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1568年5月 金髪碧眼の侍



康徳二年(1568年)五月 和泉国(いずみのくに)(さかい)




「…秀高さん、この人が保護した外国人ですか?」


 堺の今井宗久(いまいそうきゅう)の商家にて保護した金髪碧眼(きんぱつへきがん)の外国人を目の前にして、高秀高(こうのひでたか)に対して小高信頼(しょうこうのぶより)の正室・(まい)が尋ねると、秀高は舞の方に視線を向けた後に頷いて答えた。


「あぁ。藤吉郎(とうきちろう)が言うには南蛮人から身柄を預かってこの屋敷で保護しているそうだが、宗久が知り合いの宣教師に尋ねたところ宣教師が話す内容の辻褄(つじつま)が合わない様なんだ。だけど藤吉郎が宣教師を介してどこから来たのかと尋ねたところ、「アメリカ」という国から来たと言ったらしい。」


「アメリカ…。」


 秀高の発した国名を聞いて正室の(れい)が言葉をオウム返しするように発した。それを聞いて大高義秀(だいこうよしひで)や正室の(はな)が驚いている(かたわ)らで秀高はこくりと頷いた後に玲に向けてある事を尋ねた。


「…玲、そう言えばお前確か海外に姉妹都市交流の一環でアメリカへホームステイに行った事があったよな?」


「うん、まぁ…小学生の頃の話だけどね。でもそのお陰で英語は今でも日常会話なら難なく話せるかな。」


「ほう、奥方は海の向こうに行かれた事があるのですか。」


 秀高と玲の会話を聞いた三浦継意(みうらつぐおき)が感嘆するように言葉を発すると、それを聞いた玲は少し恥ずかしそうに継意に対して言葉を返した。


「えぇ、少しの間ですけどね。じゃあ秀高くん、一応英語で話せるかどうか聞いてみる?」


「あぁ。念のためによろしく頼む。」


 秀高の言葉を受けた玲はこくりと頷くと、やや不安そうな表情をしている外国人に近づくと英語を用い、優しい口調で尋ねた。


「Do you speak English?」


「…Yes. 」


 すると玲の英語を聞いた外国人はそれまでの不安そうな表情を一気に吹き飛ばすかのように明るくし、首を縦に振りながら反応した。その言葉を聞いて英語が話せる事を確信した玲は外国人に対し英語で身元を尋ねた。


『お名前は何て言うんですか?』


『ニコラスだ。ニコラス・マーカンド。』


『ニコラスさん、ですか。他の方から聞いたんですけど、貴方はアメリカから来たんですか?』


『そうだ。気が付いたらここに飛ばされて途方に暮れていたんだ。ここは日本なんだろう?』


『えぇ…そうなんですけど…』


「どうかしたのか?」


 と、玲が外国人…ニコラスとの会話の最中に言い淀んだのを察した秀高が玲に話しかけると、玲は背後にいた秀高らの方を振り返ると言い淀んだ訳を話した。


「この人、ニコラスさんはここが日本だってことは分かっているみたいだけど、ここに来てからの周りの光景や雰囲気を見て困惑しているみたいだね。」


「そうか…じゃあ玲、ニコラスにこう言ってくれ。」


 そう言うと秀高は玲の耳元へ近づき、耳打ちで(ささや)くようにして話す内容を伝えた。それを聞いた玲は一回驚いた表情を見せたものの秀高にこくりと頷いて会釈をすると、再びニコラスの方を振り向いて英語で秀高から伝えられた内容を告げた。


『…ニコラスさん、今から話す話はニコラスさんにとって余りにも信じられない話ですけど、どうか落ち着いて聞いて下さい。今は西暦1568年の1月16日でここは京都(きょうと)から離れた堺という街の中です。』


『…1568年だって?そんな訳はない!なんでいきなり500年も前に飛ばされなきゃならないんだ!?』


『…ニコラスさん、失礼ですけど貴方が会った宣教師の方々、皆さんスペイン語かポルトガル語を話していませんでしたか?』


『そう言えば…確かにあの宣教師、どこか古めかしい雰囲気がしていた…。』


 と、玲の流暢な英語とその内容を聞いてニコラスが考え込んでいると、その様子を見ていた秀高が英語で会話していた玲に向けて声を掛けてこう提案した。


「玲、俺もニコラスと話がしたい。俺の言葉を彼に伝えることは出来るか?」


「出来ることは出来るけど…なるべく難しい言葉は使わないでね?」


「あぁ。善処する。」


 玲が秀高の言葉を受けて不安そうにそう言うと、それを受けて秀高はこくりと頷いて言葉を発した。それを受けた玲はニコラスと秀高の会話を通訳して二人自然に会話できるように秀高とニコラスとの会話を手助けし、その補佐を受けながら秀高は疑似的にニコラスとの会話を始めた。


