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1567年3月 城攻めの軍議



永禄十年(1567年)三月 河内国(かわちのくに)飯盛山城(いいもりやまじょう)




 永禄(えいろく)十年三月三十一日。畿内(きない)四国(しこく)における三好長慶(みよしながよし)配下の諸城の攻略を終えた高秀高(こうのひでたか)は飯盛山城を包囲する包囲陣へと帰陣し、ここに満を持して飯盛山城攻略の手立てを協議すべく包囲陣に加わる諸将を招いての軍議を開いた。


「まずは秀高殿。畿内・及び四国の三好方の掃討、万事滞りなく終えて何よりにございまする。」


(かたじけな)三河(みかわ)殿。それも全て三河殿が信頼(のぶより)と共に包囲に専念してくれたお陰だ。感謝する。」


 軍議の席の上座に座した秀高に対していの一番に声を掛けた徳川家康(とくがわいえやす)の言葉を受けた秀高が家康に向けて言葉を返すと、その秀高に対して家康の隣に座していた浅井高政(あざいたかまさ)別所安治(べっしょやすはる)が続けて秀高に向けて発言した。


「秀高殿、いよいよ三好の息の根を止める時が参りましたな。」


「左様!ここは直ぐにでも飯盛山城に総攻撃をかけるべきと存ずる!」


「いや、その儀は尚早かと思われまする。」


「なんと!?」


 高政や安治が発した強硬意見を制するように発言したのは、元三好家臣である松永久秀(まつながひさひで)であった。久秀は真ん中に置かれている机の反対側に座す高政や安治の方に視線を向けながら言葉を続けた。


「飯盛山城を()くの(ごと)く包囲しているとは申せど、飯盛山城の備えは堅牢。(いたずら)に攻めれば大きな損害を(こうむ)りましょう。」


「然り!ここは今少し包囲を続けて城方の動きを見定めるべし!」


 久秀の意見の後に弟である内藤宗勝(ないとうむねかつ)が賛同するように意見すると、久秀の意見を上座から聞いていた秀高が久秀の方を振り向いて尋ねた。


「…久秀殿、それまでに飯盛山城を力攻めするのは厳しいのか?」


「はっ。飯盛山城は三好長慶が居城として以降、度重なる改修を経て強固な山城となっておりまする。三好の勢い衰えたりとはいえどこの堅牢さは侮れますまい。」


「そうなのか…」


 秀高の問いかけに対して久秀が机の上に広げられている飯盛山城の縄張りの絵図の上で手を動かしながら返答した。すると秀高の相槌(あいづち)の後に秀高の側に座していた大高義秀(だいこうよしひで)が久秀の意見を聞いた後に発言した。


「だがよ、ここでじっとしている訳にもいかねぇぞ。下手したら越後(えちご)信隆(のぶたか)が何か仕掛けてくるかもしれねぇ。攻めるんだったらさっさと攻めねぇとな。」


「うん。それに城内に放った一政(かずまさ)が情報を得て帰ってくるはずだよ。それを聞いてから判断しても遅くはないんじゃないかな?」


「…それもそうだな。」


 義秀の意見の後に小高信頼(しょうこうのぶより)が秀高に向けて意見を述べ、それを聞いて秀高が相槌を返すとその場に城内の様子を探ってきた稲生衆(いのうしゅう)の忍び頭・中村一政(なかむらかずまさ)が颯爽とその場に駆け込んできて秀高の側に膝を付いて言葉を発した。


「殿、ただいま戻りました。」


「一政、ご苦労だった。城内の様子はどうだった?」


 秀高よりこの言葉を受けた一政は声もなく会釈をすると顔を絵図の方に向けながら秀高やその場に居並ぶ諸将に聞こえる声で城内の様子を伝えた。


「既に城内の兵糧の蓄えは三週間を切っており、城内のいたるところで兵糧の節約令が出ておる様子。また城内は長慶に代わって守備を預かる三好長直(みよしながなお)長房(ながふさ)父子によって士気は保たれておる様子にございまするが…」


「何かあったのか?」


 と、この含みを持たせた一政の言葉を聞いた秀高が問い返すと、一政は秀高の方に顔を向けると言葉の続きを発してある情報を伝えた。


「どうやら城の中に入っている城将の一人、香西長信(こうざいながのぶ)が先日軍議の場で出撃策を進言したところ長直から却下されたどころか、怒った長直が長信から部隊の指揮権を奪おうとしておるとか。」


「香西長信か…。」


「久秀殿、知っているのですか?」


 一政の情報を聞いて話題に上がった人物の名前を久秀が呟くと、秀高は久秀の方を振り向いて長信の事について尋ねた。すると久秀は秀高の方を振り向くと香西長信についての情報を秀高に伝えた。


「香西長信は四国にて細川真之(ほそかわさねゆき)殿に合力した香西元載(こうざいもととし)殿とは同族であり、尚且(なおか)つ長信の先代である香西元成(こうざいもとなり)は三好長慶に最期まで敵対していた間柄でありました。それが紆余曲折(うよきょくせつ)あって三好の家臣になったのでございまするが、内心忸怩(じくじ)たる思いを抱いていても不思議ではありますまい。」


