表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/22

婚約者に選ばれたくなったご令嬢とハッキリ聞きたい王太子

 


「来週だろ?婚約者発表パーティー」


 何気なくルイスに振られた話題に私は大きく頷いた。


「そうなのよ!突然過ぎて驚いたわ」


 王宮から来た突然の知らせにかなり困惑したわ。

 家族も私と一緒に驚くかと思ったのに皆嬉しそうに笑っていたのよね。


「良かったわね。ようやく終わるわね」


 なんて、その通りなのですが一緒に驚いて欲しかったわ。そして予定より2年半も早く決めてくれた王室に感謝。やっと自由になれるのよ。


 殿下からのお誘いを断り続けて無礼で非常識な女をしっかりアピール出来たし、ほぼ会話もしていないし私が選ばれる事は絶対にないわ。


「私出席しなくてもいいのではないかしら?」


「いや、ダメだろ。婚約者候補だし」


 はぁ、そっけないわ。「ああ、行かなくていい。リーハは俺の婚約者になるんだから」とか言ってくれないかしら。なんて……自分の行き過ぎた妄想に溜息を吐くとルイスが笑う。


「心配しなくてもきっとリーハの思い通りに行くよ」


 ルイスがそう言ってくれるなら私が選ばれる事は万に1つも無いって事だわ!きっとルチアーノ殿下から誰が選ばれたのか聞いているのよ。100%ウィカで決定ね。


「良かったわ。じゃあ婚約者候補の最後の義務として結果を聞きに行くだけね」


 なんて笑っていたのに――


 ついさっきルチアーノ殿下の婚約者をリーハ・ハイドリア(わたくし)に決定すると、高らかに告げられ叫び理由まで聞いてみたところよ。ルチアーノ殿下が選んだという予想外の答えに困惑しここからどうしようか悩んでいるの。


 正直逃げたいわ。でもこのまま走って逃げたらハイドリア家はどうなるかしら?家族の顔が浮かぶと軽々しく動けない。ただでさえ私のせいで辛い思いをさせてきたのに。これ以上家族に迷惑は掛けられないわ。


 ルイス……私今胸が押しつぶされそうよ。私の思い通りと真逆な事が起きてしまったの。

 これは婚約者候補と言う重要な立場にいながら殿下ではない人を好きになった私への罰なのかしら。

 グッと罪悪感を飲みこんだ時、スーザンが声を上げた。


「恐れながら、リーハ様が未来の王妃に相応しいとは思いません!殿下もご存じでいらっしゃいますでしょう?ウィカ様を突き飛ばすリーハ様の攻撃的な性格を、他人を蹴落とそうとする狡猾さを!到底国民の母となり得る人物ではございませんわ!国母となられるのはウィカ様が最もふさわしいと思います」


 大きく怒りで震えた声。その声を聞いたルチアーノ殿下は動揺する事も無くニッコリと笑った。

 いや、笑っていないでスーザンの言葉を真剣に聞いて下さると嬉しいですわ。


「ではウィカ・ポルトナス令嬢に訊ねてみよう。自分が最も王妃になるにふさわしいと思っているかな?」


 ルチアーノ殿下ではなく国王陛下が問いかけると大広間にピリっとした空気が走った。

 ウィカは堂々と胸を張り高座に向かって礼をする。


「はい。スーザン様のおっしゃる通りです。今までのリーハ様の行動を考えますと何かの間違いで発表されたとしか思えませんわ。私の方が立派に殿下をお支えし、国民を愛する自信がございます」


 良いですわよ2人とも。ここは団結して先程の発表をなかった事にいたしましょう。私も頑張りますわ!


「ルチアーノ殿下にお伝えしたいのですが、私自分で言うのもなんですがとても評判が悪いのです。そんな私が未来の王妃など到底無理だと思いますわ。どうにか考え直して頂きたく……」


 ルチアーノ殿下に向かい叫んでいると国王陛下と王妃様の間にサっと現れた人影に息が止まった。

 黒い宮廷服に身を包んだルイスだったから。普段の人前用のもさもさ頭ではなく艶のある黒髪を綺麗にセットし美しい顔を見せている。


「ルイス……」


 呟くと隣に立っているウィカが驚いたように私を見てくる。いつもなら嫌味を言う時しか話し掛けて来ないのに初めて普通に声を掛けて来たわ。


「もしかしてあの黒髪男はあなたのお友達のボサボサ男なんですの?何故あんな所に……?」


「そう、ルイスよ。何故あそこにいるのかは分からないわ」


 ウィカに答えているとハッとある考えが浮かんでくる。

 もしかして、私を攫いに来てくれたのではなくて?今からルチアーノ殿下に「悪いがリーハは俺のものだ!」と宣言して私の所に駆け寄り、手を取って走って逃げてくれるおつもりではないかしら?


 だから思い通りと言っていたのでは?ドキドキしながら手を差し出そうとしているとルイスがニコリと笑う。


「考え直しても結果は同じだよ。私は何回選んでもリーハしか選ばない」


 響いた大好きなルイスの声に全身が火照る。

 今私は信じられないような言葉を聞いたわ。リーハしか選ばないって。


 あれ?でも何故ルイスが答えるの?どういう事?

