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甘い時間と密かな決意

 


「……はぁ……はぁぁ〜」


「もう、お嬢様!先程から溜息が成長してますっ」


「ニカ……だって、だってえぇぇ」


「いつまでも落ちこんでばかりいたら治るものも治りませんよ」


 ニカは数分おきにベッドに仰向けになっている私の腫れた目の上に温かいタオルと冷たいタオルを交互に載せてくれる。


 私がこんなに溜め息に溺れている理由は家に帰り着き鏡を見たら目がパンパンに腫れていたから。


 鏡を見た瞬間受けたショックは計り知れないわ。もしかしたら12歳の時ウィカとスーザンにめられたと気付いた時よりショックだったかも。


 ルイスにこの腫れた目を見せていたと思うと……


「はあぁぁぁぁ」


 こんなに腫れあがっていたから私にメガネを掛けている方が良いって言ったのかもしれないわ。

 なんてこと……明日どんな顔をして会えばいいの?ベストも汚してしまったし……


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


「お嬢様、その溜息が何回目かご存知ですか?溜め息を吐いたら幸せが逃げてしまうという言い伝えがあるんですよ。私はお嬢様に幸せになって欲しいですわ」


 その迷信聞いたことがあるわ。でも溜息を吐いたら幸せが逃げるんじゃなくて、不幸な事があったから溜息を吐いてしまうのよ。きっとその迷信を作った人は不幸があった時期に溜息で埋もれてしまって順番を錯覚してしまったのだわ。


「だってルイスには私の一番ベストな顔を見せたかったのだもの。ルイスの記憶を消せるなら消してしまいたいくらいだけど、そうもいかないし……はぁ」


「そうですねぇ……ならば明日から、笑顔をたくさん見せてルイス様の記憶を上書きしてはどうでしょう?お嬢様の事を思い出した時にすぐ笑顔が思い浮かぶように」


「……そうね、時間は戻せないのだからいつまでも落ちこんでいても仕方ないわね。ありがとうニカ。明日から記憶の上書きを頑張るわ。制服を汚してしまったお詫びも考えないといけないわね」


 目の腫れが落ち着いたらお菓子でも作ろうかしら。お菓子好きって言っていたもの、喜んでもらえそうよね。クッキー?プティング?アップルパイ?クレープ?


 ルイスはどれが好きかしら?好きなお菓子を聞いておけば良かったわ。

 あー!もう、何かしてないと頭の中がルイスでいっぱいだわ。


 厨房へ向かって歩くが頭の中がルイスでいっぱいになって良い考えが思い付きそうにない。私はまずラビィの部屋に行きフワフワ頭を撫でる事にした。心を落ち着かせる為よ。


「ラビィが女の子から貰って嬉しいお菓子は何かしら?」


「僕はお菓子ならなんでも嬉しいです。どなたかにプレゼントですか?」


 頭を撫でながら訊ねると上目使いで答えてくれる。はぁ、癒されるわ。


「ええ、今日親切にして頂いた方に」


「姉上に親切にしてくれた方ですか……それならアレが良いんじゃないですか?まだ販売していないイチゴの生キャラメルとイチゴのカップケーキ!特別感があっていいと思います」


 確かにまだ市場に出回っていないお菓子なら喜んでもらえるかも知れないわね。ラビィと話していると頭の中のルイスが小さくなってホッとするわ。いなくなりはしないけど。

 厨房に行きグレルにも少し手伝って貰いイチゴ生キャラメルとイチゴのカップケーキを作る。カップケーキの上にクリームとイチゴを載せて完成だ。


「どうかしら?」


「美味しいです!」


 試食したラビィの笑顔に頭の中にいる小さなルイスも笑顔になる。きっと喜んで貰えるはずよ。


 ニコニコして笑顔のラビィを見ていたら厨房の使用人達に凄く笑顔で見られたわ。ニヤニヤしながら「プレゼントだから可愛く包みましょうね」って綺麗にラッピングまでしてくれたのです。


 そして翌日、教室に入って真っ先に目が行くのは隣の席。ルイスはまだ来ていないみたい。


「おはよう、リーハ嬢」


 背後から掛けられた声に振り向くとルチアーノ殿下だった。


「おはようございます。入り口付近で立ち止まってしまい申し訳ございません」


 顔を上げると殿下の後ろに黒髪が見えた。ルイスだわ。

 挨拶もしたいし、お菓子を渡さないといけないのだけど、なんだか姿を見た途端胸がドクンと高鳴って緊張して声が出て来ない。ルチアーノ殿下に小さく頭を下げ慌てて自分の席に逃げる。


「リーハおはよう。どうしたの?」


 隣の席からルイスの声が聞こえるのだけど、胸が早鐘を打って顔が妙に熱くなってくる。でも返事しなきゃ。お礼も言わなきゃ。


「あ、あの、おはようございます……昨日のお礼にお菓子を作って来たのですが」


 何故か恥ずかしくて顔も見れないまま箱を机の上に差し出すと不満だったのか少し低めの声が聞こえた。


「こっち見てよ。見てくれないと受け取らない」


 えー!そんな事言われても。ど、どうしよう!ええい、せっかくお友達になったのだから勇気を出して顔を上げますわ!顔を見もせずにお礼を言うのも失礼ですもの!


