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1567年4月 夢の中の闘い



永禄十年(1567年)四月 ???




『そうじゃ…わしじゃ。今川義元(いまがわよしもと)じゃ。』


 辺り一面を白い霧が覆う中で高秀高(こうのひでたか)の視線の先にいたのは、今川義元を初め秀高によって討たれていった数々の武将たちの姿だった。秀高の視線の先に次々と増えていく武将たちを背に義元は秀高の問いかけに答えて自身の名を名乗った後、腰に差していた太刀を鞘から抜くと刀の切っ先を秀高に向け、不気味な笑みを浮かべながら秀高に言葉を返した。


『貴様に我が野望を阻まれた恨み…今こそ晴らしてくれよう…。』


「黙れ!死んだ人間が未練がましく付きまとって来るな!」


『おのれ…高秀高…』


 義元の言葉に秀高が毅然と反論した後、秀高の脇にまた新たな武将が姿を現した。秀高がその方角に視線を向けるとそこに立っていたのは、自らが手を掛けて殺した斎藤龍興(さいとうたつおき)とその家臣・斎藤飛騨守(さいとうひだのかみ)であった。


「お前たちまさか…龍興に飛騨守?」


『ひはははは…この時を待っておったぞ…秀高!』


 秀高の言葉を聞いた飛騨守は刀を抜いてそれを秀高に向けてかざすと、下卑(げび)た笑いの後に鋭い視線を秀高に向けて言い放った。


『ここに迷い込んだが貴様の最期よ…今わの(きわ)の言葉通り、呪い殺してくれる…』


「ここは…そう言う者達ばかりいるのか…」


 狂気に取り付かれた視線を送る飛騨守の表情を見て秀高が周囲を見回しながら腰に差していた刀を鞘から抜くと、突如として秀高に水野信元(みずののぶもと)が取り付くように抱き付いて来た。それを受けた秀高は即座に信元を振りほどくと刀を信元めがけて振り下ろした。


「ええい、離せっ!!」


『ぐわぁぁ…』


 秀高の一太刀を受けた信元は(うめ)き声を上げると同時にまるで砂が舞う様に身体が消え去っていった。それを見た秀高は再び義元らに向けて切っ先をかざすと一歩ずつ後ずさりした後に、くるっと後方を振り返るやその場から去るように走りだした。


『逃がすものか…貴様に無残に殺された恨みを思い知れ…』


「くそっ!!」


 逃げ去ろうとする秀高に追いつくように、義元ら怨霊と化した武将たちがスーッと近づくと秀高は後ろを振り返って近づいてきた鵜殿長照(うどのながてる)水野忠重(みずのただしげ)を斬り捨てた。斬り捨てられた二人が砂嵐のように消え去ると義元がなおも逃げる秀高に向けて語り掛けるように声を発した。


『どこへ逃げるつもりだ?すべて貴様が殺した者達だぞ…?』


「義元…そこまで俺が憎いのか?」


『そうじゃ!!』


 走り続けながら義元に秀高が問いかけ、義元が大声を発して反応すると秀高はそこで足を止めるや後ろを振り返って追いついてくる義元やその他の武将たちと相対した。すると義元は手にしていた義元左文字(よしもとさもんじ)の刀の切っ先を秀高に向けながら、怨念の籠った言葉を秀高に向けて語った。


『貴様が歯向かわなければ…我が野望は成就しておったのだ!!半端な気持ちで天下の中枢に立った貴様に、天下統一など夢物語に過ぎん!!』


「義元!!」


 義元の言葉を受けて秀高は意を決して義元に斬りかかろうとした。するとその時どこからともなく二本の矢が秀高の右腕と右肩にそれぞれ命中した。


「ぐっ、これは…」


『ふははは…秀高ぁっ!我等父子の矢はどうだ?』


「お、お前は…六角承禎(ろっかくじょうてい)…。」


 秀高が矢の飛んできた方向に視線を向けると、そこには秀高が上洛の際に謀略に嵌めて殺した六角承禎と子の六角義弼(ろっかくよしすけ)の姿があった。すると秀高の言葉を聞いた承禎が弓を構えながら秀高に視線を向けて言葉を返した。


『謀略に()めて我らを無残に殺しおって!!我らが鍛えし弓の腕前、その身で思い知るが良い!ふはははは!!!』


「くっ…腕の力が…」


 秀高が矢の刺さった右腕の方に視線を向けると、矢の刺さった箇所からまるで影が広まるように黒くなり、同時に秀高は腕の(しび)れを感じ始めた。秀高は刀の持つ手を左手に変えて切っ先を義元らに向けながら後ずさりすると義元らはここぞとばかりに近づき始めた。


