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ウィカとスーザン

 ハイドリア公爵家の次女、リーハ・ハイドリア。それが私。


 12歳の時にスッシャー国の第一王子、ルチアーノ殿下の婚約者候補に選ばれ王城に招待された。


 新調した淡いピンク色のドレスにフワフワに巻いたミルクティー色の髪の毛。我ながら柔らかそうな髪が美味しそうに見えて王子様に可愛いと思って貰えたら良いと緊張と期待で胸がいっぱいだった。王子様の婚約者候補の一人と言う響きを誇らしく感じていたわ。


 婚約者候補として恥ずかしくないよう背筋を伸ばし笑顔を作り、淑女を気取っていた。


 だけど、同じ婚約者候補に選ばれていたウィカ・ポルトナス公爵令嬢とスーザン・コルトナーレ伯爵令嬢に挨拶をした時、予想外の事が起こってしまったの。


 ウィカは赤い髪を結い上げ私と同じ淡いピンク色のドレス。スーザンは茶色の髪をハーフアップにアレンジし、ブルーのドレスを着ていたわ。

 色が被っているウィカのドレスを見ながら同じピンク好きなら気が合いそうと期待して声を掛けた。でも。


「ウィカ様、スーザン様、はじめまして。わたくし」

「キャァアッ!!」


 私が声を掛けたとたん突然ウィカが悲鳴を上げながら後ろに倒れたのだ。

 もちろん、その場にいる者達の視線が私達へと集中する。


 私は訳が分からぬまま後ろに倒れたウィカを助け起こそうと手を伸ばした。

 するとウィカは手を取るどころか露骨に避け顔を歪ませ肩まで震わせた。


「あの……お許し下さい……」


 何の許しを請うているのかさっぱり分からない私は首を傾げる。その隙にスーザンがさっと手を伸ばしウィカを助け起こした。


「ウィカ様、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですわ……」


 スーザンは起き上がったウィカの前に立ち、私に向かって大声を上げた。


「リーハ様酷いですわ!ウィカ様は挨拶しただけなのに突き飛ばすなんて!」


「えっ?そんな事……」

「まぁ!しらばっくれても私はこの目で見ていましたっ!リーハ様が公爵家のご令嬢だからと見て見ぬふりは出来ませんわ!」


 身に覚えのない事を糾弾されどうしていいか分からず正直声も出せなかった。只々表情を曇らせているスーザンの顔を見つめていると今度はウィカが声を上げた。


「スーザン様、わたくし自分で転んだだけですわ。だからリーハ様を責めないで下さいませ……」


「まあぁぁぁ!ウィカ様はなんてお優しいのかしら!王子の婚約者に相応しいのはポルトナス公爵家のウィカ様ですわ!ハイドリア家のリーハ様は帰った方がよろしいのじゃなくて?!」


 スーザンの大声に、いつの間にか大人達が周りを取り囲みちょっとした騒ぎになっていた。私達のやり取りを見てヒソヒソ話しだす大人達。


 私は初めての事態に不安でいっぱいになり、辺りを見回し一緒に来ている父と母の姿を探した。


 ヒソヒソ話をしている集団のその先に顔を真っ赤にしている父、その隣には今にも倒れそうな母の姿が見えた。


 お父様、お母様、助けて下さい。こんな時はどうすればいいのですか?誰にも教えて貰っていないのです。

 心の中で助けを求めるも事態は更に悪い方へ進んでしまった。


 この騒ぎのせいでなんと王子との初顔合わせが中止になったのです。


 突き飛ばしたなど身に覚えはないが自分のせいで中止になったのだと私は胸を押さえた。周りからの厳しい視線に加え、ヒソヒソではない周囲からの蔑みを感じ心が痛んだ。


 顔を真っ赤にしていた父は見知らぬ大人達に頭を下げている。


 私のせいで謝っているの?何もしていないのに何故謝らないといけないの?

 何もかも理解できないまま目の前にいるスーザンとウィカに助けを求めるように目線を向けた。


 目が合うとウィカとスーザンの2人はニヤっと笑った。その瞬間私は嵌められた事に気付いたのだった。


 そもそもハイドリア家とポルトナス家は表立った対立はしていないが決して手を取り合い仲良く歩む間柄ではなかった。


 どちらかの令嬢が王子の婚約者に選ばれたら力の均衡は崩れ片方が強大な力を持つ事になる。


 何としても自分の娘を婚約者にしたいポルトナス公爵はスーザンの父であるコルトナーレ伯爵と手を組み、私を潰す計画を立てていたのだ。


 あの時はそんな理由があるとは知らず、帰りの馬車の中でただただ泣き続けた。


 訳が分からないまま何も言い返す事が出来なかった事も、父と母に恥をかかせてしまった事も、とても悔しくて恥ずかしかった。


 もしまた今度こんな事が起こったらやっていないと堂々と主張しようと心に決めた。


 だがその決意は虚しく、既にポルトナス家とコルトナーレ家によって広められた噂話により、私は『自分が選ばれる為に他人を蹴落とそうと初対面の令嬢を突き飛ばした悪女』になっていったのだった。


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