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1568年7月 四家が集めし家臣団



康徳二年(1568年)七月 山城国(やましろのくに)伏見城(ふしみじょう)




 そして一週間後の七月十八日。伏見城表御殿の大広間に山内高豊(やまうちたかとよ)一豊(かずとよ)兄弟、神余高政(かなまりたかまさ)高晃(たかあきら)兄弟、深川高則(ふかがわたかのり)毛利長秀(もうりながひで)の六人が各々の採用した総勢二十名以上の家臣を引き連れて高秀高(こうのひでたか)の面前に姿を見せた。秀高は上座にて高政らとその背後に控える家臣たちを見据え、その下座に小高信頼(しょうこうのぶより)が控えて秀高同様に高政らが連れて来た家臣一同を一通り見ていた。


「うん…皆どれも頼もしい顔をしているな。高政、それに皆。良く集めて来た。」


「ははっ!!」


「まずは神余高政、並びに高晃兄弟。それに家臣団一同は秀高の面前に。」


 下座の脇に控える信頼がまず最初に秀高の前に進むように言ったのは、神余高政・高晃兄弟とその家臣十二名であった。高政と高晃は各々が集めてきた家臣たちを引き連れて秀高の眼の前に進むと、上座の秀高に対して召し抱えた家臣団の中から特筆すべき家臣を拾い上げて紹介した。


「殿、我らが採用した家臣の中で特筆すべき者はこの丸義太夫政久(まるぎだゆうまさひさ)と、弟が採用した原田団兵衛晃直はらだだんべえあきなおにございまする。」


「特にこの団兵衛、殿が知行を得た桶狭間(おけはざま)の産まれにて、殿が桶狭間での武功を現地で見て是非ともお役に立ちたいと申しておりまする。」


 と、高晃が手をかざしながら紹介した晃直の顔を見た秀高はふと、ある人物の顔が思い浮かんだ。それはこれより約十年前、桶狭間の戦いにて今川義元(いまがわよしもと)を討ち取った後、戦を避ける様に避難していた桶狭間の農民たちの顔を見た秀高が一番最初に手を取って声を掛けた百姓、与兵衛(よへえ)の顔であった。


「お前…あの与兵衛の息子じゃないか?ほら、桶狭間の戦の後に一番最初に手を取ったあの!」


「…如何にも!我が父を覚えておいでにございましたか!」


「あぁ、忘れてはいないぞ。与兵衛は息災か?」


 晃直は父・与兵衛の事を覚えていた秀高に喜びの感情を見せながら反応し、同時に父の事を尋ねられた晃直はその場で一人頭を下げながら秀高の問いに対して答えた。


「はっ。我が父は年を取りましたが常日頃より、必ずや大殿のお役に立てと申して参りました。そして此度、この高晃殿の御誘いを受けてこれぞ天祐と思い馳せ参じた次第!」


「そうか。団兵衛、今後は高晃、ひいては高政の側でしっかりと役に立ってくれよ?」


「ははっ!この命に替えましても!!」


 秀高の言葉を受けた晃直は意気込むようにして相槌を秀高に向けて返した。この他にも秀高の馬廻であった長狭格兵衛政景ながさかくべえまさかげに桶狭間の頃から従軍する足軽の塚原久蔵晃俊つかはらきゅうぞうあきとし、異色な者としては信頼の元で働いていた吏僚(りりょう)安達権兵衛晃重あだちごんべえあきしげ、更には伊藤惣十郎(いとうそうじゅうろう)の番頭で神余姓を受けた神余藤四郎政方かなまりとうしろうまさかたなど、多彩な家臣団を引き連れている神余家臣団は秀高の眼鏡にかない、ここに正式に神余家臣として認められたのであった。


「続いて…深川高則、並びに家臣一同は秀高の前に!」


「ははっ!」


 やがて神余兄弟とその家臣団が秀高の面前から下がった後、それと入れ替わるようにして信頼の呼び掛けと同時に高則が七人の家臣団を引き連れて秀高の目の前に着座すると、高則はその中の一人の若武者を自身の脇に座らせてからその者の事を秀高に紹介した。


「殿、まずは紹介したき者がおりまする。助松(すけまつ)!」


「はっ!お初にお目にかかりまする。深川高則が弟・深川助松(ふかがわすけまつ)にございます。此度兄の誘いを受け、深川家の家臣としてお仕えするべく参りました。」


 この深川助松、高則と同じ同郷の出身にて血を分けた弟でもあった。京にて活躍する兄の勇名を慕っての仕官を聞いた秀高はその風貌を気に入ると、首を縦に振ってから言葉を助松へ返した。


「そうか…ならば助松、仕官の祝いに俺の一字を授ける。今後は「高晴(たかはる)」の名を名乗ると良い。」


「…ははっ!格別のご高配を賜り、恐悦至極に存じまする!」


 こうして助松はこの場にて兄同様、秀高から一字を拝領する事となり名を「深川助松高晴ふかがわすけまつたかはる」と改める事となった。その成り行きを側で見ていた高則は上座の秀高に対して自らが召し抱えた家臣団の中で、特筆すべき一人の屈強な武士を手で示しながら紹介した。