『観念するが良い…秀高。貴様の精神をここで殺してやろう…』


『我らが怨念を…お前に宿して呪い殺してくれようぞ…』


 義元の言葉の後に龍興が言葉を発すると、その言葉を聞いた秀高はキッと義元らを睨みつけてその場で静かに怒りを露わにした。


「…ふざけるな。」


『ん?』


 義元がその秀高の言葉に反応したその時、秀高の右腕に広がりつつあった黒い影が刺さっていた矢ごとはじけ飛ぶように消え去り、痺れが消えた秀高は右手を刀の柄に掛けると構えなおして義元らを睨みつけて言い放った。


「お前たちの怨念に負けるほど、俺は落ちぶれちゃいない!」


『馬鹿な…まだ足掻くというのか!!』


 秀高の強靭な意志というべきものを感じ取った義元がその場で初めてたじろぐと、秀高は義元やその場にいた龍興ら諸将に視線を向けて毅然と言葉を返した。


「恨むならあの世から存分に恨むと良い。だがな、俺には天下平定という大志がある!それを成す前に死ぬわけにはいかない!」


『ぐわぁっ…』


 そう言うと秀高は襲い掛かってきた飛騨守を一刀のもとに斬り捨て、飛騨守の身体が消え去っていくと同時に刀を構えなおして義元らの前に立ちはだかった。


「さあ来い!俺の意思が勝つか、お前らの怨念が勝つか。勝負だ!」


『おのれ…猪口才な奴!!』


 義元は秀高の言葉を受けるといきり立ち、背後にいた元家臣の朝比奈親徳(あさひなちかのり)らに襲い掛からせた。だが秀高はそれらの攻撃を次々と捌くと同時に襲い掛かってきた親徳らを切り伏せていった。その中で秀高は龍興や承禎父子の姿を捉えると一瞬のうちに近づいてそれぞれ一刀の元で斬り捨てた。そしてその空間に義元一人だけとなると義元は後ずさりしながら秀高に向けて言葉を発した。


『ば、馬鹿な…怨念を物ともしないと申すのか…』


「義元、あの世で俺のやる事を黙ってみておくんだな!」


『ぐわぁぁ…』


 秀高は義元に対して一振りすると、その一太刀を受けた義元は呻き声を上げながら砂が舞う様に消え去っていった。そしてその空間に誰もいなくなったことを感じた秀高は刀を一払いした後に鞘に納めた。


「ふっ、さすがは高秀高。怨念相手に上手くやったものだな。」


「!?」


 その声に反応した秀高が納めた刀の柄に手を掛けて背後を振り向くと、そこには秀高にとっては最も因縁深い人物が立っていた。そして秀高はその人物の姿を見るやその名前を口に出して反応した。


「お前は…織田信長(おだのぶなが)?」


 秀高の目の前には、自分の事を未熟だと言い放った織田信長の姿があった。しかしその姿はかつて鳴海(なるみ)城外で相対した時の姿ではなく、秀高が想像していた織田信長像に近い南蛮渡来の鎧を着てその上にマントを身に纏っていた姿であった。信長は秀高とは違い、刀の柄に手を掛けずに秀高に近づくと義元らがいた方に視線を向けながら秀高にこう言った。


「そうだ。俺もあ奴ら同様、この世に未練があってこうして現れた。だが俺は別にお前に危害を与えようという訳ではない。お前に言いたい事があってこうして現れた。」


「俺に…言いたいこと?」


 信長から発せられた言葉を聞いた秀高は刀の柄から手を離し、話を聞く態勢を取った。すると信長は秀高の目の前まで近づくと腰に差していた一本の扇を手に持って秀高に語り掛けた。


「秀高よ、これからお前が目指す天下平定の為には今までの者たち以上に、より多くの敵を倒さねばならん。そして倒された者達は、死に際にお前への恨みつらみを残してこの世を去っていくだろう。」


「…」


 この信長の言葉を秀高は黙って聞いていた。信長は秀高の周りをぐるぐると回りながら歩き、ふと秀高の背後にて足を止めると秀高の肩を扇でポンと叩き、秀高の内心にあったある物を察する様にこう言葉を発したのだった。


「秀高よ、此度(こたび)のように怨霊どもがお前の精神に干渉してきたのは、お前の心の中に迷いが残っているからであろう。」





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