表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/556

1568年7月 家臣団集めの下知



康徳二年(1568年)七月 山城国(やましろのくに)伏見城(ふしみじょう)




 翌七月十一日。高秀高(こうのひでたか)の招きを受けて伏見城表御殿の大広間に六人の武将たちが招集された。その内二人は山内高豊(やまうちたかとよ)一豊(かずとよ)兄弟。そのまた二人は神余高政(かなまりたかまさ)高晃(たかあきら)兄弟、そして深川高則(ふかがわたかのり)毛利長秀(もうりながひで)の二人。いずれも知立七本槍(ちりゅうしちほんやり)として大いに武功を挙げた秀高直参の武将たちである。


「家臣を持て、ですか?」


 上座の秀高の家臣を持つようにという言葉を聞いた下座の家臣たちの中で、高豊が代表するように言葉を発して反応した。その高豊の言葉を家臣たちの右脇で小高信頼(しょうこうのぶより)が耳を向けている中で、秀高は反応した高豊の言葉の後に首を縦に振ってから言葉を返した。


「そうだ。俺はいずれ新たな軍制を導入しようと思う。その前に俺の直轄の軍勢で試験的に導入するんだが、その采配をお前たちに任せる為にも各々、裁量で家臣たちを持って欲しい。」


「さ、されど殿。我らはまだ足軽大将ほどの知行しか頂いておりませぬ。家臣を持てと言われまするが今の現状では厳しい物がありまする…。」


「その点に関しては心配いらないよ。」


 高政の不安を聞いた信頼が言葉を挟んで意見を述べると、信頼は下座にて秀高と対面する高政らに向けて視線を向けつつ言葉を続けた。


「既に秀高と話し合った結果、神余家、山内家、深川家、毛利家の四家は奉行職相当の二千四百石に引き上げる事にしたんだ。」


「なんと、二千四百石に加増にございまするか!?」


 この加増の内容を聞いて高則が大きく驚いた。いや、そう驚くのも無理はないだろう。というのもこれほどの抜擢は岸和田(きしわだ)城代となった高浦秀吉(たかうらひでよし)以来の大加増であり、一馬廻がここまで引き上げられることに下座にいた武将たちは余りにも信じられないような表情を各々に見せていた。それらの驚いた表情を上座から見ていた秀高は、驚いて言葉を発した高則の後に言葉を下座の面々に向けて返した。


「そうだ。それほどの知行があれば各々家臣を持てるだろう?それで各々で家臣を集めて欲しい。」


「は、ははっ!その命、しかと承りました!」


「…ただし、その家臣に際してこちらからある条件がある。」


 と、秀高は声色を少し低くして一言そう言うと、下座の面々に向けてその条件の内容を伝えた。


「家臣を集める際にはなるべく、下級の足軽武士や騎馬武者、鉄砲足軽など戦闘経験が豊富な専門武士を積極的に登用しろ。」


「専門的な武士?」


 この秀高の下知こそ、昨日に中村貫堂(なかむらかんどう)との話し合いの中で思い付いた内容であった。つまり秀高は高政・高豊らの知行を引き上げると同時に家臣を馬廻や足軽などの下級武士という前線に立つ専門職から積極的に登用するよう促した。これこそ秀高が導入を目指す師団制に必要不可欠な内容であったのである。


「それが今後導入しようと思う兵制の大事な肝になる。ともかく足軽・騎馬・鉄砲の専門的な技能を持つものを積極的に登用してやれ。良いな?」


「…殿。この山内高豊、申し出たき事がありまする。」


 と、この下座に控える面々の中で少数ながら自前の家臣を持つ高豊が、前に一つ進み出た後に頭を下げつつ上座の秀高にある事を頼み込んだ。


「何卒、この一豊を我が家臣にお加えいただきたく思いまする。」


「兄上!?」


 このいきなりの提案を受けた弟の一豊は大きく驚いた。この時一豊は兄と同様、形の上では秀高より禄を頂戴していた。だが実際的には高豊と同じ家に寄寓(きぐう)していた為にこの際に高豊は自身の与力として付けてもらえるよう秀高に談判したのである。するとこの談判を聞いた高政もまた、上座の秀高に向けてこう頼み込んだ。


「殿!願わくばこの高政も弟・甚三郎(じんざぶろう)を家臣にお加えする事をお願い致す!甚三郎も言わば足軽武士を経ておりまする。技能ならば申し分はありませぬ!」


「殿!どうか兄の申し出、よろしくお願い申し上げる!」


 高政の言葉を受けると一豊とは対照的に、甚三郎高晃じんざぶろうたかあきらは身を乗り出して秀高に兄の願い出を聞き届けてくれる様に頼み込んだ。その行動を見た秀高は上座から各々の顔を一通り見た後に首を縦に振ってから言葉を発した。


