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ルイスとの出会い

 


 木に囲まれた中庭の誰もいないベンチに腰を下ろす。後3年の我慢だ。でも先程のクラスメートの顔を思い出すとこの学園生活を3年間耐えられる気がしない。


 理不尽な事には慣れていると思っていたけど、ウィカとスーザン以外の生徒の表情や反応がダイレクトに見えるのだ。


 これは思っていたよりキツイかもしれないわ。心が握り潰されそうなほどよ……


 何故候補から外して貰えないのかしら?せめて3年もかけずにウィカを婚約者に選んでくれたらすぐにでも終わるのに。


 これから毎日、クラスメート全員から私と言う存在を踏みにじられるような視線を浴びて生きていくんだわ。


 友人が出来るかもとの小さな期待も泡と消え心が痛む分、目が潤む。


 伊達メガネを外しベンチに置くとハンカチを取り出そうとポケットを探る。だがハンカチが見当たらない。


 私もニカも顔を隠す事に必死になり過ぎてハンカチを忘れていたみたい。

 やっぱりフェイスベールで来れば良かったわ。少しはハンカチ代わりにもなるもの。


 ポロリと涙が溢れた時、人の気配を感じて見上げるといつの間に側に来ていたのか、教室で隣の席に座っていた男子が隣に腰を下ろした。


 もさっとした黒髪で私と似たような太い黒縁のメガネをかけた少年だ。そして手に持っていたハンカチを私の頬にあて涙を吸い取ってくれた。


 泣いているのを見られた気恥ずかしさと男子に拭いて貰った恥ずかしさから慌てて顔を逸らす。


「隣の席の方……ありがとうございます。あのっ、大丈夫ですから。気にせず行って下さい」


 だが男子は立ち上がろうともせず心配そうに私の顔を覗き込み見つめて来る。


「俺はルイス・ガーレン。さっき隣で聞いてたよ。君は何も悪くないのに、あの声の大きな女は何なんだ。あんな秒で挨拶返せるやつなんていないよなぁ?」


 聞いて、分かってくれる人がいた。初めて私の事を正しいと言ってくれる人が……そう思った瞬間涙がボロボロ溢れた。


 我慢しようと唇を噛むが止まらない。胸はぎゅうぎゅう締め付けられ、鼻の奥がツンとする。人前で泣きたくないのに。


「……見ないで頂けるとありがたいですわ」


 顔を見られないように俯き言うとルイスは突如私を引き寄せた。とんとルイスの胸に預けられる頭。


 驚きで声も出せないでいるとジャケットで顔を隠すように包んでくれる。大人しそうに見えるのになんて大胆な人なのかしら。


「泣いていいよ。これなら顔も見えないしいいだろ?それとも今俺に何か強がる必要ある?」


「こ、こんなのはしたないですし、ルイス様の制服が汚れてしまいます」


「俺は胸を貸してるだけだし君は泣いてるだけ。よってこれは、はしたない事じゃない。俺の制服とかどうでもいいから気にするな。今までよく1人で頑張ったな」


 貴族の子息らしからぬぶっきらぼうな口調のルイスの優しさに、さすがに我慢できなくて声をあげて泣いた。

 初めて会ったのに、全て見透かしたようなこの言葉は反則だわ。


「落ち着いた?」


 散々泣いて落ち着き、我に返ると胸を借りているどころか頭まで撫でられていた。恥ずかしすぎるわ!なんだかルイスのいい香りまでしてくるし。


 瞬時に恥ずかしさが限界を超えていった。慌てて顔を離すとぐちゃぐちゃに濡れたルイスのベストが目に入る。


「ベストが!私ってばなんて事を……」


「いいんだって。制服なんかよりリーハの心の方が大切だから」


 言い終えると形の良い唇がニコリと微笑んだ。途端に全身がカッと熱くなる。

 さっきまで君って呼んでいたのにやはり私の名前を知っていたのね。