「殿、我が深川家の特筆すべき者は、この狩野三蔵則吉かのうさんぞうのりよしにござる。この者(それがし)と同郷にて地縁を元に誘ったところ二つ返事で承諾いたしました。」


「狩野三蔵にござる。誘って頂いた高則のご期待に沿うべく、粉骨砕身にて励む所存!」


「うん、勇ましい風貌にぴったりの言葉だ。その武勇を期待しているぞ。」


「ははっ!!」


 上座の秀高より言葉を受けた則吉は、その場で頭を下げながら返事を秀高に返した。この他にも名古屋(なごや)在留の足軽武士であった大原兵庫則行おおはらひょうごのりゆき中原勘介則勝なかはらかんすけのりかつ小原五郎則正(おはらごろうのりまさ)という後に「深川三原(ふかがわさんげん)」と呼ばれる家臣なども秀高に目通りし、ここに高晴と深川家臣団は主君・高則の配下となって行動する事になったのである。


「続いて…山内高豊、一豊兄弟と家臣団一同。それに毛利長秀と家臣団も秀高の前に!」


「ははっ!」


 深川高則とその家臣団一同が秀高の面前から下がった後、脇にいた信頼は続いて山内兄弟とその家臣団、並びに長秀とその家臣団を一斉に秀高の眼の前に進むよう呼び掛け、それを受けた両家の者達は秀高の眼の前に進んでから座りなおした。すると信頼は視線を秀高の方に向けると両家の家臣団の事についてこう報告した。


「秀高、実はこの両家の家臣団なんだけど、山内家に関しては在来の家臣団を活用するとの申し出があったよ。」


「何?在来の家臣団?」


 信頼からその申し出を受けると、その真偽の程を下座の山内兄弟に尋ねた。確かにこの時、山内兄弟の背後にいたのは高豊にずっと付き従っている祖父江勘左衛門盛秀そぶえかんざえもんもりひでと子の祖父江新太郎一秀そぶえしんたろうかずひで、並びに今は亡き五藤浄基(ごとうきよもと)の子である五藤吉兵衛為浄ごとうきちべえためきよの姿があった。すると高豊は秀高の尋ねに対して率直に答えた。


「はっ、我ら山内家は元より抱える家臣がおり、それを活かしたく思いまする。無論それだけではなく、この者をお迎えいたした。」


安藤守就(あんどうもりなり)が弟・安藤太郎左衛門守重あんどうたろうざえもんもりしげにござる。此度親族でもある高豊殿の御誘いを受け、兄より許しを得て山内家の家臣にまかり越した次第。」


 一豊の脇に控えていたこの守重の挨拶を受けると、秀高は上座から山内家の家臣団を一通り見た。確かに少し人数は少ないものの各々の風貌は申し分なく、それを確認した後に秀高は納得するように深く頷いた。


「そうか…それで、長秀の家臣団は?」


「うん、長秀の家臣団も秀高直参の家臣を与力として貰い受けたいという申し出があって、代表として小瀬清長(おぜきよなが)堀尾泰晴(ほりおやすはる)吉晴(よしはる)父子など元織田家(おだけ)の家臣たちを配下にしたいそうだよ。」


「如何にも。殿、何卒それをお許しいただきたく…。」


 信頼の報告を受けた後に長秀の方を振り向き、長秀の背後にいた家臣たちの顔をそれぞれ確認した。そこには先程信頼が名を上げた清長や泰晴父子の他に、戸田勝成(とだかつしげ)勝隆(かつたか)兄弟の姿も見受けられ、長秀が迎え入れた家臣団を確認した秀高はその面々の顔に納得すると、両家の諸般の事情を鑑みた上で山内兄弟や長秀に向けて言葉をかけた。


「分かった。双方の申し出を受け入れるとする。だが専門的な技能を求めることに変わりはない。今後両家の家臣たちにはその技能を習得するべく修業を行ってもらう。双方の家臣たちには負担になると思うが、今後の為にもそれを履修してほしい。」


「ははっ、しかと承りました。」


 秀高の発言を受けて高豊が承諾する意思を示すように返事すると、それを聞いた秀高はこくりと頷いた後にその場に居並ぶ神余・深川を含めたすべての者に聞こえるような声でこう言葉を発した。


「よし、皆が集めてきた家臣たちを用いて、俺たちが考案する軍制を試験的に導入しようと思う。まずは神余・深川の二家の家臣団を運用試験に用い、山内・毛利の二家はその間に修業を修めてくれ。良いな?」


「ははっ!!」


 秀高の言葉を受けた下座の面々は声を上げて反応し、そして傍らにいた信頼は秀高に視線を向けながらも首を縦に振って頷いたのだった。こうしてここに秀高は自らが思い描く軍制を導入する為にも、自らの馬廻達に集めさせた家臣団を用いての試験的な軍制導入に踏み切った。そしてその力を試す事象がこの数か月後に発生する事のだが、この時の秀高らには全く思いもよらない事であった…





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