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1559年2月 家臣たちへの褒美



永禄二年(1559年)二月 尾張国(おわりのくに)鳴海城(なるみじょう)




 永禄(えいろく)二年二月十八日。ここ鳴海城にて尾張侵攻の論功行賞が行われる日がやって来た。この日まで降伏してきた元織田家(おだけ)の家臣たちは、城外の武家屋敷を間借りし、三~四人ほどが一軒を借りて論功行賞の日まで暮らしていた。待ちに待ったこの日、鳴海城の評定の間には多くの家臣たちが詰めかけ、入りきれない者は外の廊下にまであふれて着座し、主である高秀高(こうのひでたか)が現れるのを待っていた。


「殿のおなりです。方々頭を下げてください。」


 その評定の間に、取次の小高信頼(しょうこうのぶより)が入ってきて家臣たちに伝えると、家臣たちは一斉に頭を下げた。そしてその後、その評定の間の上座に秀高が着座し、その脇に信頼が感状が載せられた木箱を持ちながら座った。


「面を上げよ。」


 その秀高の一言に反応し、家臣たちは静かに頭を上げた。秀高はその家臣たちの一人一人の顔を見つめると、一呼吸を置いて言葉を発した。


「皆、今回の尾張侵攻は良く働いてくれた。お前たちのお陰で俺は尾張一国を手中に収めることが出来た。心より、礼を言う。」


 秀高はそう言うと、家臣たちに向かって頭を下げた。そして秀高は頭を上げると更に言葉を続けた。


「ここに尾張一国の統一を祝し、この論功行賞を行って皆の働きに報いたいと思う。まず、森可成(もりよしなり)!!」


「ははっ!!」


 その秀高の呼びかけを聞いて、下座の三浦継意(みうらつぐおき)の隣で座っていた可成が応じ、前に進み出て秀高の目の前に座りなおした。


「可成、お前がいなければ織田家の打倒、ひいては尾張一国の統一も成せなかっただろう。その働き大なるを賞し、ここに家老の職と同時に、筆頭家老に次ぐ次席家老の任を与える。今後は高家のため、その力を貸してくれ。」


「ははっ!ありがたきお言葉。恐悦至極に存じ奉りまする!」


 可成がその言葉を発したと同時に、信頼は木箱より可成宛ての感状を取り出し、それを可成へ手渡しした。それを可成は神妙に受け取り、秀高に感謝するように感状を両手で前に掲げ、そのまま一礼してその場から下がって元の位置に座った。


「続いて、三浦継意!」


「ははーっ!!」


 秀高の呼びかけに応じ、今度は継意が前に進み出て、秀高の目の前に座った。


「継意、犬山城(いぬやまじょう)攻略の戦功を賞し、お前を犬山城代とする。今後は城代家老として働いてくれ。」


「殿、畏れながら城代家老というのは…」


 聞きなれない役職の名を聞いた継意は、秀高に対して城代家老の役職を説明するように求めた。


「あぁ。城代家老は今回新しく設置した役職で、主に命じられた城や近隣の砦・村々の庶務を執り行う。基本の家老職としては月番で交代し、それ以外は城代の地で庶務に当たってもらうことになる。」


「つまりわしの場合は、犬山城とその周辺の村々の庶務をお任せいただけるという事ですか?」


「そういうことだ。月番で交代が回ってきた時には、俺の城に登城してきて決裁の書状に署名したりと政務に携わってもらう。それが城代家老の職務だ。」


 この一連の会話を聞いた継意は、謹んで頭を下げ、目の前の秀高に向かってこう言った。


「しかと承りました。城代家老の、そして筆頭家老としての職務、全うして見せましょうぞ。」


 その継意の言葉を聞いて秀高は頷き、信頼も木箱から継意宛ての感状を継意に手渡し、継意はそれを神妙に受け取って、秀高に感謝の意を示したのだった。この日、この城代家老に任じられたものは他にもいた。


 即ち、簗田政綱(やなだまさつな)はそのまま沓掛城(くつかけじょう)の城代家老として仕え、秀高に仕えた丹羽氏勝(にわうじかつ)は、末森城(すえもりじょう)再建までの間、居城の岩崎城(いわさきじょう)の城代家老として任じられたのである。


「続いて、大高義秀(だいこうよしひで)!」


「おう!」


 秀高の呼びかけを聞いた義秀はそのまま勢いよく立ち上がり、秀高の前に座った。


「義秀、お前の働きは実に見事だった。その働きに応え、お前に知行として一万石を与え、加増によってお前の働きに報いたいと思う。」


「ありがてぇ!これで俺も家臣を召し抱えることが出来るってもんだぜ!」


 義秀が秀高の言葉に喜ぶと、信頼から感状を受け取って更に礼を述べた。この義秀のように、この戦いに参加して武功を立てた者、また大将首を多く上げた者は秀高によって知行加増の恩賞を受けた。義秀や盛政ら家老職に就く者達は概ね一万石前後の加増を受け取った。この加増は、城代家老に任じられた者達も一律に受け取った。