 パッと顔を上げると昨日と同じもっさりとした頭のルイス。もうこのブロッコリーみたいなもっさり頭ですら素敵に見えるわ。


「顔が赤いけどもしかして俺相手に緊張してる?」


「はい。なぜだか分からないのですが姿を見ると逃げたいような気分になってしまい……」


「ん~……それは許せないな。俺に慣れる為にそのお菓子は昨日の場所で2人で食べようか」


「はい……」


 誘われた事が嬉しくて授業はほとんど身が入らず、ランチタイムに昨日大泣きした場所でルイスと待ち合わせをした。


 ウィカとスーザンの2人はルチアーノ殿下をランチに誘うのに必死になっていたのでその隙にコッソリ抜け出した。絡まれなくて良かったわ。中庭のベンチに2人並んで腰かける。


「お礼なんて良かったのに。でも嬉しいよ。リーハは俺に慣れるよう食べる所を見ているように」


 ルイスの少しふざけた物言いに少し緊張がほぐれて口元が緩む。


「分かったわ」


 ルイスは箱を開けると「俺イチゴ好きなんだよ」と明るい声で言ってくれた。イチゴ案を出してくれたラビィに感謝だわ!


 ルイスはパクっとイチゴのカップケーキにかぶりついた。

 そんな、いきなり食べるとは!心の準備が出来てないわ!ドキドキしながらルイスを見ると手を口に当てた。


 散々ラビィに確認したと言うのに失敗していたらどうしようとか美味しくなかったらどうしようとか、ルイスの表情が読み取れない分不安が大きくヒヤヒヤ。


「うん、美味い!」


 ルイスのモグモグタイムが終わりようやく見せた反応にホ~ッと胸を撫で下ろした。良かったわ!

 安堵しているとルイスは残りを食べすぐに包み紙を開きイチゴ生キャラメルをモグモグ。


「まったりとして甘い中にイチゴの甘酸っぱさがあって美味いよ!リーハも一緒に食べよう」


 ルイスはもう1個包み紙を開くと私に差し出してくるので受取り口に入れる。我ながら甘くて美味しいと思います。モグモグとキャラメルを味わっているとスッとルイスの手が伸びて来て私の眼鏡を取った。


「急に何を……」


 まさか昨日の腫れた目がどうなっているか気になったのかしら。


「リーハがどんな表情してるかちゃんと見たい」


 何なの?ルイスは私の心臓を揺さぶる為に産まれて来たのではないかしら?


「もし、誰か来たら見られてしまうわ……」


 意地悪で名高い私の顔を……


「大丈夫。ここは今誰も来れないようになってるから」


「え?そんな事が出来るの?」


「教える事は出来ないけど裏技でね」


「不思議だけどそれなら私もルイスの表情が見たいわ。ちゃんと美味しいのか顔を見たら分かるでしょう?」


 手を伸ばし前髪に触れるがルイスは抵抗しようともせず私の行動を受け入れてくれた。前髪を少し流して眼鏡を外すとルイスは嬉しそうに目を細め微笑んだ。


 胸が破裂しそうですわ……


 見惚れているとルイスの指が伸びて来て私の前髪を横に梳く。


「髪、見た目通り柔らかいんだね。ずっと触ってみたいと思ってた」


「すっ……好きなだけ触って下さい」


 ずっと?昨日から思っていてくれたのか分からないけど、ルイスが、自分が何を言っているのかなんて胸が高鳴りすぎてどうでもいい気分よ。


 私の言葉を聞いたルイスは遠慮なしに片方のおさげを解いた。

 下ろされた長い髪を指で梳きながら優し気な瞳で見つめてくるものだから胸が一気に締め付けられる。

 身体全体が甘くってルイスがする全ての仕草が奇麗で、ずっと見ていたいわ。心が震えて涙が零れそうなほどよ。


 私、恋に落ちたのね。


 でも……どうして私はルチアーノ殿下の婚約者候補なのかしら?


 ここに人は来ないと言っていたけれどもしこんな所を誰かに見られたら大問題になってしまうでしょうね。私は慣れっこだけどルイスを巻き込むわけにはいかないわ。


 そうならない為にはとにかく婚約者候補から脱却する事。3年待たずどうにか早く王子にウィカを選んでもらわなければ。


 その為には今まで通りじゃきっとダメなのよ。ウィカとスーザンに仕立て上げられた悪女になりきるくらいしなくては!

 私、頑張るわ。ルイスの事が好きになってしまったから。


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