お互いの心が見たい2人は見えないからこそ強い想いを募らせる
「ニカ、知ってた?悶え過ぎると地面に転がって足をバタバタしたくなるの。外でするのははしたないからこうやって家でしているのよ」
ルイスを思い出しベッドの上で散々転がりバタバタしているとニカが薄っすら困った様な笑顔を見せたので説明しましたわ。
今日のお姿もカッコよかったんですもの。どうしてあんなに素敵なのかしら。
「お嬢様……どんどんのめり込んでいますね………」
「そうね。だって好きでたまらないの。朝から寝てる間まで絶えず好きだわ。とてもお優しいしルチアーノ殿下の婚約者に選ばれないように協力して下さるし、ウィカとスーザンからも助けてくれるのよ。今日なんて……ウフフ……可愛いって言って下さったのよ!ウフフフ」
思い出すと止まらないニヤニヤ。もうほんとに好き!何が何でもどこから見ても好き。前から見ても勿論溜め息が出るほどカッコイイですし。後ろから見ても男の子っぽい背中にドキっとしてしまうし横顔なんて至高の美しさなのよ。毎日何回心の中で好きと言っているか……
「お嬢様の話を聞く限りではルイス様もまんざらでもないような……」
「ホントに?本当にそう思う?」
「ええ、でも婚約者」
「やめてぇぇぇぇ!」
思い切り大きな声で叫んでしまったわ。
そろそろお父様の所に報告が来ているはず。それなのに聞くのが怖くてその話題を振っていないのよ。だって、もしいたらどうするの?
婚約者様と入れ替わるとかできないかしら?そう、婚約者のご令嬢と取って代わるのよ!……なんて、さすがに無理よね。ハイドリア家の総力を使い婚約者の地位を譲って頂くとかお金にモノを言わせるとか。お金なら商会で稼いだお金がありますわ。って、また皆から汚い手を使ってと噂されてしまうわね。
それでも、手に入れたいですわ。後ろ指を指されたとしても。ルイスの婚約者と言う地位を。
……ルイスさえ良ければですけど……
はぁぁと長い溜め息を吐くと聞こえるノックの音。
ニカが扉を開くと父がニコニコした顔で部屋に入って来た。
「嬉しい知らせだからすぐ教えようと思ってね。ルイス君の婚約者はまだ決まっていないそうだよ」
「きゃぁぁぁぁ!お父様、ありがとうございます!」
ベッドから飛び上がり父に抱き着く。喜びで足が震えてしまう。
婚約者がいないなんて嬉しすぎるわ!ああ、部屋がバラ色になったみたいよ。世界は美しいわ!
「本来ならこんな事を言ってはいけないんだが、私は父として娘を応援したい。殿下の婚約者が早く他の人に決まってくれたらいいんだが……モタモタしているうちにルイス君に婚約者が決まってしまう事もあり得るからな」
喜んでいる所にまた現実が来たわ。でもその通りなのよ。
「それですわよね。ウィカにもっと頑張って頂きたいのですが抜け駆け禁止と言って2人きりでお会いしない状態なのです」
「ううむ。何か良い手があると良いのだが……」
「考えてみますわ」
「そうしなさい。それとルイス君はいつ家に来れるんだね?」
「再来週のお休みの日ですわ!」
ルイスは何やら忙しいみたいで半日なら来れると言う日もあったのだけど、一日まるっと空いている日にしてくれたの。おかげで間が空いてしまったけど長く一緒に居られる方が嬉しいわ。
*********
「私、ルチアーノ殿下と2人でお話をしようと思うの」
「はっ!?どうした?まさかアイツに誘われた?」
いつものようにベンチに腰掛け言うとルイスは慌てて立ち上がった。
昨日早くウィカとルチアーノ殿下をくっつける方法を考えたのです。