「分かった。ならばこれより高晃を高政の与力として付ける。今後は兄の事を補佐してやれ。」


「ははっ!しかと承りました!」


「…一豊はどうだ?兄の申し出をどう思う?」


 と、秀高は視線を高晃から一豊へと向け、同じ兄である高豊の申し出についての所見を尋ねた。すると一豊は側にいた高豊と顔を見合わせた後、何かを決心するかのように首を縦に振ってから秀高へ言葉を返し返答した。


「…いえ。この(それがし)に不服はございませぬ。この山内一豊、謹んで兄の与力になりとうございまする!」


「よく言った!ならばこれよりは高豊の与力を命ずる!兄をしっかり補佐してやれよ。」


「ははっ!!」


 秀高からの言葉を受けた一豊は深々と頭を下げるように感謝の意を秀高に示した。秀高はそれを上座から見て受け取ると、そのまま下座の面々の顔を一通り見て、何の不服もない事を確認すると下座の面々に向けて家臣団集めの事に際して期限を伝えた。


「期間は一週間後の十八日までとする。それまで各々、家臣集めに奔走すると良い。では解散!」


「ははっ!!」


 その言葉を受けると下座にいた面々は一斉に頭を下げて声を発し、ここに高豊・一豊兄弟、高政・高晃兄弟、高則に長秀は各々の召し抱える家臣団の登用を行う事となり、揃って秀高のいる大広間を後にしていった。




「家臣集め、か。」


「長秀殿、如何なさるかな?」


 やがて一団の先頭を進み、伏見城の本丸から出て大手門を(くぐ)った長秀に対して高則が背後から声を掛けると、長秀は声を掛けて来た高則の方を振り返ると家臣団の目星について語った。


「いや、ここは尾張(おわり)統一時に加わった旧織田家(おだけ)の武将たちに声を掛けてみようと思う。それこそ小瀬清長(おぜきよなが)堀尾泰晴(ほりおやすはる)辺りに声を掛ければ自ずと応じてくれるであろう。」


「左様でございますか…。」


 長秀の目星を聞いて高則が納得するように相槌を打つと、その言葉を聞いた長秀はこくりと首を縦に振ると(きびす)を返し、そのまま城の外へと出て行った。そして高則は長秀の目星を聞いた上でその場でしばし考えこむと、呟くようにして一言こう言った。


「それにしても…弟、か。まずは助松(すけまつ)にでも声を掛けてみるか。」


 高則もまた目星を見つけてそう言うと長秀の後を追いかけるようにしてその場を去っていった。やがて二人が大手門から去っていくと続いてその場を神余兄弟が通りながら互いに言葉を交わしていた。


「さて…甚三郎よ、どの辺りから声を掛けてみるか。」


「そうだな…まずはこの伏見、ひいては名古屋(なごや)在住の武士たちを探ってみよう。目に(かな)う者が必ずおろうぞ。」


「よし、ならば甚三郎はこの伏見を任せる。俺は名古屋まで足を運んで人を募って来よう。」


「うむ。では健闘を祈るぞ兄上!」


 高政と高晃がそれぞれ分担する様にして家臣を集める場所を決めると、互いの健闘を祈るようにして大手門を潜ってから枝分かれする様にして別々にその場を去っていった。そして残る山内兄弟もまた大手門を潜りながら、それぞれの目星を遠巻きで見ていた後に一豊が兄の高豊に(はか)った。


「兄上、他の者達はそれぞれ声を掛けに向かいましたが、我らはどうしますか?」


「うむ…一豊、ここは手持ちの家臣に加えて他の武家に探りを入れるか。」


「探りを?」


 高豊の言葉を聞いて一豊がオウム返しをするように聞き返すと、高豊は一豊の言葉に首を縦に振ってから言葉の続きを述べた。


「例えば…安藤守就(あんどうもりなり)殿の弟・守重(もりしげ)殿は我が姉の夫であり、尚且つ鉄砲の扱いに長けておると聞く。ここは兄の守就殿に頼み込んで家臣にお迎えしたいと当たってみようぞ。」


「承知。ならばすぐにでも参りましょうぞ!」


 一豊は兄の言葉を受けて意気込むようにそう言うと、兄と共に大手門を潜った後に一緒にしてどこかへと向かって行った。こうして秀高よりの主命を受けた各々は一週間の間、それぞれ目に(かな)う者達を()りすぐり、そしてその一週間後、各々はそれぞれが集めてきた家臣たちを連れて伏見へと戻ってきたのである。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