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ルイスの小さな夢



今回はルイス視点のお話です。




 


 俺はルチアーノ・スッシャー。

 スッシャー国の第1王子だが理由わけあって今はルイス・ガーレンと名乗っている。


 皆を騙しているようで申し訳ないとは思うが、ある意味国の為だ。12歳の時ある場面を目撃し、人間の上辺ではない本性を見る為に親戚と入れ替わった。


 きっかけは婚約者候補の3人との初顔合わせ。

 姿絵で前以て見ていたが早く見たくて目立たぬように上からコッソリ護衛と2人で見ていた。


 お目当ては俺の黒髪とは正反対のミルクティーみたいな髪色の子。ハイドリア家のリーハ嬢だ。


 俺はあの当時、重たそうに見える自分の黒髪がコンプレックスで明るい髪色に対して憧れがあった。


 リーハ嬢の柔らかそうな巻き髪がやたらと甘く美味しそうに見えて、この手で触れてみたくて目が離せなかった。


 そろそろ下に下りて声を掛けようと思っていた時、ポルトナス家の者達が不審な動きを見せた。婚約者候補の3人の盾になるように並んだのだ。


 上から見ていないと気づかなかっただろう。不思議に思い見ているとポルトナス家のウィカ嬢が自分から後ろに倒れ騒ぎが起こった。


 最初は何をしているのか全く理解できなかったがリーハ嬢に突き飛ばされたと主張していることが分かった。


 自分から倒れたくせに何を言っているのかとすぐに下りてリーハ嬢を助けようと思った。


 だが周りの大人達はリーハ嬢ではなくウィカ嬢とスーザン嬢を信じた。


 1人が言う事よりも2人が言う事を信じる心理は分かる。それにまるで被害者が加害者を庇っているようにも見える言動にスッカリ周りは騙されていた。


 その時俺は恐怖を感じた。巧みに騙そうとする人間に踊らされる人間達。しかも踊らされているのはいい歳した大人達だ。


 俺もウィカ嬢が自分から倒れる瞬間を見ていなければあの2人を信じていたかもしれないと思うとゾッとする。

 こうやって他人を陥れようとする人間は確実にいるのだ。俺は人間の本質を見たい。そう思った。


 下に下りるのを止め国王陛下である父上に自分が見たまま、感じたままを話した。


 前代未聞ではあるが、親戚であるルイスが俺の代わりとして婚約者候補に会い、俺は離れた所からしっかり見極める事になった。


 悪者にされたリーハ嬢には申し訳ないが未来の王妃を選ぶのだから慎重にもなる。


 あっと言う間にリーハ嬢の悪評が広まって罪悪感に駆られたが必ず名誉を回復すると誓った。


 そうして3カ月後俺の代わりにルイスがルチアーノとして3人に会った。


 リーハ嬢がルイスに向かい照れたような顔をした時は気分が悪かったが、ウィカ嬢とスーザン嬢も俺と同じような嫌な顔をしたのを見逃さなかった。


 何かしそうだと心配しながら見ていたらスーザン嬢がリーハ嬢を噴水に突き飛ばした。


 さすがに走って行きそうになったが何の為に代役をお願いしたのかと護衛と執事に止められメイドにタオルを頼むだけにとどまった。


 突き飛ばしたくせにリーハ嬢が自分から入ったとスーザン嬢が証言した事に戦慄を覚えた。人の悪意と言うものを生々しく感じた瞬間だ。


 リーハ嬢を助けてあげられない罪悪感からドレスを贈ったりしたがやはりと言うか辞退の申し入れが来た。しかも2回も。申し訳ないが却下させてもらった。


 やり返す事はせず必死に耐えているリーハ嬢の事を時が来たら俺が守ると決めたからだ。……正直第一印象からリーハ嬢だったけど。


 リーハ嬢の事を知りたい俺は徹底的に調べさせた。バイオリンを習っていると聞いて自分も習い始めた。

 よく弟と母親と一緒に弾いているらしい。俺もいつかそこに混ざり一緒に弾くのが夢だ。


 辞退を断った後何を思ったのか急にハイドリア家が商会を立ち上げ商売を始めた。

 情報によるとリーハ嬢が発案したらしい。


 少しでもリーハ嬢の力になりたかった俺はカフェを開店したと聞きすぐに友人が多い姉上にお願いした。