 なんだか名前で呼ばれて大切だなんて言われると意味深に感じてしまう。胸が(うるさ)いくらいドキドキしているわ。


「あの、初対面なのに何故こんなに優しくしてくださるのですか?」


「や……もっと早く……」


 早く?ルイスが空気に溶け込みそうなほどの声で言った言葉はきちんと聞き取れなかった。顔をルイスに近付け聞き逃さないよう耳を傾ける。


「聞き取れませんでしたの。もう一度お願いしますわ」


「フラフラ教室を出て行ったから心配だった。1人で泣いてるんじゃないかと思ってさ……君が向かった方を探したんだ」


 ここに来たのは偶然じゃなくて私が心配だったからなの?顔が熱くなるのを感じ、手で扇ぎ熱を下げてから一生懸命笑顔を作った。凄く嬉しかったから気持ちを伝えたくて。


「ありがとうルイス様」


「……ルイスでいいよ。俺もリーハって呼ぶから」


 ルイスはベンチに置いてあった伊達メガネを取り私にかけるとニカッと歯を見せて笑う。


「全然似合ってないけど眼鏡の方がいいな」


 似合ってないけど眼鏡がいいってどういう意味なの?矛盾しているわ。聞こうと思った時ふと、ルイスのメガネの奥にあるスカイブルーの瞳と目が合った。


 なんだろう。目が逸らせないし何故かドキドキするし違和感を感じる……そうよ、違和感!

 じいっとルイスの目を見つめ気付く。ルイスも伊達メガネだわ。度が入っていないもの。


 よく見たら前髪も重めでまるで私と同じ、顔を隠すみたいに……

 私は手を伸ばしバッとルイスの前髪を上げもう片方の手でメガネを取り息を飲んだ。


 甘い風が身体をくすぐり通り過ぎて行ったみたいな感覚。神様はこの世界に美の化身をお創りになっていたのです。

 

 黒髪にスカイブルーの瞳のコントラストに思わず見惚れてしまう。さっきから胸がドキドキしていたけど、なんだか心が甘いプティングにすり替えられたみたいになっているわ。


 私は悪名高いから顔を隠そうとしたけどルイスの場合は違う理由ね。ズバリ、カッコ良すぎて女の子が寄ってくるから。それしかないわ。だって、とってもとっても素敵なんだもの。


 私は黙ってルイスの前髪を直しメガネを戻した。他の人に見てほしくないわ。


「ルイスも全然似合ってないけどこっちの方がいいわね」


「フハッ」


 ルイスが楽しそうに肩を揺らし笑うので、私も一緒に笑った。


「そうだ、リーハの事教えてよ。今丁度自己紹介の時間だし、まずはお互い自己紹介しよ」


 ルイスからの提案に心が踊る。実はしたかったの、自己紹介。皆に仲良くして下さいって言いたかった。

すくっとベンチから立ち上がりルイスに向かって礼をする。


「私はリーハ・ハイドリア、趣味はお菓子作り。特技はバイオリンよ。ルイス、良かったら……私と仲良くしてくれる?」


「勿論だよ。これからよろしくな。俺はさっき言ったけど、ルイス・ガーレン。趣味は……そうだな、バイオリンを弾くのが好きだ。お菓子を食べるのも好きだ。特技は偽装かな……ハハッ」


 偽装?顔を出さないようにもっさり変装している事かしら。確かに間近で見ないとこんなに美しいなんて分からなかったわ。趣味はもしかして私に合わせてる?


「もしかして、趣味は私に合わせて下さったの?バイオリンとお菓子って」


「いいや、両方とも本当に好きなんだよ。バイオリン、今度一緒に弾こうか」


「……はい。お願いしますわ」


 とても嬉しくて意識して笑顔を作らなくても自然と口元が緩んでしまう。


ルイスと知り合えて、隣の席がルイスで良かったわ!









※※※※※※


お読み頂きありがとうございます。タイトル変更しました。

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