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1567年4月 秀高臥す



永禄十年(1567年)四月 河内国(かわちのくに)飯盛山城(いいもりやまじょう)




「…あ、秀高くん!」


 その日の夜、飯盛山城内の広間に敷かれた布団の中に寝る高秀高(こうのひでたか)が目を見開いた事に気が付いた(れい)が声を上げて反応すると、その周囲にいた静姫(しずひめ)小高信頼(しょうこうのぶより)らが一斉に秀高に向けて視線を送った。秀高は横になっていた布団の中から玲たちの姿を見ると目覚めてから始めて言葉を発した。


「玲…それに皆…。」


「良かった…目が覚めて本当に良かったよ。」


「全く、心配させるんじゃないわよ。あんたったらいきなり地面に倒れ込んだんだから。」


 床に臥す秀高に向けて静姫が言葉をかけると、秀高は周囲にいた木下藤吉郎秀吉きのしたとうきちろうひでよし木下小一郎秀長きのしたこいちろうひでなが兄弟を視界に収めながら自身に起こった出来事を尋ねるように言葉を発した。


「俺は、一体どうしたんだ?」


「殿、それについてはこのお方から話をお聞きくだされ。」


 秀高の言葉を聞くと秀吉は玲の隣にいた一人の医師から話を聞くように促した。すると秀吉の促しを受けたその医師は横になる秀高に向けて自身の名を名乗った。


「秀高殿、曲直瀬道三(まなせどうさん)にございまする。偶然このお城の近くにおりました所、ここにいる秀吉殿からお話を伺って診察に参った次第にございます。」


 この曲直瀬道三、(みやこ)の中で名医と称される医師であり、毛利元就(もうりもとなり)を始めとする数多くの大名などの治療に従事するなど実績を多く持つ医師であった。その道三の自己紹介を受けた秀高は横になりながら道三に向けて尋ねた。


「そうですか…それで道三殿、俺は一体どうしたんですか?」


「まぁ、早い話が過労による体調不良ですな。」


「過労…?」


 道三より発せられたその言葉を聞いて、秀高は呆れるような声を発して反応した。すると道三は秀高の言葉に首を縦に振って頷いた後、秀高に向けて直近の事を尋ねた。


「ここ数ヶ月の間、秀高殿はずっと気を張った状態が続いておったのではないですか?それによって知らぬ間に疲労が蓄積し、のみならず慢性的な不調も相まって今になって沸き上がる様に爆発したのです。」


「まぁ、言うなれば働き過ぎって事ね。」


「働きすぎ…か。」


 道三の言葉の後に静姫が横になる秀高に視線を送りながらそう言うと、秀高は視線を逸らしながら言葉を発した。すると道三は脇に置いてあった薬箱から薬を一包ずつ取りながら秀高に向けて言葉をかけた。


「まぁ(しばら)くは安静して疲労を取り除くことをお勧めいたします。一応疲労回復に効果のある薬を処方しておきましょう。」


「道三先生、ありがとうございます。」


 道三より薬を手渡された玲が秀高に代わって道三に感謝の意を述べた。するとその脇にて秀高に視線を向けていた秀吉が安堵するように言葉を秀高に向けて発した。


「しかし殿、大事に至らずにようございました…。」


「すまない藤吉郎、世話をかけたな…。」


「そう仰いまするな殿。今は大事が無い事を喜びませんと。」


 秀吉に続けて秀長が秀高に向けて言葉を告げると、それを聞いた秀高は視線を道三の方に向けると感謝するように言葉をかけた。


「道三殿、このご恩は必ずお返しします。」


「何の、そのような気遣いはご無用にございまする。また何かあればお気兼ねなくお呼びくださいませ。それでは…」


 秀高の謝意を受け取った道三はこう返答すると、その場から立ち上がって襖を開け、一礼した後にその場を去っていった。道三が去った後に玲が襖を閉めると秀高はその場にいた信頼に向けてこう言葉を発した。


「それにしても今の道三殿の言葉に従えば、当面はこの城に逗留する事になるな。」


「心配しなくても大丈夫だよ秀高。ほとんどの戦後処理は終わっているし、後はこっちで片付けておくよ。」


「そうか…」


 信頼の言葉を受けて秀高がそう答えると、静姫は気を引き締めるように膝を手でポンと叩いた後にその場で言葉を発した。


「さ、そうと決まったら私たちは秀高の看病をしなくちゃね。」


「いや、過労だって言っていたから寝てれば…」


「何を言ってるの!」


 秀高が言葉を発しながら起き上がろうとすると、静姫はそんな秀高の両肩に手を掛けて布団に押し戻すと、そのままの姿勢で秀高と真正面で向き合いながら言葉をかけた。


「良い?あんたはしばらくの間は安静にしなきゃならないのよ。食事や世話など身の回りのことは私たちに任せて欲しいわ。」


「そうだよ秀高くん。ここ数週間の間は何も考えずにゆっくり過ごして。」


「二人とも…分かった。」


 手を秀高の肩に掛けている静姫の横で玲が秀高に向けてこう言うと、秀高は二人の意見に負けるように頷いて承諾した。それを見ていた信頼は微笑んだ後に秀吉・秀長兄弟を連れてその場を去り、玲は横になっている秀高の側に付き添う一方で静姫は白湯を用意すべく信頼の後を追うようにその場を去っていった。それを見ていた秀高はいつしかゆっくりと瞼を閉じ、再び眠りに就いたのであった。




「ん?ここは…」


 眠りに就いていた秀高がふと気が付いて目を見開くと、辺り一面霧がかかったように覆われていた。秀高はぬうっと立ち上がって辺りを見回しながら、一歩ずつ前へ歩みを進めていくと、秀高はふと足を止めて前方の方に視線を向けた。


「!?」


 見るとその先の霧の中からぞろぞろと鎧に身を包んだ武者たちが姿を現した。そして更に驚くべきことは、秀高に取ってその武者たちはどこか見覚えのある者達ばかりであった。武者たちは目の前にいる秀高を視界に収めると、どこかおどろおどろしい声を発しながら近づき始めた。


『おぉぉぉ…やっとこっちに来よったか…。』


『貴様への恨み…果たす時が来たようだな…』


 秀高はその言葉を受けると目の前の二人の武者に目を配った。この武者こそ今は亡き水野信元(みずののぶもと)鵜殿長照(うどのながてる)であった。秀高はその二人の姿を視界に収めるや後ずさりながら腰に差していた刀の柄に手を掛けた。と、その時武者たちの真ん中からか一人の大名と思しき武将が秀高の目の前に現れた。


『秀高…この時を待っておったぞ。』


「お、お前は…今川義元(いまがわよしもと)!?」


 秀高がその人物を視線に入れて驚くのも無理はなかった。この目の前に相対した武将こそ秀高が天下統一の切っ掛けとして討ち取った今川治部大輔義元いまがわじぶだいふよしもと。その人であったのだ。





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