 カフェに行ってみて良かったら口コミで広げてくれと。


 姉は本気で気に入ってくれたようで友人達を誘い、時には手紙まで書いてリーハ嬢のカフェを紹介してくれた。

 カフェはあっという間に人気店になった。


 平民向けのお菓子の販売を始めた時は俺が平民に成りすまし買いに行った。


 そしてその辺にいる子供達に菓子を分け与えた。価格が高い訳ではないが平民に余裕はなく、確実に美味しいと知っている物じゃないとお金は使わないと思ったからだ。


 カフェのように一瞬で流行に乗った訳ではないが、ゆっくり確実に広まって行ったのを見てほっと胸を撫で下ろした。


 そうこうしているうちに変わったデザインのドレスの店を始めたと情報が入って来た。今度は姉ではなく伯母上にお願いし注文して貰った。


 伯母上は社交的な人でしょっちゅうパーティーに出向いていたからだ。


 スカートの前と後ろの長さが違う珍しいドレスを気に入った伯母は他国のパーティーに着て行った。それが評判になり、かなりの人気店になっている。


 少しでもリーハ嬢の役に立てたとやり切った気分になっていたがただの自己満足だと思い知る。

 学園に入ればルイスとしてリーハを直接守れると思っていた。だが涙を見た瞬間、早く彼女の立場を挽回してあげるのが先だと思った。


 自分の好きな子をこんなに悲しませ追い詰めていた事実を目の当たりにした俺は結構ショックを受けた。すぐ父上に婚約者発表を早める相談をした。もうポルトナス家とコルトナーレ家が繋がっている証拠は揃っているはずだ。


 だが今日突然リーハが悪評に乗ると言い出した。

 何をするつもりか確認したくて呼び出したのだが、彼女の言い分に俺は今愕然としている。


「ルチアーノ殿下の婚約者に選ばれたくないから……」


 俯き言う彼女になんて声を掛ければ?俺の婚約者になるのがそんなに嫌なのか?


「そんなに選ばれたくないのか?」


「はい……」


 む、胸が痛い。俺は今確実に振られている。

 いや待て。彼女の中では俺がルイスでルイスがルチアーノだ。振られているのは俺の親戚のルイスだ。俺じゃない。


 待てよ?本当は俺がルチアーノでしたと打ち明けたらどうなる?


 騙してたなんて酷いですわ!

 私が嵌められていたのに知らんぷりをするなんて!

 去っていくリーハ。


 うん、良い想像が一つも出来ない。これは彼女を応援し寄り添い俺自身を好きになってもらうしかないのでは……


「……応援するよ」


 自分を好きになってもらう為に自分の婚約者に選ばれないように応援する。なんか複雑だな。


 そんな男心に気付かないリーハは俺の言葉に顔を上げパッと笑った。


 だが先の事を考えるとあまり評判が悪くなるのは避けたい。


「乗ると言ってもそこそこにしてくれるかな?リーハの評判がこれ以上悪くなるのは見たくないからできれば俺に確認してくれるとありがたいけど」


「確認?」


「乗る前に俺の顔を見るとか」


「ルイスに秘密の合図を送るのね?分かったわ!」


 明るい声に微笑む口元。ああ、顔を隠しているのが勿体ない。君の笑顔が見たい。


 衝動に駆られてリーハの眼鏡を外し髪を横に梳くと綺麗な瞳と目が合う。


 髪を触っても断りなく眼鏡を外しても嫌がる素振りはないのでそれなりに脈がありそうな気はするんだが自意識過剰だろうか?


 早く好きだよと堂々と言いたいな。

 リーハはそんな俺を見つめニコリと微笑む。


「あの、今度一緒にバイオリンを弾くお約束をしましたでしょう?もしよろしければ家にご招待したいのですが……名目上弟ラビィの友人としてですが……」


 弟の友人か。そりゃリーハの友人としては行けないもんな。もしバレたらウィカとスーザンの2人が鬼の首を取ったように騒ぐだろう。


「行くよ。ご招待ありがとう」


 リーハの家に行き一緒にバイオリンを弾くなんてまさしく俺が抱いていた夢そのものだ。2人で愛の曲を奏でようか?なんてね。




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