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蛮族の王  作者: 八百万
第1章 蛮族の王
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地獄のハグ

 バーバラの部屋。


 為朝の前にはまだ人間の姿をしたバーバラがワインを飲みながらベッドに座っている。


「おい、ババア、まだ人間の姿でいたのか。余裕こいていると、本気を出す暇もなく死ぬことになるぞ!」


 為朝は笑みを浮かべバーバラを煽る。


「私が死ぬ? 人間風情がほざいてくれるじゃないの。あとで命乞いしても知らないわよ。まあ、どのみち殺すけど」


「教えてもらいたいことがある。なぜ魔王国は他国を脅かす?」


「答えるわけないじゃない。これから死ぬ奴がそれを聞いてどうなるの? あんたは私に食われて終わり」


 バーバラはワイングラスをテーブルに置き、本来の姿へと変わっていく。


 バーバラの髪は乱れて逆立ち、目は真っ赤に光り、口は耳まで裂けて獣のように鋭い歯と蛇のような舌で土方が言ったとおり、鬼婆おにばばのような姿であった。


「なんじゃ、見た目が醜くなっただけではないか」


 為朝は笑みを浮かべ床に転がっていたワインボトルを拾い、そのワインボトルでバーバラの頭を殴りつけた。


 ワインボトルはバーバラの頭にあたると割れてガラスが辺り一帯に飛び散った。


「馬鹿が、こんな瓶で殴られた程度でこの私にダメージを与えられるわけがないだろう。今度はこちらからいくよ!」


 バーバラは為朝に襲いかかろうとしたが、ワインボトルで頭を殴られた衝撃で目まいがして、片膝をついてしまった。


(なんだ……? あんな攻撃が効いたっていうのか?)


 バーバラは驚いた。今まで人間の攻撃で膝をつくことなど一度もなかったからである。


「捕らわれ人としてここに来たから、刀も弓矢も今は持ってないのだ。品のない攻撃ですまぬな」


 為朝は笑みを浮かべバーバラの前に近づいてきた。


「おのれ~、人間如きが!」


 バーバラは為朝に抱きつき、為朝の右肩に嚙みついた。


「どうだ人間、お前の生き血をいただくぞ!」


 バーバラは為朝に勝ったと思った。


 しかし、肩に噛みついているはずなのに一向に血の味がしない。


 よく見ると歯は為朝の肩を貫けておらず、為朝の肩の上で止まっていた。


(なぜだ? なぜ貫けぬ。こいつ本当に人間なのか?)


 バーバラは驚いていたが、次の瞬間背中に激痛が走った。


「ババアに抱きつかれるとはいただけぬわ。まあ、でも冥途の土産に俺も強く抱きしめてやろう」


 為朝はバーバラの腰に手を回し、力強く締め上げた。


 バーバラはあまりの激痛に為朝の肩に噛みついていた口を離し、天井に顔を上げながら大きな声で叫んだ。


「おい、ババア、この程度で死ぬなよ! 少しは化物らしく暴れてみよ」


 為朝は笑みを浮かべ更に強く締め上げた。


 バーバラはあまりの痛みに目から涙を流し、口からはヨダレを垂れ流しもがき苦しんだ。


「た、助けてくれ!」


「助ける? 抱きしめてやっているのじゃぞ! もう少し楽しめ!」


 為朝はバーバラを締め上げたまま離すことはなかった。


「頼む! 何でも話す!」


「お前ら悪党はすぐに嘘をつくからな! 少しでも嘘を話せば再び締め上げる。このまま話せ!」


「この化物め!」


 バーバラはそう言うと魔王国のことについて話し始めた。


 バーバラは静かな口調で話し出した。


「魔族王という男が5年ほど前に突如魔王国に現れた。あれは元々この世界の人間ではなかったのかもしれない。彼は魔人族の王を数日のうちに打ち倒し、世界のすべてを支配すると宣言して、当時の私がいたノリス王国にも攻めてきた」


「なんじゃ、お前は滅ぼされた国の民だったのか?」


 為朝は少し驚いたような表情でバーバラに聞き返した。


「私は元は人間でノリス王国の民だった。当時の私は幼い子供がいたのだけど、夫は子供が赤ん坊の頃に戦で死んでしまってね。お金がなかった私は娼婦としてノリス王国の歓楽街で働いていたのよ」


 為朝は自分の母親も遊女であったことを思い出しながら、バーバラの話を聞いていた。


「貧しいながらも一人息子を育てるために私はどんな男とも寝たさ。クズ野郎ばかりだったけどね」


「まあ、俺の国でもその手の話はたくさん転がっていた。そんな話で情けをかけると思うなよ」


「そんなのわかってるわよ! ある時、息子が不治の病にかかり、魔族王は私を食人鬼に変えた。1000人の人を食え、そうすれば息子は助けようと言った。でも、いくら人を食べても息子は助からず、見境のなくなった私は息子まで……」


 バーバラはそこまで話すと黙り込んだ。


「身勝手な奴じゃ! 己の息子のためだけに他の者も食ったくせに……」


 為朝は冷たく言い放ったが、内心は生き残るためという理由で兄義朝と戦ったことや、母親が亡くなった後に父為義から見限られ、九州の地に追放されたことなど思い出した。


(俺の家族はお互いのことなど関係なく殺しあったが、この女はまだ息子のためという思いはあったのだな……)


 そんなことを思ったが、バーバラを生かしておくわけにはいかないこともわかっていた。


 為朝は再び力を込めてバーバラの背中に回した腕を引き締めた。


 バーバラは悲鳴を上げた後、気を失って倒れた。


 その時、扉が開いてサファイアが入ってきた。


「為朝、大丈夫? というか、相手が大丈夫かと言った感じね……」


「気絶しているだけじゃ! きっと死ぬ前に家族の夢でも見ているのだろう。」


「家族の夢?」


 サファイアは何のことかわからない顔をしていた。


「サファイア、すまぬが水を用意してくれぬか」


「え? わかった。何に使うのか知らないけど、取ってくるわ」


 そう言ってサファイアは部屋から出て行った。


介錯かいしゃくするのか? わしが立ち合い人をしてやろうか」


 段蔵がいつの間にか部屋の中にいた。


「爺さん、付き合ってくれるのか、悪いな」


 二人は目の前で気絶しているバーバラを見つめるのであった。

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