 また、滝川一益(たきがわかずます)山内高豊(やまうちたかとよ)ら馬廻出身の武士や元織田家所属の武士たちも、一律に五千石前後の加増を受け、帰順してきた蜂須賀正利(はちすかまさとし)らも加増として二千石ほどを貰い受けたのである。


「続いて…(はな)さん。」


「はい。」


 と、その中で秀高は義秀の隣で論功行賞の場に参加していた華の名前を呼んだ。すると華はスッと立ち上がり、他の家臣たちと同様に秀高の前に座った。


「華さん、今回の戦いで数多くの武功を上げてくれて、感謝しています。華さんには四千石を加増し、この戦功に報いたいと思います。」


「まぁ、四千石も頂けるなんて…そのお計らい、厚く御礼申し上げます。」


 秀高に向かって華はお礼を述べると、信頼から感状を貰い受け、それを大事に受け取った後秀高に向かって頭を下げた。この時、その評定の間にいた家臣たちは、華の働きを知っていたためにその加増は妥当だと考え、同時に女性である華が加増を受けて武士の一員になったことに目を見張る者もいたのである。


「続いて、織田於菊丸(おだおきくまる)!」


「はい!」


 秀高はその場にいた、幼子の於菊丸の名を呼んだ。それに於菊丸は元気よく返事をして答え、後見を行っていた織田信包(おだのぶかね)に連れられて秀高の目の前にひょこっと座った。


「於菊丸。お前を清洲城(きよすじょう)の城代家老として任ずる。だがお前はまだ幼い。そこでお前が元服するまでの間、その職務を信包に代行させてもらう。於菊丸、その事をしっかりと覚えておくんだぞ。」


「はい!」


「…信包、くれぐれも於菊丸元服までの間、職務代行を任せるぞ。」


「お任せくださいませ。殿が応えてくださった織田家再興の願いに、この職務を見事にこなして応えましょう。」


 信包は於菊丸の代わりに秀高に頭を下げ、その役目を請け負うことを約束した。ここに於菊丸の清洲城代就任によって織田家再興は一応の成就を見て、秀高に寝返った織田家家臣たちは心より安堵していた。


「…これで全員に行き渡ったか。」


 それからしばらくした後、その場にいた全員に感状を配り終えたことを確認した秀高は、改めて家臣たちの顔を見た。その家臣たちの大半は働きが認められたことによる喜びの顔で満ちていた。


「うん。あらかたの感状は配り終わったよ。」


「そうか…よし、皆。ここで大事な事がある。」


 信頼の回答を聞いた上で秀高は、上座より家臣たち話の内容を変えるように語りかけ、その大事なことを伝えた。


「実はこの度、本拠地をこの鳴海から那古野(なごや)に移そうと思う。」


「なんと…那古野にですか。」


 と、その秀高の言葉を聞いて継意が声を上げて反応し、秀高に尋ね返すように視線を秀高に送った。


「あぁ。ここでは尾張統治の拠点には向かない。今事前に盛政(もりまさ)に命じて那古野城近辺に武家屋敷を造らせている。完成は三月下旬を見込んでいるが、完成次第に本拠地を那古野に移転する。」


「では、この鳴海はどうなるので…?」


 と、その秀高の考えを聞いて継意が懸念を示すと、秀高は継意の意見を聞いて頷き、その答えを告げた。


「それについてだが、佐治為景(さじためかげ)を鳴海城の城代家老に据え置き、為景と政綱で今川(いまがわ)の監視を請け負ってもらおうと思っている。そうすれば、今川やその配下の松平元康(まつだいらもとやす)の動きをけん制できるはずだ。」


「殿、そのお役目、しかと承りました。鳴海城の事、この佐治為景にお任せくださいませ。」


 その秀高の考えを聞いた為景は、秀高に向けて一礼して任務を帯びた。これをみて継意も懸念が晴れたように秀高に向かってこう言った。


「そのようにお考えならばこのわしもいう事はありませぬ。では…皆々の那古野への引っ越しは三月末でございますか?」


「あぁ。一応出来上がった武家屋敷にその都度、こちらから命令する形で引っ越しをしてもらう。あくまで引っ越しの全てが完了する目安が三月末と考えてもらえばいい。」


「分かりました。しからばそのように準備を始めまする。」


 その継意が言った一言と同時に、継意と家臣たちは一斉に頭を下げて秀高に賛同を示したのだった。それを受け取った秀高は、その場にいる一同に向けてこう言った。


「よし、今後は那古野城を居城にして尾張の統治をおこなう!皆もそのつもりで働いてくれ!!」


「ははーっ!!」


 その秀高の宣言に応じるように、家臣たちは再び頭を下げたのだった。こうして論功行賞は順当に終わり、その褒美に満足した家臣たちは秀高への忠誠を深めていったのであった。


 そして家臣たちに引っ越しを告げた後、秀高と(れい)たち一門、並びに家老たちはいち早く、それから数日のうちに那古野城へと引っ越していったのである。





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