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我慢をやめた2人は髪だけで我慢する

 


「あ〜、俺の知り合いの画家がモデルを探してて……もし良かったらリーハの家に行く時一緒に連れて行きたいんだけどいいかな?」


「えっ?モデルですか?」


「ああ……女の子を描く練習をしたいらしくて……誰かいないか聞かれて……それで……あ〜、リーハはどうかなと……」


 暖かな木漏れ日が射すベンチに座りルイスとお昼休憩中。なのですが、なんだかルイスにしてはやけにハッキリしない話し方。暑いのか少し頬が赤いですし目が泳いでますの。


 変なお話じゃないのだから申し訳なさそうにする必要はありませんのに。変なルイス。


「分かりましたわ。ルイスのお知り合いのお役に立てるなら嬉しいです」


「そうか、ありがとう」


 しどろもどろ、申し訳無さそうだった顔は瞬時に消えパッと微笑んだルイス。


 本日も黒髪が艷やかでとても魅力的。はぁ、好きです。


 ところでそのお知り合いの画家さんは女性付きならルイスも一緒に描いてくれたりしないかしら……?それをお部屋に飾って眺められたら最高よ。家宝にするわ。フフフ……


「あの……そのモデルはルイスと一緒に描いて頂く事は出来ませんの?」


「ああ!それもいいな、言っておく」


 ルイスは少し目を見開いて頷いてくれた。私の願望のせいかルイスまで嬉しそうに見えてしまいますわ。まぁ、勘違いなんですけどね。先日嫌と言うほど片思いだと分かりましたから。


 それでも、やりましたわ!2人の絵画なんてまるで夫婦のようではないですか!フフフフ。

 こんなに簡単に上手く行くなら最近ずっと気になっていた事を聞いてもいいかしら?


 頭をぽんと撫ででくれるようになったのと引き換えのように髪を解かなくなったのがとても気になりますわ。


 私の予想だと解いて撫でた後三つ編みするのが面倒になったか、飽きたかのどちらかだと思うのです。

 あ。でも、聞いたらまるで撫でろと催促しているように感じられてしまうかもしれません。


 正直、解いてくれなくなってから我慢していましたが……また撫でて欲しいです。あの勘違いしそうになるほどの色っぽさを感じてしまう指先と表情が見たいのです。要するに勘違いしたいと言う事です……現実逃避ですわね。


 何かこう、さり気なく髪の毛に触れてもらう方法はないかしら?


 自分でこう、ぐちゃぐちゃっとして「あら?おかしいですわね」と直してもらうとか……

 あの、髪の毛がルイスに話があるそうですわ。とか……


 あは、だめね。私全くセンスがないようですわ。ここはもう自分らしく真っ向からいきますわ!


「あのっ!髪の毛を……何故最近解いて触らなくなったのかお聞きしてもよろしいですか?」


 言った、言ってしまったわ!

 とても緊張して固くなっている私とは逆にルイスは少し口元を緩めた。


「気になる?」


「はいっ」


「……髪の事を聞いた時から初めて見るくらい顔が赤いんだけど、どうした?」


 やたらと熱いと思ったら私顔に出てますのね?


「あのっ……そのぉ……」


 また髪の毛を触って欲しいからなんて言ったら、図々しいとかはしたないと思われるのでは?恥ずかしくて何故かルイスの顔が見られないわ。ああ、目が泳いでしまう。


「もしかして髪、触って欲しいの?」


「はいぃ」


 あぁ、バレていたみたいですわ!前に髪を撫でられるのが好きだと言ったからかしら?それにしても私どうしていつも見透かされたような事を言われたらすぐに返事を返してしまうの?

 

 髪を触って欲しいなんてさすがに変だと思われますわよね?はぁ、恥ずかし過ぎます。穴があったら入りたいとはこの状況の為にある言葉だわ。


 後悔の念がわぁっと身体を走った時、ルイスの手が髪に伸びてサッと結ってある髪を解いた。風が髪をふわっとほぐす。


「我慢出来なくなりそうだったから」


 そう言うとルイスは以前よりもやたら色っぽく感じる熱っぽい瞳を少し細め、ゆっくりと髪の毛に触れた。


 ああ、久しぶりだからかしら?この表情、心臓に悪いレベルだわ。バクバクが尋常じゃないの!止まる?それとも飛び出す?どっちでも確実に言えるのは死んじゃうって事よ!そうなる前にとにかく話さなきゃ。


「なっ、何が我慢出来ないんですの?」


 ゆっくりと撫でていた手が止まるとルイスは私の瞳を真っ直ぐ見つめた。

 言いにくいのか迷いがあるのか、何か言いたげに口を少し開き結び、また開いてスゥと息を吸った。


「…………髪が柔らかくて花の良い香りがするしミルクをたっぷり入れたミルクティーみたいな色だろ?撫でる度に美味しそうに感じて……」


「まさか、飲みたいんですの?」


 私の問いかけにルイスは少し瞳を伏せて一拍置くと再び私の瞳を真っ直ぐ見た。挑発的に感じる視線が合わさると綺麗な唇が動く。


「いや……口付けたい」


 ああ!飛んだわ。間違い無く今私の心臓、飛んだ。だってこんなに悶えたのにゴロゴロバタバタじゃなくて倒れそうなんだもの。

 きっと私今立つことすら出来そうにないわ。全身が甘くって……


 でも残念ながら私に口付けたい訳じゃなくて髪が好きなルイスは髪の毛に口付けたいのよ。

 でもでも、髪も私の1部だし私に口付けたいと思ってくれたと素直に悶えていいと思うのです。

 はぁ、複雑に考えたら少し冷静になれたわ。


 気を取り直してルイスを見ると少し頬を赤く染めていた。


 はあっ。なんだか安心しましたわ。挑発的な瞳に見えたけどルイスも緊張していたのね?髪の毛だけど口付けたいなんてかなり大胆ですものね。私だけバクバクしたのではなくて良かったわ。

 

 よく考えたら私の予想を越えた美味しそうと言う理由にも納得は出来ますわ。自分でもこの髪の毛は柔らかくて美味しそうに見えますもの。


 うんうん、分かりますわ。って……!私今かなり動揺していますわ。だって、頬を染めていたはずのルイスが髪の毛を一束すくって髪をじっと見つめ動かなくなってしまったんですもの……まさか……まさかですわ……


 バクバクがバクンバクンへと変化する。固まっていたルイスが意を決したように目線を私に向けた。


「いい?」


「はいっ!」


 また即答してしまったわー!

 焦る私とは裏腹にルイスはまるで大切な物に触れるように、そっと髪の毛に口付けた。


 ああ。私、今すぐに髪の毛になりたいのですが、どこに行けばなれますか……




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