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1560年7月 最後の一組



永禄三年(1560年)七月 尾張国(おわりのくに)那古野城(なごやじょう)




 ここ那古野城内の本丸館では、慌ただしく準備が進んでいた。


 というのも、城の主でもある高秀高(こうのひでたか)は検地実施中の小高信頼(しょうこうのぶより)が襲撃された一報を聞いて気が気ではなかったが、浪人の深川市之助(ふかがわいちのすけ)によって助けられた信頼が、同伴していた(まい)と心を通わせて、結婚するというのである。


 その一連の情報の多さに混乱した秀高ではあったが、市之助を家臣として召し抱えて深川高則(ふかがわたかのり)と名乗らせ、そして二人に対してはささやかな婚礼の席を設けたのである。




「もう、いきなり結婚なんて言い出すなんてびっくりしたわよ。」


 と、秀高の居室において花嫁姿に身を包んだ舞に対して、布団の中で身重の為に横になっている静姫(しずひめ)が驚きの感情をそのままに舞にぶつけていた。


「ご、ごめんね静。いきなりの報告で…」


「ううん、でも安心したわ。」


 と、静姫が舞に対して優しく微笑みながら語り掛けた。


「あんた、ずっと秀高の為や(れい)たちの為だっていって、恋と向き合ってこなかったでしょう?それが不慮の事態とはいえそれをぶつけることが出来たんだもの。友人として嬉しい限りよ。」


「静…」


 舞が静姫の言葉を聞いて嬉しそうにはにかむと、その横で同じように身重の為に寝ていた玲が舞に語り掛けた。


「舞、本当におめでとう。姉として嬉しい気持ちでいっぱいだよ。」


「姉さま…ごめんなさい。いきなりで…」


 舞が玲の傍に近づいてこう言うと、玲は舞の手を握るとこう言った。


「そう言わないで。今日の席は秀高くんや義秀くん、それにお姉ちゃんも心待ちにしていたんだよ。だからもっと気張っていて。」


「…分かりました。姉さま。」


 その玲の気持ちを受け取った舞は頷き、決意を新たに玲の顔を見つめた。その凛とした表情見た玲は安心し、舞にこう言った。


「私たちは席に参加できないけど、そこの襖を取り払ってくれるそうだから、遠くから見つめているからね。」


「うん。私の晴れ姿、見ててね。」


 その舞の言葉を聞いて玲と静姫は微笑みながら頷き、やがてその部屋を舞が侍女に伴われて出ていった。その後居室から評定の間が見える場所の襖が取り払われ、玲たちは(うめ)(らん)の親子にそれぞれ付き添われ、身を少し起こしてそこから婚礼の席を眺めたのであった。




 やがて評定の間に出席者が揃うと、媒酌人を務める秀高が新郎新婦である信頼と舞と同じ上座の席に座り、それ以外の参加者は下座の席に座った。


 そして祝言が始まると、秀高らと同じように信頼と舞は三三九度の儀式を行い、それぞれ御神酒が飲める年になっていた二人はそのお神酒を飲み干し、改めて華燭の典をあげることをその場にいた皆に示したのだった。


「…信頼殿、それに舞様、此度はおめでとうござる。」


 その儀式の後に始まった盛大な宴の席上、信頼らの目の前に座ってお酒を注ごうとしたのは、数日前の襲撃の際に奥田直純(おくだなおずみ)を討って信頼らの窮地を救った高則であった。


「これは市之助…いや、今は高則と名を改めたんでしたね。」


「ははっ。仕官して早々に秀高殿から一字を賜り、格別のご高配を賜っており申す。」


 高則は信頼にそう言うと、手にしていた徳利で信頼の盃に酒を注ぎ、それを信頼が飲み干すのを見ると信頼に向かってお辞儀をした。


「信頼殿…いえご家老。これからは何卒良しなにお頼み申しますぞ。」


「…うん。よろしく頼むよ、高則。」


 その様子を見て媒酌人席に座っていた秀高も満足そうに微笑み、そのまま用意されていたお膳の一品を口に運んで食べた。その後、ある程度の挨拶が終わると、秀高が徐に信頼に話しかけた。


「しかしこれでようやく、俺たちの中で残っていた最後の二人が結ばれたわけだな。」


「秀高…やめてよそう言うのは…」


 そう信頼が恥ずかしそうに言うと、秀高はそれを聞いて笑った。


「ははは。いやごめんごめん。実を言うとさ、俺も嬉しいんだよ。みんな昔からの付き合いだろう?それがみんなそれぞれと一緒になり、それぞれ幸せに暮らしているなんて、そんなにあり得る事じゃないと思ってさ。」


「確かにそのとおりね。」


 と、その会話に割って入ってきたのは、その席に参加していた大高義秀(だいこうよしひで)(はな)夫妻であった。華が秀高に話しかけたのに続いて、酒を飲んで少し酔っている義秀が座るや信頼に言った。


「そうだぜ!?お前らも一緒になったのはこんなに嬉しい事はねぇぜ!なぁ秀高!」


「お前、少し飲みすぎなんじゃないのか?」


 秀高が義秀に注意するように言った後、そのまま食べ物を口に運んで噛み始めた。すると、手にしていた盃に自分で酒を注ぎ、乱暴にそれを口に運んで飲んだ義秀がへっと鼻で笑ってこう言った。