「ニコラス、ここの状況については彼女が言ったとおりだ。俺は高秀高という。お前に分かりやすく言うと侍であり、広大な土地を支配する領主でもある。」


『高秀高…もしかしてあなたが大名という武士の頭取か?』


「大名を知っているのか?」


 ニコラスの言葉を受けて秀高が驚くと、その反応を玲の通訳を受けて知ったニコラスはこくりと頷いた後に胸に手を当てながら言葉を秀高にかけた。


『実はこの私、小さいころから日本という国に興味があって、はるばる日本まで来て城や寺院を観光しに来ていたんだ。そこである寺院を訪れていたら急に視界が真っ暗くなって、気が付いたらここに来ていたという訳なんだ。』


「そうだったのか…ニコラス、お前に一つ言っておきたい事があるが、俺や通訳してくれている彼女、それに俺の右側に座っている四人は皆お前と同じ現代から転移して来たんだ。」


『現代…?じゃあ貴方は現代で生活していたのか?』


 秀高の言葉を受けてニコラスが秀高や玲、それに秀高の右側に固まって着座していた義秀らの姿を目で見ながら驚いた。そんな反応を見た秀高はこくりと頷いた後にニコラスへ言葉を返した。


「そうだ。言わば俺たちもこの戦国乱世に飛ばされてきた者同士って訳だ。」


『そんな…現代人が大名になっているなんて…。』


「信じられないだろう?まぁ無理もないさ。だが俺やここにいる皆、この世界に飛ばされてきた以上はこの戦国乱世を鎮めて太平の世を築くつもりだ。ニコラス、お前さえよければ俺たちと一緒に働いてくれないか?」


 そう言うと秀高はニコラスの目の前に手を差しだした。その提案を玲の通訳を通じて知ったニコラスは指し出された手をじっと見つめながら、しばらく思案を巡らせた後に呟くようにして言葉を発した。


『…ここで断ってもこの世界で生活できる自信はない。ならばお互い気脈を通じ合えるところで過ごした方が良さそうだな。』


「ニコラス…じゃあ?」


 玲の通訳を受けてニコラスの言葉の内容を知った秀高が言葉を発すると、その言葉の後にニコラスが秀高の差し出した手を取って握手を交わし、秀高の顔をじっと見つめながら決意を込めて秀高に告げた。


『秀高…いやご主人様。どうか今後ともよろしく頼みます。』


「そうか…そう言ってくれると何よりだ。今後ともよろしくな、ニコラス。」


「…話は纏まったみたいね。」


「えぇ、その様ですなぁ…。」


 玲の通訳を介した秀高とニコラスの疑似的な会話の内容を、秀高の左側で黙って聞いていた静姫(しずひめ)が継意の耳元でこう言葉を発すると、継意は二人の姿を見つめながら頷いて答えた。その視線の先にいた秀高とニコラスが握手を交わした後、秀高は側にいた信頼に向けて話を振った。


「信頼、ニコラスを雇うからにはどこか適当な土地を与えて俸禄を与えてやろうと思う。どこか良い場所はないだろうか?」


「そうだね…」


 その秀高の言葉を受けた信頼は懐から簡素な知行帳を取り出すと、その場で書物を(めく)りながら確認すると、その中のある情報を見つけて秀高に言葉を返した。


「あ、尾張(おわり)国の中村(なかむら)に空きがあるね。中村に二百四十石の知行地を設定するよ。」


「そうか。じゃあニコラス、中村に二百四十石の給料を与える。詳しい仕組みはあとで教えるが、これでここでの生活に困ることはないだろう。」


『ありがとうございます。ご主人様の恩情を決して忘れません。』


 秀高の気配りを受けたニコラスは頭を下げて感謝の意を秀高に示した。それを見た秀高はニコラスの姿を微笑んで見つめ、傍らにいた義秀らもじっとニコラスの姿を見つめていた。こうしてここに戦国乱世に転移して来たニコラスは秀高から尾張に知行を受けると武士として秀高に仕え、その際秀高より知行地から名前を取って「中村貫堂(なかむらかんどう)」という名前を賜った。ここに秀高の家中にまた個性的な家臣が加わったのである…。





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