表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族の王  作者: 八百万
第1章 蛮族の王
2/82

プロローグ

 時は1156年、保元ほうげんの乱の真っただ中。


 武士たちは後白河天皇ごしらかわてんのう側と崇徳上皇すどくじょうこう側に分れ、為朝ためともは父である源為義みなもとのためよしと共に崇徳上皇すどくじょうこう側で戦っていた。

 戦は序盤じょばんこそ五分五分であったが、兄である源義朝みなもとのよしともが夜襲をかけてきたことで崇徳上皇すどくじょうこう側は次第に劣勢に立たされていく。


 為朝ためとも粗暴そぼうな性格で、身長は七尺ほど(2m10cm)あり、鋭い眼光で容貌魁偉ようぼうかいいである。為朝ためともの放つ矢は強弓ごうきゅうと言われ、後に武士で初めて太政大臣だじょうだいじんまで昇り詰める平清盛たいらのきよもりでさえ攻めるのを躊躇ちゅうちょするほどであった。


「なんじゃ、清盛きよもりかかってこないのか!」


 為朝ためとも清盛きよもりを挑発し矢を放つと清盛きよもりを護衛していた武士の体を貫通して武士は馬上から落ち、その様子を見ていた清盛きよもり配下の武士たちは動揺した。


「こいつは人間なのか? 奴の矢は盾すら貫く、鎧など無意味だ」

 清盛きよもり配下の武士たちは逃げ出したい気持ちを押さえながら、その場に何とか踏みとどまっていた。


 為朝ためとも清盛きよもりの前に立ちふさがり次から次へと矢を放ち、為朝ためともの強弓は清盛きよもりの郎党を次々にほうむる。


(なんという蛮勇ばんゆう、まるで鬼神のようだ)


 清盛きよもりは死の恐怖を感じ、「ここは退け、北門より御所を攻めよ!」と軍勢の向きを変え、為朝ためともの守る西門から退いた。


「話にならぬ、これが平家の武士もののふか」

 為朝ためともは逃げるように北門に向かう清盛きよもり勢を追わずに西門を守り続ける。


為朝ためとも勅命ちょくめいである! 退散せよ!」

 今度は大声を上げて兄である義朝よしともが攻めてきた。


「兄者よ、こちらは院宣いんぜんをお受けしている。兄者こそ退散せよ!」

 為朝ためともも大声で義朝よしともに言い返す。


 義朝よしともは「兄に弓を引けば神仏の加護を失うぞ!」と、坂東武者ばんどうむしゃ200騎を率いて西門に攻撃を仕掛けてきた。


(何が神仏のご加護だ!親兄弟で殺しあっているのだ、どちらも地獄行きに決まっておろう)


 為朝ためともはそんなことを思いながらも、義朝よしとも配下の坂東武者ばんどうむしゃ達に向かって矢を放つ。


 先ほどの清盛きよもりの郎党とは違い、戦いなれて武勇に優れる坂東武者ばんどうむしゃだけあって為朝ためとも強弓ごうきゅうでもひるむことなく次々と西門に向かってくる。


 為朝ためとも勢も必死に応戦したが、為朝ためとも勢28騎に対し、義朝よしとも勢200騎と多勢に無勢もあり、為朝ためとも勢は徐々に後退し始めた。


 それでも為朝ためともは西門の前に立ち塞がり、武勇に名高き坂東武者ばんどうむしゃでさえ恐怖を覚えるほどの戦いぶりで西門を死守していた。


(くそ、これ以上は持たぬか)


 為朝ためともは手勢が半分以下になったのを見ると、西門の中に退き守りを固めたが、義朝よしともが放った火矢のおかげで、西門内の建物には逃げ場がないくらい火が回っていた。


(もはやこれまでか)


 為朝ためともが諦めかけた時、西門内の一つのお堂が目に留まる。

(たしか、あのお堂にはたくさんの観音像が祀ってあったな。死ぬ前に仏に手でも合わせるか。まあ、柄ではないがな……)


 為朝ためともは観音像が祀られているお堂の扉を開けて中に入った。


 お堂の中に入った為朝は何十体とある観音像を見て驚いた。


(これは圧巻だな。こんな場所があったなんて)


 為朝が観音像を見ていると奥の方に光り輝いている観音像があるのに気づいた。


 為朝が近づき、光る観音像の前に立つと急に空間全体が光に包まれ、目の前には優しそうな顔をした男性とも女性ともわからない慈悲に溢れた観音様が為朝を見つめている。


「そなたは生き残りたいか? もしそなたが生き残りたければ今から別世界に転移させよう。その世界を救ってあげて欲しい!」


 観音像の口は動いておらず、言葉というより直接頭の中にメッセージが入ってくるような不思議な感覚に包まれる。


(不思議な感覚だ、温かくて安心できる)


「わかった、その世界を救おう、それ故、生かして欲しい」


「そうか、では、頼んだぞ!」


 観音像の光の強さが更に増して、為朝は急に強烈な眠気に襲われ、意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