「馬鹿言え。この俺が酔っている訳ねぇだろう?全然素面(しらふ)だぜ。」


「そうかな?だいぶ顔が赤いけど…。」


 と、信頼が心配そうに義秀に言うと、義秀はいきなり信頼の方を見るや盃を指さすように信頼の前に向けて言い放った。


「そもそも!お前らいったいどれだけ子供を作るんだ!?」


「い、いきなり何を言うんだ!?」


 と、それを聞いていた秀高が驚くと、その場に筆頭家老の三浦継意(みうらつぐおき)も割って入ってきた。


「如何にも!信頼殿は曲がりなりにも高家のご家老。その家老が子供が少ないとあっては世間に申し訳が立ちますまい。」


「継意殿、でも子供を作るというのは計画性をもっていかないと…」


「そう難しく考えることはござらぬ。」


 と、継意に対して反論していた信頼に向かって更に割って入ってきたのは、次席家老の森可成(もりよしなり)であった。


「信頼殿、某の子は今二人おり申すが、妻とは関係を持ち続け、更なるお子を作ろとしております。とはいえ妻との関係は良好にしておかなければなりませぬ。」


「その通りじゃ。」


 可成の意見に賛同した継意は、その場である事を発表した。


「いや、実は某も妻との間にまた新たな子を成しましたぞ。」


「何、それは本当か継意?」


 秀高がその報告を聞いて驚いて継意に尋ね返すと、継意はそれに頷いて満足そうに微笑んでいた。すると今度はなんと義秀が悔やむようにぽつりと言った。


「そっかぁ…おっさんの所も出来たのかぁ…。」


「おう、義秀、そなたも負けずに子を成すが良い。今からでも遅くはないゆえな。」


 と、悔やんでいる義秀に可成がそう言うと、義秀は意を決して信頼にこう言った。


「よっしゃ。じゃあ信頼!今秀高は子作りに勤しんでいる。俺たちも負けずに、血筋を後世に残すように頑張ろうぜ!」


「そ、そんなこといきなり言われても…ねぇ舞?」


 と、いきなり言われて慌てた信頼が舞の方を振り返ってこう言うと、舞は顔を赤らめながら下を向いてポツリと言った。


「私は…やぶさかじゃないけど…」


「あら?舞は乗り気みたいよ?ノブくん?」


 と、その舞の様子を見た華が顔に手を当てて微笑みながら信頼を見つめた。すると信頼は呆気に取られた表情をして助けを乞う様に秀高を見つめた。すると秀高は手にしていた盃を降ろすと、信頼に肩に手を降ろしてこう言った。


「…まぁ、今日は舞と一緒に頑張ってみたらどうだ?」


 その言葉を聞いて信頼は更に呆気に取られた。その光景を見て義秀夫妻は笑みがこぼれて高らかに笑い始め、継意と可成もそれにつられて笑い始めた。その笑いに満ちている中心で、信頼は今まで見せた事のない呆気に取られた表情で秀高らの顔を見つめていたのだった。




「全く、失礼しちゃうと思わないかい!?」


 その日の夜、祝言が終わって皆を見送った後、二人は城下の家老屋敷に帰っていた。その中で信頼は薄着に着替えると、寝室の中で引っ越しを終えて同居を始めた舞に腕組みしながら話していた。


「ま、まぁまぁ信頼さん、そんなに怒らなくても…」


「秀高も義秀も、僕の事をただの童貞だと思って、話しかけておちょくってきているんだ!」


 そう言いながら信頼が布団の上に腰を下ろすと、腕組みを解いて舞にこう言った。


「…でもここで二人にぎゃふんと言わせてやるさ。ここで舞との間に子供が出来れば、きっと少しは見返してくれるはずだ。」


「…じゃあ、しますか?」


 と舞が信頼に言ったその時、信頼を舞は布団に突き飛ばすように倒した。その攻撃ともいうべき行動を受けた信頼はまたしても呆気に取られた。


「え?舞?どういう事?」


「どういう事って…初めての契りを交わすんですよ。」


 そう言うと舞は上着を脱いで下着の着物一枚になり、積極的に信頼の下着である薄着に手をかけた。するとその積極性に驚いた信頼が舞に言う。


「ま、待ってよ舞!それは男である僕が先導するから…」


「でも、信頼さんきっと奥手だからリード出来ませんよね?だったら少し知識のある、私が先導しますから…」


 信頼は、今まで舞が見せてこなかった夜の顔にとても驚いていた。ここまで積極的な舞を知らなかった信頼にとって、この行動は一種の衝撃を受けていたのである。


「で、でも!」


 信頼は意を決して薄着を脱がそうとしていた舞の手を取り、舞の顔を見つめながらこう言った。


「それでも…僕に先攻をさせてほしいんだ。」


 その信頼の表情を見た舞は、それを本気だと感じるとそのまま自分の手を降ろし、いったん目を閉じた後にふふっと微笑んで信頼を見つめてこう言った。


「…分かりました。それでは、優しくお願いしますね?」


 その言葉を受け取った信頼は舞の肩に手をかけると、今度は信頼が舞を布団に押し倒したのであった。こうしてこの二人はこのまま契りを交わし、そのまま夜を越していったのであった…





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