きな木を眺めていた.赤ちゃんたちはあの木で元気に過ごしてるのだろうか.
てか今更だけどあの木で卵産めば良くない?なんでうちの網戸で産んだの!?嫌がらせか?
翌年のとある朝,トイレに入ると網戸に何か黄色い塊がくっついているのに気づいた.間違いない.カメムシの卵である.もしかして去年ここで生まれたカメムシが戻ってきたのだろうか.サケの母川回帰はよく聞く話だが,カメムシバージョンは聞いたことがない.色は多少違う気がするがまあ誤差の範疇であろう.
なんだか嬉しくなった僕は,毎朝慈しみに満ちた目で卵を観察した.日が経つにつれて,自分の中に”母性”とでも呼ぶべき感情が芽生え始めていることに気がついた.もうカメムシ(とゼルダの伝説とアイスとバイト)のことしか考えられない状態で1週間が経過した.
なかなか産まれない.2週間経っても産まれない.1ヶ月経っても産まれない.半年経って冬を迎えたが産まれない.1年経ってまた暑くなっても産まれない.1年半経った現在も未だ卵の状態で存在し続けている.もう既に赤ちゃんは産まれていて,網戸についてるのは卵の殻なのではと考えはしたものの,卵を観察した感じ多分違う.
なんで孵化しなかったんだろう.僕は気付かぬうちにトイレで毒ガスでも噴射していたのだろうか.
カメムシたちとの絆?の証として卵は取り除かなかったが,よく考えると普通にゴミなので大掃除の時にブラシで落とそうと思っている.
グッバイカメムシ諸君.満を辞して今孵化してくれてもいいんだぜ.
お読みいただき,ありがとうございました!
カメムシちゃんとの思い出を書き残すことができて満足しています.