 首を傾げるとウィカはチッと軽く舌打ちをした。


「ど、どういうことですの?……もしかしてあなたに婚約者を決める権限がございましたの?一体どういう……」


「勿論決める権限がある。私が本物のルチアーノだからだ」


「はっ?!」


 ルイスの良く通った声にウィカとスーザン、そして私の3人は驚きの声を上げた。しんと静まり返った大広間。驚きすぎて足の力が抜けしゃがみ込む。と、ルイスが慌てて走って駆け寄り手を取り立ち上がらせてくれる。


「ルイス、どう言う事?」


「今まで騙しててごめん。後できちんと謝るから」


 ……本当にルイスが本物のルチアーノ殿下なの?

 にわかには理解できずルイスの顔を眺めるがそれは私だけではなかったみたい。ウィカもスーザンも周りの人達も口をポカンと開けてルイスに注目している。


「私は12歳の初顔合わせの時に見たんだ。自分で後ろに倒れリーハ嬢のせいにしたウィカ嬢とスーザン嬢の事を」


 ルイスの発言に一気にざわつく場。ウィカとスーザンの2人は顔を強張らせた。

 私の心臓はもう急展開について行けずバクバクドキドキ。

 ルイスは私の手を強く握ったまま声を張り上げる。


「ポルトナス家の者達が盾になっていたからあの瞬間を見たのは上にいた私と護衛の2人だけだ。そして周りの大人達は誰一人としてリーハ嬢の事を信じずウィカ嬢とスーザン嬢を信じた。ポルトナス家の誘導に加え2人は巧みだったから騙された者を責めはしないが、その様子をとても滑稽に感じると同時に恐怖を覚えた。だから私は父上に頼んだんだ。人間の本質が見たいから第三者として離れた所から確かめさせてくれと!」


 大広間はどよめきに包まれる。私は開いた口が塞がりそうにないわ。一番最初のあの時を見ていたから私の事を信じてくれたのね……

 ウィカとスーザンは驚きで目を見開きつつ真っ青な顔で震えている。まさかこんな展開になるとは思っても見なかったでしょう。私もよ。


 止まないざわめきに向かい高座から王妃様の声が響く。


「その相談を受けてここに居る私の甥、ルイス・ガーレンにルチアーノの代わりをお願いしたのよ。この国の母となる者を選ぶのだから慎重に見極めるべきだとね」


 隣に座っている国王陛下がゆっくりと立ち上がる。


「ここで皆に宣言しよう。リーハ・ハイドリア公爵令嬢の悪評はポルトナス家とコルトナーレ家によって作られた評判だと。両家が手を組みリーハ嬢を失脚させようと画策した事実に関して言い訳はあるかね?」


 陛下の問いかけにウィカとスーザンは高座を見る事も無く俯き震えている。

 ふと見ると私の背後に立って文句を言っていた人達全員が陛下から顔を逸らし震えていた。きっとポルトナス家とコルトナーレ家の人達なのね……


 混乱しどよめきが大きくなる中、人波をかき分け前に出て来た一団。誰かと思ったらソニアと友人達だった。私の隣に立つとソニアはスーザンの大声に負けない位の声を上げた。


「まだ信じられない方々に私達クラスメートも証言します!リーハ様はウィカ様とスーザン様に陥れられていましたわ!そもそもリーハ様はどこから見てもルイス様……身分を偽っていたルチアーノ殿下の事がお好きなのに2人に嫌がらせをする理由わけがないんですもの!」


「ソニア様!」


「良かったですね。ルイス様が本物のルチアーノ殿下で」


「……はい」


 ソニアの優しい微笑みに胸が熱くなる。

 それにしても皆に私の気持ちはバレバレだったのね。


 照れ隠しで笑うと目線の先にいる父と母と弟の顔が目に入る。3人はニヤリとした顔で頷いた。もしかして、3人は知っていたの?


 驚いているとルイス改めルチアーノ殿下が私の耳元で囁く。


「そろそろ俺がルチアーノだって理解した?」


 もう驚きすぎてどうにかなりそうよ。ついルイスって思ってしまいそうだけど。


「ええ」


「まだルチアーノの婚約者に選ばれたくない?他の人を選んでほしい?」


 意地悪な質問だわ。と言うかこの口ぶりではきっとルイ……ルチアーノにも私の気持ちはバレているのね。


「……いいえ、何が何でも選ばれたいわ。他の人を選ぶなんて絶対嫌よ」


「はぁ〜、やっとその言葉を聞けた」


 そう言うとルチアーノは国王陛下に向かい叫んだ。


「父上、後はお願いしてもよろしいでしょうか?私は早くリーハ嬢に城を案内したいのです。今まで出来なかった分を早く埋めたい」


 国王陛下が頷くとルチアーノは綺麗に礼をした。そして、いつかの学園での時のように私の手を引き走り出す。周りから驚きの声とソニア達クラスメートからの声援が飛ぶ。人波が割れ出来た道をルチアーノと2人で走り抜けた。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