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1567年10月 浅井家との縁組



康徳元年(1567年)十月 山城国(やましろのくに)伏見城(ふしみじょう)




 それから数日後の十月十八日、高秀高(こうのひでたか)らは畿内(きない)での居城である伏見城に帰城。留守居を務めていた尾張(おわり)清洲(きよす)城主・織田信澄(おだのぶずみ)と補佐役の織田信包(おだのぶかね)織田信治(おだのぶはる)らの出迎えを本丸表御殿にて受けていた。


「殿、徳川家(とくがわけ)とのご縁談、万事滞りなく済み祝着至極に存じまする。」


「うん。これで三河(みかわ)殿との仲は更に強固な物となった。これを見れば上杉輝虎(うえすぎてるとら)も容易に三河や遠江(とおとうみ)へ手出しは出来ないだろう。」


「されど、その家康(いえやす)殿は駿河(するが)への野心をお持ちであるとか?」


「あぁ、それか…」


 秀高に対して信澄が家康の野心の事を語ると、秀高はその発言に苦悶するように視線を脇に逸らした。するとその様子を見ていた筆頭家老の三浦継意(みうらつぐおき)がその場にいた信澄らに向けて代弁するように言葉を発した。


「徳川殿は表向きの大義名分として、駿河の政情不安を引き起こす今川氏真(いまがわうじざね)を追放するとしていて、同時に殿へ幕府のお墨付きを得るように促して参ったのじゃ。」


「…殿、如何するつもりなのです?今この状況で駿河に手を出せば、蜂の巣を突っつくようなもの。万事無事とはいかぬかと。」


「いや、ここは思い切って幕府に働きかけてみるべきかと。」


 婚礼の御礼参りに参上していた刈谷(かりや)城主・久松高家(ひさまつたかいえ)の発言の後に強い口調で進言したのは、家臣の竹中半兵衛重治たけなかはんべえしげはるである。半兵衛は上座の秀高の方に姿勢を向けると発言の続きを述べた。


「いくら関東(かんとう)に君臨する鎌倉府(かまくらふ)とはいえど、その上に立つ幕府からの命とあっては反発する事も出来ぬはず。徳川殿が考えあって駿河を得たいとしているのであれば、我らはそれを後押しするべきかと存じまする。」


「…そうか、分かった。継意、すぐにでも藤孝(ふじたか)殿ら懇意(こんい)にしている幕臣たちに働きかけを始めてくれ。」


「ははっ。心得ました。」


 秀高の発言を受けた継意は頭を下げて返事を返した。ここにおいて秀高は水面下で幕府への働きかけを行い始め、徳川家康の後押しをするように動き始めたのだった。


「…さて、今日は集まっているお前たちに向けて、一つある事を申しておきたい。」


「ははっ。」


 秀高は話題を切り替えるように家臣たちにそう言うと、肘掛けを前に持ってきて両肘をもたれかかる様に肘掛けに置いた。同時に秀高の言葉を受けてその場にいた家臣一同が秀高の方に姿勢を向けると、秀高は単刀直入に要件を切り出した。



安西高景(あんざいたかかげ)が息女・(すみ)を俺の養女とし、近江(おうみ)浅井高政(あざいたかまさ)に嫁がせる事とする。」



 その言葉を受けた家臣一同にどよめきが走った。秀高は浅井家とも婚を結ぶことによって自身の勢力基盤を更に固めることを表明したのである。その要件を聞いていの一番に反応したのは高家であった。


「な、浅井高政殿に?それは真にございまするか?」


「あぁ。聞けば高政は二十三歳。対する澄姫は十九歳だ。年齢的にも不釣り合いではないだろうし、この縁談が成れば俺たちは浅井家とも深い仲を持つことが出来る。」


「確かに…浅井家との縁を持つことになれば、近江や越前(えちぜん)の民情はより安定し尚且つ両国との間の商人の往来も盛んになりましょう。利益の面から見てもこの縁談に損はないかと。」


 秀高の言葉を聞いた後に半兵衛が婚姻の利点を語ると、その言葉を聞いて信澄が秀高へ懸念事項を述べた。


「しかし殿、徳川家に続いて浅井家とも仲を持つとなれば、京の中の幕臣たちは我々に少なからず警戒感を抱くことになりましょう。」


「信澄、お前の言いたいことも分かる。だが俺はこの縁談、損よりも益の方が大きいと思っている。それに高政は信義に厚い将だ。娘を嫁がせるには申し分はないだろう。」


「左様にございますか…」


 信澄が秀高の言葉を聞いて納得するように発言すると、そこに馬廻の山内高豊(やまうちたかとよ)が現れて秀高に報告した。


「殿、京より浅井近江守(あざいおうみのかみ)様が参られました。」


「なんと、高政殿が自ら参られたと!?」


「すぐに通せ!」


 高豊の報告を聞いて継意が声を上げた後に、秀高は直ぐにこの場へ通す様高豊に指示した。高豊はその下知を受けるとその場に高政と京留守居役である安居景隆(あぐいかげたか)安居景健(あぐいかげたけ)父子を通した。高政は景隆父子と共に秀高の目の前に腰を下ろすと、秀高に向けて頭を下げて挨拶を述べた。


「秀高殿、急な参上を(こころよ)く招いて下さり恐悦至極に存じまする。」


「高政殿、来訪の用向きは?」


 挨拶を受けた秀高が来訪の用向きを高政に尋ねると、高政はスッと頭を上げた後に秀高の顔を見つめながら用向きを告げた。


「聞けば秀高殿は数日前、重臣・安西高景殿のご息女を養女に向かえたと聞きまする。これは嫁ぎ先を探す為だと考慮致し、それならば是非とも、この浅井高政が貰い受けたいと参った次第にございます。」


「…は、はっはっはっ!そうか!」


 高政から発せられた発言を聞いた秀高は、我が意を得たように高らかに笑った。すると秀高はスッと上座から立ち上がると下座に控えていた高政へと近づき、目の前に座った後に高政の手を取って握手を交わしながら高政に言葉をかけた。


「高政殿、まさか貴方も同じ考えだったとは思いもよらなかった。何を隠そうその養女の嫁ぎ先、他ならぬ高政殿にとこの俺も考えていたんだ。」


「なんと…それは奇遇にございまするな!」


 秀高の発言を聞いた後に高政が喜ぶように笑みを浮かべながら反応し、秀高へ言葉を返すと秀高は手を握りながら高政の眼を見つめながら言葉をかけた。


「高政殿、この縁組は浅井と高がより固い絆に昇華するための物だ。養女にした澄姫は器量良く才気にもあふれている。きっと高政殿とお似合いの夫婦になるだろう。どうだろうか?この縁談、引き受けてくれるか?」


「無論にございまする!この浅井近江守高政あざいおうみのかみたかまさ、秀高殿…いや義父殿の為に今後とも力を尽くす所存!」


 そう言って高政は握られていた秀高の手の上にもう片方の手を乗せ、固い握手を交わすようにして振った。それを受けて秀高も笑みを浮かべながら握手を交わし、ここに両家の縁談は纏まったのである。




 その数日後、安西高景の娘である澄姫は秀高を養父、第一正室である(れい)を養母とした上で浅井家へと嫁ぎ、浅井高政の正室として婚礼を挙げた。その婚礼の席には実父である安西高景の他、稲葉良通(いなばよしみち)や秀高の名代として大高義秀(だいこうよしひで)夫妻が参列し、この婚礼によって両家は固い絆で結ばれることになったのである…





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