重なる2人の思惑と手
何故こんな事が起こってしまっているのか私には理解不能なのですが、今校舎裏の隅の方で私の目の前に膝に手を突き前かがみになりぜえはぁと息を切らしたルイスとルチアーノ殿下とソニアがいますの。
あ。勿論私も同じポーズで一緒にぜえはぁしています。
事の発端は本日の授業全てが終わった瞬間でした。
ルチアーノ殿下が珍しくおひとりで私に近づいて参りました。すると突然私とソニアに立つよう言ってきたのです。
不思議に思いながらも立ち上がると何を思ったのか殿下は「逃げるぞ!」と叫んで私とソニアの手を取り走り出したのです。私もソニアも何から逃げるのか分からないまま走りました。
すると後ろから凄い勢いでルイスが走って来て殿下と私の間に割り込んでルチアーノ殿下の手から私の手を奪い取り走ってくれました。
そう、私はルイスと初めて手を繋げたのです!ルイスが私の手を引き全力疾走する姿の素晴らしさと言ったらもう……カッコ良すぎて足を一歩踏み出す度に心が揺さぶられました。
重ね重ね何が起こっているのか分かりませんがルチアーノ殿下には感謝しかありませんわ。
「はぁっ、オイ、どういうつもりだ?」
息を切らしながらルイスがルチアーノ殿下に言うと殿下はニッコリと爽やかな笑顔を見せた。
「ははっ。少しこのメンバーで遊んでみたくなってさ。鬼ごっこ、子供の頃よくやったよね?」
殿下の言葉にピっと手を上げたのはソニア。
「申し訳ございませんが何故私まで……」
「リーハ嬢だけじゃ寂しいだろう?君が目の前にいたからついでにね」
ついでって……ルチアーノ殿下ってこんな強引な所もある人だったのね?全く知らなかったわ。そんな理由で巻き込んでソニア迄ウィカとスーザンに目を付けられたらどうするのよ。ルイスと手を繋げたのは感謝だけどそれは別物。
「殿下、ついでとは酷いですわ。もしソニア様がウィカ様とスーザン様に誤解されたらどう責任を取るおつもりですか?」
「その通りだ。後先考えず行動しやがって……」
ルイスも深く頷き私に同意すると殿下は穏やかな口調で話し出した。
「僕が守るから大丈夫。ソニア嬢には被害が及ばないようにするよ。驚かせて悪かったね」
「はぁ……ルチアーノ殿下って意外と突拍子のない方だったんですね……」
ソニアがポカンと口を開けると殿下は愉快そうに笑う。と、ルイスが殿下の肩を組み捕まえて距離を取った。2人でお話をするのでしょう。私は深くソニアに頭を下げる。
「巻き込んでしまったみたいでごめんなさい」
「リーハ様が謝る事じゃないですわ。それに殿下とこんなに気安く話すなんて男爵家の私からしたら一生に一度の事かも知れないもの。良い記念になるわ」
なんて良い方なのかしら。クラスで友人が多いのも頷けるわね。私とも是非友人になって頂きたいですわ。折角ここまで来たのだからこのまま帰るのも勿体ないですし。
「よろしかったらあちらの木陰に座ってお話しません事?」
「はい」
ソニアは笑顔で答え一緒に木陰に座ってくれた。
私にも同性の友人が出来そうですわ!さぁ、お話をしましょうと思ったらすぐにルイスとルチアーノ殿下が私達の目の前に座った。
「せっかくだから話でもしよう」
ルチアーノ殿下がにこやかに笑う。
いつも上辺だけで話しているような印象がある殿下だけど今日は本気で楽しそうに見えるわ。ルイスは疲れたように肩を落としているけど呆れたように笑っている。
ソニアは光栄ですと言っていただけあって笑顔を見せているわ。でも私は殿下とは仲良くなりすぎないように、愛想良くし過ぎないようにしなくてはならないの。
結果「相槌を打つ係」になったのよ。せっかく友人を作るチャンスでしたのに……!
*******
「昨日手引っ張ってごめん。痛くなかった?」
いつものベンチに座るとすぐにルイスが謝って来る。リラックスしたルイスは本日も見目麗しく私の心を掴んで離してくれないみたい。スカイブルーの瞳にいちいち見惚れてしまうのです。
手……痛くなんてありませんし謝られる事ではありません。むしろこちらからお礼を言いたいくらいですのに。私と手を繋いでくれてありがとう。と!出来るならもう一度手を繋ぎたいくらいですわ。
「全く痛くありませんでしたわ」
手を広げて見せて微笑むとルイスは優し気に目を細める。
「良かった。それにしても……手、小さいよな?やっぱり女の子だな」
「そうですか?ルイスの手が大きいのではなくて?」
昨日走っていた時はとにかく手を繋いでいる喜びと走っている揺れで良く理解出来ていませんでしたが確かに私の手を包み込んでくれていましたわ。
今、この座っている状態で手を繋いだら良く分かると思うのですが「手を繋ぎましょう」なんて言えるはずが無いのです。
何か手が繋げる魔法の言葉とかないかしら?
ジッと自分の手のひらを見て考えているとルイスが突然体を動かし姿勢を正した。
「気になる?手の大きさ」
「気になりますわ」
「じゃぁハイ。手」
ルイスが私に向かって手の平を見せて来た。これは手の大きさを比べようって事よね?
うるさいくらいにバクバク言っている私の胸。どうにかなってしまいそうだけど差し出された手に自分の手を重ねるまでは自分を保つのよ。
緊張で震えながらルイスの手に自分の手を重ねた瞬間何かが手の平から伝わるような不思議な感覚が流れ込む。これは普通なのかしら?
もしかしたら私の好きって言う気持ちも一緒に触れているのかもしれないわ。
私より大きく少し角ばったルイスの手にほうっと息を吐く。
緊張から唾を飲みルイスの顔を見ると少し照れたような顔に見える。だってほんのり頬が赤く見えるんですもの。またルイスの好きな所が増えてしまいましたわ。
でも照れていると思ったのにルイスは突然ギュッと私の手を握った。
「重ねるだけよりこうやって握った方が差が分かると思ったんだけど……どう?」
「わ……私もそう思います」
答えるとルイスは嬉しそうに笑った。
見なくても分かる男らしい手と温もり。それに指先がやけにくすぐったい。ああ、できるならこのままずっと手を繋いでいたいわ。




