23話 交渉
いきなり交渉をするのではなくまずはこちらの土俵に誘い出す。何かの漫画で読んだ知識がここで役立つとは思わなかった。しかしいきなり声を掛けてもおそらく失敗する。でもあれやってみたいんだよ。ほら、さっきまでそこには誰も居なかったのに一瞬目を離した瞬間に現れるってやつ。ホラゲとかで良くある演出ね。ちなみに俺はホラーは全然大丈夫だから特に驚いたりしなかったけど。
『気配消し』を使い何かの話をしている自衛官に接近する。近づいて聞くと隊長って見た目の人たちが何やら会議をしていた。折角なので何を話しているのか聞いてみよう。
「それにしてもここは何処なんですかね。周りを見渡した感じここは山奥っぽいですけど」
「‥‥‥少なくとも日本では無い」
「え?何で分かるんですか」
「あれを見てみろ。日本にあんな城壁はある筈がない」
「確かに。‥‥‥ドローンを使います?」
「そうだな。ここが何処か分からない以上使うしかない。早速用意してくれ」
「はっ」
ドローンを使わせる訳にはいかない。なのでそろそろ出る事にする。
「やあやあ、自衛隊の皆さん。ご機嫌よう」
『気配消し』を解除し自衛隊の皆さんに聞こえるように声を出す。先程までいなかった場所に突然現れたことに驚きつつもすぐ銃を構え、銃口を俺の方に向けいつでも撃てる体勢に入る。その動きの滑らかさは流石と言わざるを得ない。
「何者だ」
「俺?ん〜簡単に言ったら北海道を襲撃した張本人ってとこかな」
その言葉を聞き自衛官の間でざわめきが走る。
「北海道を不毛の地にした張本人が何のようだ?」
「ここで一体何をしているのかを聞きたくてね。一応この世界は俺にとって大切な場所だから」
「‥‥‥何故敵である貴様に我々の情報を言わなければいけない?」
「確かに、ごもっともな意見だ」
「それにしても貴様。何故日本語が話せる。見た所ここは日本では無いだろう」
「それは単純に俺が元日本人だから」
「‥‥‥理解出来ない。何故自分が育った祖国を攻撃した?」
「復讐だよ」
「復讐?」
「ああ、お前には耐えられるか?毎日の様に見知った奴から暴言を吐かれ、物を壊され、仕舞いには知らん奴からも嫌がらせされる。なあ聞かせてくれよ。お前には耐えられるか?」
「‥‥‥私は」
「まあお前なら耐えられるかもしれないよな。だってお前は軍人だ。日本人の中だったら力も精神力もそれなりに強い部類に入る。それに比べ虐められる奴ってのは大体心が弱い」
「いや違うな。元々はそうでも無いかもしれんが、いざ虐めの標的になったら途端に心が壊れる。そうすると自然と本能が自衛を始める。それが引きこもりだ。もっと酷い場合は自殺とかな。俺も虐められて自殺した口だ」
「さらに言ったら虐めなんてのは日常的に起こっていると俺は思っている。何でそう言い切れるかって?虐められる奴は誰にも相談しないからだ。よく、虐められたら相談しようなんて言ってる奴がいるが俺からしたらそいつらは何様って感じだ。そんな戯言を言ってる奴は虐められた経験がないからそんな事を言えるんだ」
「虐められた奴からすればそいつらは虐めた奴と同類に見えるだろう。人の気持ちも知らないでよくそんな事を言えるなって。少なくとも俺が虐められた時はそんな事を考えていたよ。だから俺はそんなクソ野郎どもに復讐する。
そして俺と同じ境遇にいる虐められた奴らを救う。どんな手段でも良い。日本って弱者に対してはクソみたいな対応をするからな」
「‥‥‥貴様が言いたい事は分かった。その考えも分からんでもない。しかし私は日本という国にこの身を捧げた。その私が貴様の復讐を見過ごすと思うか?」
「分かってはいたけど交渉は決裂か。仕方ない」
やれ
そこからはあっという間だった。俺の命令でサモアにいる魔術師たちが魔法を俺の周りにいる自衛官に向けて放つ。事前に俺に当たっても文句は言わないと言っているので俺が近くにいようとも遠慮なく魔法をぶっ放してくる。尚今回しようしていい魔法の属性は炎と風に限定している。
ここで全員殺す予定だが何かの拍子に転移陣が起動してそのまま逃げられる可能性がある。そうなってしまった場合こちらの情報が少なからず漏れる。そのためあまりこちらの技を見せないで殺し切る必要がある。
しかし腐っても軍人。そう簡単に殺させてくれない。だがこちらには地の利がある。それを利用して徐々に押し切る。ちなみに俺は参加していない。俺が出たら多分瞬殺だ。それだと面白くないし何よりこちらの兵士達に実戦をさせて上げたかった。
数年前まで戦争をしていたとはいえこの世界の戦争と地球の戦争は違いすぎる。
近距離は剣や槍などを使い、遠距離は魔法が主流だったこの世界に対し
近距離も遠距離も銃で戦う地球が戦ったらまず間違いなく俺たちが負け地球の軍隊が勝つ。
なのでここで実践をさせ銃に慣れてもらう必要があった。こっちでも銃の使い方とかはある程度教えたが訓練と実践は違う。
そうこうしているうちに自衛隊がサモアから見て転移陣の向こうにある森に撤退していった。このままでは全滅する事を自覚したのだろう。それに自衛隊は銃の弾などの消耗品を補充する方法がない。なので自衛隊からしたら短期決戦が望ましいはずだ。
いいだろう。その土俵に乗ってやろうではないか。
主人公が虐めについて語っていますがこれは作者の気持ちを代弁しています。作者自身も小、中、高と色々な人から虐めや嫌がらせを受けて来ました。