殿下曰く「鬼ごっこ」の時のようにまた私が2人を出し抜けばウィカとスーザンも抜け駆け出来ないなんて言ってられないのではと。
焦って2人でお話するのではないかしら?私がルチアーノ殿下とお話する時はまた無表情で「相槌を打つ係」になるだけですわ。
「いいえ、誘われておりませんわ。ただ、私が殿下と2人でお話したらなんだかんだ言ってもウィカ様も殿下と2人でお話ししようとすると思いませんか?」
私の提案にルイスは途端に表情を変え眉根を寄せた。そしてドサッと音を立て隣に腰掛ける。
「何故そんな事を?」
「殿下に早くウィカ様を選んで頂く為ですわ……」
相談に乗って応援してくれると思っていたルイスの不機嫌そうな顔と声に心が縮み、小さい声で返事をした。
「はぁっ……」
ルイスは頭を押さえ深く鋭い溜め息を吐いた。
間違いなく何かが気に障ったみたいですわ。なんだかドロドロとした重たい空気が流れているみたいよ。
初めての雰囲気に胸がキリキリと痛む。不安で何も言えずにいると、ルイスはもう一度大きな溜息を吐き声を出した。
「却下だ」
「はい」
ルイスの迫力と重い空気に思わず返事をしてしまったわ。
「何故ウィカ嬢を選んでほしいんだ?」
「……早く殿下に婚約者を決めて欲しいの。自由になりたくて……殿下の婚約者候補と言う立場から抜け出したいの」
自分の気持ちを正直に言うとルイスは今にも涙が溢れて来るのではないかと心配するほど悲しそうな表情で私を見つめた。
何故ルイスがそんな表情を?私まで胸が痛くて痛くて、潰れちゃいそうよ。
見つめるとルイスはゴクッと聞こえるほど唾を飲み声を出した。
「リーハの気持ちは分かった。でもアイツと2人で話すとかはもう考えるな。俺がどうにかするから」
いつもより少し低い声に寂し気な瞳。ニカが言う通りもしルイスもまんざらでもないならきっとこんな表情はしないはずよ。私が自由になるからと喜んでくれるはず。はぁ。全然ダメだわ。まだまだ片思いのまま。
「分かったわ……」
俯き溜息を吐くと気まずい沈黙が続く。暫くするとふとルイスが囁くような声を出した。
「なぁリーハ、笑ってくれないか?笑顔が見たいんだ」
突然の言葉に狼狽えましたが、ルイスに目線を向けるとやけに寂しそうな瞳とぶつかったので、黙って微笑んでみせる。
「もっと笑って、俺に見せてよ」
あまりにも切なげな瞳と表情で言うルイス。また嫌と言うほど胸が締め付けられるのですが。
「ルイスも笑って下さい……私もルイスの笑顔が見たいですわ」
「リーハも?」
深く頷くとルイスは切ない顔が嘘みたいな綺麗な笑顔を見せた。
ルイスの笑顔に身体が熱くなって私も微笑むとドロドロとした空気を払うように頭を撫でてくれた。
「もしアイツ、ルチアーノがさ、手を繋ぎたいって言ったら繋ぐ?」
「え?繋ぎませんわ」
「なら……俺は?」
「ルイスなら繋ぎますわ……」
この質問の意味は何なのでしょうか?私が首を傾げるとルイスは首どころか体ごと傾げ何かを考えているように唸った。
「ん〜…………許す」
「何がですの!?もしかして怒っていましたの?」
「ちょっとね。死ぬかと思った」
怒りで死にそうなほどですって?!一体何をそんなに怒らせたのでしょうか……
「良く分からないけどごめんなさい……」
「良くわからないのに謝るな。元はと言うと俺のせいだしな……はぁ、嫌と言う程自覚したけど俺の道のりが遠いのか近いのか全然分からない」
「……私も分からないですわ」
ルイスが怒った理由も悲し気な瞳の理由も質問の意味も全然分かりませんわ。ルイスの心が見えたら良いのですが……
ひとつはっきりしたのは私は片思いで、死ぬほどルイスが好きって事よ。




