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蛮族の王  作者: 八百万
第1章 蛮族の王
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エルフ族の村

 為朝とサファイアたちは3日かかってエルフ族の村に到着した。

 

 村は丸太を立ててつなぎ合わせ、広く円形に村を囲うようにして防壁を作っており、村の入り口には長身でスリムな2人の男が弓矢をたずさえ村を警護している。


 サファイアが入り口の前に行くと、門番のエルフが話しかけてきた。


「お帰りなさいませサファイア様。族長がお待ちです」


(サファイア様じゃと? このおなごはこの集落の中でも地位が高いのか?)


「見張りのお勤めご苦労様。子供たちはこのとおり無事よ。直ぐに父上に報告にいきたいわ!」


 サファイアは見張りの兵士と言葉を交わすと、ここまでの事情を説明し、為朝が村の中に入れるように話を通す。


 為朝はサファイアの後ろを歩き、村の中へ入ると、族長の家へと案内される。


 村の中に入りしばらく歩くと、ひと際大きな屋敷があり、族長と思われる男が屋敷の前でサファイアを出迎えた。

 

 族長と言っても見た目は若く、人間でいえばせいぜい30代後半から40代前半の見た目といったところである。


「サファイア、無事に子供たちを救出できてよかった。ところでそこの御仁は誰かな?」


「お父様、この人は盗賊から子供たちを救ってくれた恩人なの。見た目は悪党みたいだけど、悪い人ではないわ」


(悪党みたいとか、余計なことを言いおって)


 為朝は苦笑いしたが、表情を引き締めて族長に挨拶をする。


それがし源為朝みなもとのためともと申す者。訳あって遠く東の国よりこの地に参った」


「そうですか、バルモンド配下の盗賊から子供たちを救い出してくれてありがとう」


「ところでバルモンドというのは何者なのだ?」


「バルモンドはこの地域を支配する人族の貴族です。奴は王国の貴族でありながら、魔王国と密かに通じております」


 族長はバルモンドの話になると少し険しい表情になった。


「どこの世界も貴族というのはどうしようもない奴が多いのだな……」

 

 為朝は元居た世界の公家もろくな奴はいなかったことを思い出す。


「まあ、何はともあれ無事に子供たちも帰ってきた。今日はあなたを歓迎する宴を設けます。ささやかではありますが、楽しんでいってください」

 

 族長は為朝を酒宴の席に案内した。


 エルフ族は基本的には肉や魚は食べないらしく、出てくる食事は野菜やキノコなどの山菜が中心であったが、為朝も久しぶりの酒や料理を楽しんだ。


 宴の途中で為朝の前に山菜やキノコが入ったスープの鍋が置かれたが、為朝は鍋ごと持ちあげ、スープを豪快に飲み干す。


「ちょっと、それは4~5人で皿に分けて食べるものよ! 本当にこの人、騎士なのかしら?」


 サファイアは、為朝の豪快さに呆れる。

 

 それを見ていたエルフの子供たちはサファイアがまるで、為朝の奥さんみたいだと冷やかす。


「な、何言っているの! 違うわよ!」

 

 サファイアは否定しながらも少し顔を赤らめる。

 

「そなたたちは仲の良い友達同士か? 生きて帰れてよかったな」


「違うよ俺たちは兄弟だよ。お兄ちゃんとまた一緒に遊べるからよかったよ。為朝様のおかげだよ」


「そうか、兄弟か。兄とまた遊べるか、それはよかったな」


 為朝は元の世界の兄である義朝よしともを思い出した。


(あんな奴、兄とは思えぬ……)


 そのあともうたげは盛り上がり、為朝も村の者もそのまま夜中まで騒ぎ、その場に寝ることとなった。


 為朝は横たわると義朝の姿を思い浮かべた。


(兄弟か、この村の連中の親兄弟の在り方が正しいのだろう。俺はどこかで間違っていたのだ)


 周囲が完全に寝静まっている中、為朝は一人そんなことを考え、眠りについた。


 うたげの翌朝。

 族長から近くの森に温泉があると聞いて、為朝は温泉に向かった。


 為朝は温泉に向かう途中、自分の懐に何か入っているのに気付き、手を入れて取り出すと小さな木彫りの観音像が出てきた。


(これはいつから? この世界に来る前に俺は仏像など身につけていなかったはず、やはり、あのお堂で出会った観音様なのか?)

 

 為朝は不思議には思ったが、とりあえず、仏像を懐に戻す。


 しばらく歩くと温泉に着き、為朝は着物を脱ぎ、温泉に入る。


(これは気持ちが良い! 疲れが吹き飛ぶようだ!)


 ふと前を見ると湯気の向こうに人影が見える。


(俺以外にも温泉に入っている奴がいるのか)


 そう思いながらも、気にせず温泉に浸っていた。


「あら、誰かしら? 誰か入っているの?」


 湯気の奥から女性の声で語りかけてきた。


「女が入っているとは知らなかった。直ぐに出る故、ちょっと待ってくれ!」


「え、為朝! なんであんたが温泉の場所を知っているのよ!」


(サファイアか……)


 為朝はお湯から出ようとすると突如風が吹き両者の間の湯気が消え、目の前には何も纏っていないサファイアが立っていた。


 サファイアは白く透き通るような肌をしており、身長はスラっと高いが他のエルフの女性のようにただ細見というわけではなく、胸やお尻は女性らしい膨らみがあり、また、戦士として鍛えているだけあって、身体は引き締まっていてバランスのよいとても綺麗な姿をしていた。


(お~、まるで天女様のようだな……)


 為朝はサファイアの姿に見とれていたが、サファイアは頬を赤らめて、慌てたように為朝をまくしたててきた。


「な、あんた早く出ていきなさいよ!」


「出ていくといっただろ! 今のは風が吹いただけで、俺が悪いわけではなかろう……」


 為朝はすぐに温泉を出て着物を着て、村に向かおうとした。


「見たよね?」


「まあ、あの状況なら見るじゃろ……」


「早く出て行きなさい! このスケベ騎士!」


 サファイアが更に怒り出したので、為朝は温泉の気持ちよさも吹き飛び、エルフ族の村に戻るのであった。


(それにしても美しい姿であったな……)


為朝は一気に目が覚める感じがして、村へと戻るのであった。

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