「…その久秀殿の情報を踏まえた上で先程の一政の情報を考慮すると、どうやら城内に亀裂が入りつつあるようですな。」


「亀裂…か。」


 久秀から告げられた情報を聞いていた家康が秀高の方に向けて自身の考えを告げると、秀高はふとある策を(ひらめ)いてその軍議の席に座していた竹中半兵衛(たけなかはんべえ)と客将の本多正信(ほんだまさのぶ)の方を振り向くとこう発言した。


「半兵衛、正信。直ちに弓の名手を集めて城内に矢文を打ち込め。」


「矢文を?」


「殿、一体何をなさるおつもりで…?」


 半兵衛と正信が秀高よりの発言を受けてその意味を尋ねるように言葉を返すと、秀高はその問いかけに対してニヤリと笑いながら城の縄張り図を見つめてその意味を語った。


「なに、城方は外の様子を一切知らないだろう。その城方に対して戦況を記した書状や投降を呼びかける書状などを打ち込めばきっと、城内で大きな騒ぎが起きるだろう。そこを攻める!」


「なるほど、城内を攪乱した上でその虚を突いて攻めるわけですな。」


 秀高の発言を聞いた後に久秀が発言すると、秀高は久秀の方を振り向いて首を縦に振って頷き、そのまま久秀や隣に座す宗勝に向けてある事を指示した。


「久秀殿、それに宗勝殿。飯盛山城を攻めるにあたっては道筋に詳しいお二人の情報が必要です。何卒諸将に対して山道の道筋を教えてやってください。」


「承知しました。(それがし)は秀高殿の策に興味が沸きました。喜んで協力いたしましょう。」


「道筋はしっかりを諸将にお伝え致す!」


 秀高の意見を聞いて久秀と宗勝が秀高に対して返答すると、それを聞いた秀高は諸将に向けてこう指示した。


「よし、それじゃあこれより諸将に城攻めの陣立てを伝える。まずは大手口の南野口(みなみのくち)。ここからは義秀の軍勢を先頭に安西高景(あんざいたかかげ)織田信澄(おだのぶずみ)坂井政尚(さかいまさひさ)の軍勢と畠山高政(はたけやまたかまさ)殿の軍勢が攻め込む。高政殿、それで良いですか?」


「承知した。因縁ある三好にとどめを刺す戦、是非とも戦わせてもらおう。」


 秀高から話しかけられた畠山高政が意気込むように返答すると、それを聞いた秀高は続けて諸将に指示を飛ばした。


「次は飯盛山城本丸の北側、高矢倉曲輪(たかやぐらぐるわ)に繋がる北条口(ほうじょうくち)。ここからは三河殿の指揮の下、荒木(あらき)別所(べっしょ)有馬(ありま)波多野(はたの)らの軍勢で攻め込んでもらう。三河殿。この攻め口の事を頼む。」


「はっ。お任せを。」


 家康が秀高の下知を受けて首を縦に振って頷いた後に返答すると、秀高はそれを聞いた後に今度は信頼の方に視線を向けて下知を下した。


「信頼、お前の軍勢は西美濃四人衆(にしみのよにんしゅう)浅井高政(あざいたかまさ)朽木元綱くつきもとつな佐治(さじ)久松(ひさまつ)の軍勢を率いて清瀧口(きよたきぐち)から本丸倉屋敷曲輪(くらやしきぐるわ)に攻め込んでくれ。」


「うん。分かった。」


 信頼が秀高からの下知を受けて返答を返すと、それを聞いた秀高は居並ぶ諸将の方に顔を向けて陣立ての続きを述べた。


「なお、久秀殿と宗勝殿の隊は丹羽氏勝(にわうじかつ)長井道勝(ながいみちかつ)の隊を率いて本丸南側・千畳敷曲輪(せんじょうじきぐるわ)の真下にある馬場を攻める妙法寺口(みょうほうじくち)を攻めてもらい、一益(かずます)氏規(うじのり)伊勢路(いせじ)の諸将は北側制圧後に千畳敷曲輪に通じる虎口(こぐち)を攻めてもらう。」


「ははっ、心得ました。」


 伊勢路の諸将を代表して北条氏規(ほうじょううじのり)が秀高に言葉を返すと、秀高はそれを聞いた後に頷き、その場に居並ぶ諸将に向けて改めて言葉を飛ばした。


「良いか、諸将は陣立てに従って戦支度を整えてくれ!諸将の健闘に期待する!」


「ははっ!」


 秀高のこの呼び掛けに対して諸将は意気込むようにして声を上げた。その後に諸将はこの秀高の下知に従ってそれぞれの陣に戻って各々の攻め口の場所に付くと、武器等を整えるなど城攻めの準備を始めた。それら城攻めに関する動きとは別に半兵衛と正信指揮する弓隊五百余りは翌四月一日未明に密かに飯盛山城本丸の麓に近づき、城に向けて矢文を打ち込む準備を整えたのであった。





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