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辞退はさせてくれないみたい

 


 前回に引き続き今回もお父様とお母様を失望させてしまったと、自分の不甲斐なさが情けなくて帰りの馬車内で一言も話さなかった。


 それから1週間ほど経ったある日、王城からの使者が大きな箱を持ってきた。正体はプレゼント。差出人はルチアーノ殿下。


「あんなにそっぽを向いていたのに……」


 不思議に思いながらも大きな箱を開けると、色とりどりのキャンディが入った小瓶と共にドレスが入っていた。はあっと息を呑み広げると淡い水色のドレスはスカートに白のレースがたっぷり使ってありとても可愛らしい。


 手紙には「この前は噴水に落ちて災難だったね。風邪などひいてないといいけど。また3ヶ月後に元気な姿を見せて下さいね」と書いてある。


 なんて気遣いの出来る方なのかしら。手紙もとても爽やかだわ。ルチアーノ殿下に対しての好感度は上がっていく。


 しかし、たった2回しか会っていないけどウィカとスーザンは相当強敵であり、今の自分が何を言ってもあの2人に悪者にされる状態。挽回しようにも立場が悪すぎる。


 このままだとどんな罪を押し付けられるかわからない。下手したら命にかかわることだってあるかもしれないわ。

 ……挽回できないのなら関わらなければいい。やってもいない罪を押し付けられ死ぬなんてまっぴらごめんよ。


 金髪碧眼、理想の王子様は見目も良くセンスの良いドレスを贈って下さるほど優しい方だけど正直命を懸けるほどではない。3月後にまたあの2人にまみえるかと思うともう本当ご勘弁願いたい。


 結論としてやはり私は婚約者候補を辞退するべきだと思うの。

 贈り物を返したら失礼に当たるかしら?何とか婚約者候補から外して貰えるようにお父様にお願いしたいわ。2度も失態を犯しているし、今私の評判は最悪なのできっと問題なく外して貰えるだろう。


 ドキドキしながら父にお願いすると「公爵家の対立問題よりリーハの気持ちを取る」と約束してくれた父は早速王城に出向いてくれた。

 返事は後日送ると言われたらしいが私を引き止める理由はない。ないのだ!

 小さな小さな箱から大きな空の下に抜け出したくらいサッパリとした気分よ。


「やったわー!お父様ありがとう」


 王城から帰ってきた父に飛びつく。これで問題なく候補から外されるだろう。


 嫌な事から解放された喜びでラビィと2人、おどけながらバイオリンを弾きまくる。

 お母様は嬉しそうにピアノで参戦。お父様は瞳を細め聞いている。休憩はグレルが作ってくれた蜂蜜を練り込んだクッキーを食べながらティータイム。


 何気ない日常のなんて幸福な事。悩みの種が無くなっただけで毎日が楽しくなったわ。辞退を申し入れて良かった。今回は我儘を言ってしまったけど、こんなに重大な我儘を聞いて貰えたのだから次は逃げない。お父様が決めて下さった方と結婚するの。


 なんて気合を入れていたのだけど後日王城から使者が持って来た返事には「リーハ・ハイドリア公爵令嬢を候補から外す事は出来ない」と書かれていた。家族も使用人も私につられて皆どんより。


 何故なの?この手紙は見なかった事にして返したいわ。

 だって噂好きの貴族によってウィカの評判はうなぎ上り。一方私の悪評は今はもう知らない人はいない程でしょう?それなのに候補から外してくれないなんて私に死ねと言ってるようなものよ。


 関わりたくない。やってもいない事に胸を痛め、何を言っても信じて貰えない状況にもどかしさを感じモヤモヤしたまま生きて行くなんてある意味拷問よ。


 こうなったらさっさと婚約者候補から外して貰う為にウィカとスーザンのやる事成す事否定せずにいようかしら。でも私のせいで家が没落してしまったりしたら?ああ、なんて悩ましい!


 それからというもの、3カ月に1回という少ない回数ではあるが必ず登城し王子やウィカとスーザンと顔を合わせる事になった。


 さっさと婚約者候補から外してもらう為王子に愛想悪く接しようと思っていましたが、気を付けなくてもスーザンとウィカの策略により私の印象は最悪になっていると思われます。


 噴水事件の次の登城では叩いてもいないウィカの頬を叩いた事にされたし、その次には髪の毛を引っ張った事にされたわ。私どれだけ乱暴者設定なのよ。


 その次には王子の気を引く為と言う名目でわざと自分のドレスに飲み物をこぼした事に。すぐにいつも同じメイドが走ってきてくれるんだけど、決定的瞬間は「……見ておりません、申し訳ございません」って言うのよね。


 その次は……なんだっけ?お天気の悪い日に転ばされた?それともスーザンにお茶をぶっかけた事にされた事だったかな?よくもまあ毎回そんなに私を悪者にする知恵を思い付くものだわ。


 私はもうグッと堪えて言われるがままに非難され続けたわ。

 いくら言い返してもスーザンの秘技「私は見ましたわ!」が始まるしね。もう私の評判を地に落ちるまで落として婚約者候補から外される事を目標に我慢するしかなかった。学園に入る前に候補から外れたい。その一心よ。


 王子とスーザンとウィカと一緒の学園生活なんて不安しかないもの。

 約3年間悪評を受け入れ我慢して、とにかく我慢して。これ以上ない程地に落ちた評判。家族と使用人の支えが無ければきっと耐えられなかった。


 でもここまで評判が落ちたなら候補から外して貰えるはず。外して貰えなければ逆におかしいレベルまで落ちている。


 そう思い再び辞退の申し入れを行ったが返事はダメだった。


「何度打診されてもリーハ・ハイドリアを婚約者候補から外す事は無い。今後辞退の相談は受け付けない」


 さすがにこの返事には家族も使用人も、理由を聞いて応援してくれたいつも厳しい家庭教師バーシアもまるでお葬式のように暗くなったわ。


 どうして……何故……?もうここまでくると殿下も国もグルなのではないかと思えて来るわ。理由は家を没落させる為。水面下で行われている派閥抗争に巻き込まれているとか……あり得ない話じゃないのかも知れない。そう思うと自分の考えに背筋が寒くなる。


 候補から外れられると思って何もしていなかったけどこれ以上静観出来ない。もしもの時の為に必要なのはお金よ。稼いでおくに越した事は無いわ。


 早速父、母、ラディの3人に相談を持ち掛ける。勿論お金を稼ぐ案である。もし国家ぐるみで家を没落させようと計画されているのならば家族一丸となって立ち向かわなければと私は熱弁をふるった。全員頷き私達家族は更に固い絆で結ばれたのです!


 そして相談を持ち掛けた日からわずか2月後、新しい商会が設立された。

 今までグレルと作り上げたスイーツレシピで貴族向けのカフェを開店。柔らかい半分生のチョコレートやプティングにシャーベットとクリームにフルーツまで添えた豪華プティングはすぐに女性達から人気になった。


 お母様は音楽以外にも芸術に長けていたようで、斬新なドレスのデザインを次々と生み出した。これにはお父様もビックリ。という事で高級素材を使用し、斬新でありながら品のあるデザインのドレスを扱うお店も開店。

 私もラディとグレルと研究を重ね甘い味のポップコーンや水あめなど庶民向けの商品を開発し売り出した。


 地味に思えたけどこれが結構大当たり。甘いものはハイドリア家を救うのです――


「我が家の家系は商才があったのかもしれないな」


「本当ね、リーハが考え付いてくれたおかげだわ。発想力もあってこんなに可愛くて優しい子なのに……あの子達のせいで世間の評判が……」


「今までリーハが望むから黙認してきたが婚約者候補から外さないと断言された今、私が出た方が良いんじゃないか?私も自分の娘がこれ以上蔑まれるのを見てはいられない」


「お父様……」


 父の言う事ももっともだ。母もラディも父の言葉に頷いている。

 家族には辛い思いをさせているだろう。でもね、今までの事を考えると反論すると必ずやり込められるの。父が申し立ててもきっと対策を練られていて、もっとひどい状況になるかもしれない。


 私だけじゃなく父を、家自体を悪者に。それこそ国が狙っているシナリオかもしれない。そう思うと助けてほしいと首を縦に動かすわけにはいかない。もうすぐ恐れていた学園が始まってしまうけど、私は家族の為にも1人で耐えて見せるわ。




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