好きな子の前では余裕に振る舞うけど内心必死な王子は親戚兼親友から心をえぐられる
今回はルイス(本物のルチアーノ視点です)
「2人で話すようになってから気持ちが更に大きくなったな。今はもう髪に触れてる指先から気持ちが溢れてるんじゃないかってくらい好きだ」
「ハイハイ」
赤い絨毯が敷かれた部屋の中央にドンと置かれた真っ白な革張りソファ。広い部屋なのに置かれているのはソファ2脚とテーブルだけ。
かなり空間を無駄遣いしていると言っても良い。ここが俺専用の応接間。寝室はドア一枚で繋がっている隣の部屋だ。寝室も勿論1人では広すぎる。
何が言いたいかと言うと早くリーハと2人の部屋にしたいって事。
ソファに腰掛け切ない胸の内を打ち明けていると言うのに、子供の頃から兄弟みたいに仲が良い親戚兼親友のルイスは適当に相槌を打っただけ。
「適当だな。この深い想いを聞いて欲しいのに……あ、昼間リーハに2人きりで食事とか言い出したの何だよ?悪ノリし過ぎにも程がある」
学園で俺の代わりをしているルイスは今の言葉を聞いた途端肩を落とし、苦々しい顔を見せた。
「ルチィはいいよね。毎日毎日好きな子と一緒にランチを食べてさ。僕はあの2人にいつか襲われるんじゃないかとビクビクしながら毎日を過ごしてるの。要するに!たまには僕も裏のない素直な子と話してみたいの!」
言葉に棘が生えているかと思うほど苛立ちが伝わって来る。
リーハにちょっかいを出そうとするなんて説教だと思っていたが、逆に俺が謝る方だったらしい。
「ルイスには感謝してるし悪いと思ってるよ。でもリーハはダメだ」
「だって僕が知ってる女の子はリーハ嬢とあの2人しかいないんだよ?それにルチィがそんなに夢中になってる女の子と1度くらいゆっくり喋ってみたいと思うでしょ?今までの顔合わせも絶対3人一緒に会わないとダメだとか言うから、当たり前のようにあの2人に邪魔されて僕自身リーハ嬢とゆっくり話せた事がないし。断られると分かっていながらルチィの為に毎日毎日リーハ嬢に声を掛けてあの2人と食事を共にしてんのどんな気分か分かる?2匹の蛇に睨まれている気分で食事してるんだよ?僕もリーハ嬢と話して、ルチィみたいに癒されたい!」
早口で吐露したルイス。相当ストレスが溜まっていたんだろう。「悪い」じゃ済まないレベルだ。
いくら陛下からの命令で代役をやっているにしろ、友人として謝罪するべきだ。
「嫌な役目をさせてごめんな。心から謝る。俺だったら多分あの2人を撒いて逃げるな……」
心からの謝罪が通じたのかルイスの顔が緩んだ。
「……まぁ、この役目を引き受けたおかげで家柄だけじゃなくて中身が大事だってわかったからいいけどさ。人を見る目も養えたと思うし。それは置いといて、1度くらい本当にリーハ嬢と話ししてみてもいい?」
やけに食い下がるな……そこまでリーハと話してみたいのか?だが本当に申し訳ないが尚更ダメだ。
笑った顔も不思議そうに首を傾げる表情も可愛すぎてすぐに画家を呼びたいくらいなんだ。我慢してるけど。
正直リーハが素顔を見せていたら学園中の男共が惚れてしまうんじゃないかと心配になって気が気じゃない。
この前、髪を綺麗にセットして来た日は焦ったよ。室内なのにリーハだけ陽の光に照らされてるみたいに輝いてた。他の男には絶対見せたくないと心底思ったね。
「秘密」と言う言葉に興味を示してくれて助かったけど。
リーハの素顔を知ってる上にこんなに興味を持っているルイスが2人きりで話したら好きになるに決まってる。
「ダメだ。話したらリーハの事を好きになるだろ?」
「話しただけで好きになると思ってる所がもう重症だよね……」
呆れ顔で言われたがその通りだ。重症だよ。俺はリーハの一挙一動を見逃さないように必死だが、学園中の男共からは見られないように視界を塞ぎたいとまで思う。
「まぁね、俺のリーハは可愛すぎるから苦労するよ」
「……俺のじゃなくてルチィの婚約者に選ばれたくなくて必死なリーハ嬢ね」
「くぅっ」
そうだった。ルイスは昔からこういう人の心臓をえぐるような事を平気で言うんだよ。今のは過去最高にえぐられた。
毎日ルイスにお昼を誘わせている理由は婚約者に選ばれたくないから頑張ると言う欲を満たさせる為と、断るのを理由に俺が彼女の時間を独占する為。
この矛盾した行為に俺の心は結構複雑に痛んだりするんだよね。
「やめろ。ただでさえ胸が痛むのにこれ以上心を攻撃しないでくれ。それに、髪の毛に触れるだけで抑えている俺の気持ちが分かるか?もっと触れたい欲が凄くて毎日苦しいのなんの」
リーハの事を好きになって人間の欲は底がない事を知った。髪に触れたくて堪らなかったが触れられるようになると次の欲が出てくる。
最近は触れている髪の毛にキスしたい欲と手を握りたい欲と抱きしめたい欲が凄いな。正直言うとキスもしたい。でも我慢だ。
「なんかルチィも苦労してるんだね。僕と比べたらずっと贅沢な悩みだけど。いいなぁ〜。ほんと、僕も誰かに恋してみたいんだよね〜」
ちょっと待て……恋する気満々じゃないか。なんて恐ろしいんだ。
「ルイス、リーハに恋する気満々だっただろ?」
「うん。だって他にいないでしょ?」
「お前……」
立ち上がるとルイスが吹き出した。
「アハハ!ルチィ顔必死!冗談に決まってるでしょ?恋はしたいけどさすがにリーハ嬢には手は出さないよ。惚気てくるからからかいたくなっただけ。あー僕にも誰かいい子いないかな?」
ケタケタと笑うルイスに呆れ笑い。本当、ルイスは穏やかで誠実そうな見た目と違って時々キツイ毒を吐く猫みたいな性格してるんだ。こうやって素で接してくれるからこそ俺も本音で話せる唯一無二の存在なんだけど。
そんなルイスにいい子と言われてふと1人思い浮かんだ。彼女なら少し奔放なところがあるルイスをしっかりと制御してくれそうな感じがする。
「なら真剣にお勧めが1人いる。ルイスにピッタリな相手だと思うよ。ソニア嬢だ」
ソニアはリーハがいない時俺に声を掛けて来た。
「リーハ様の噂って嘘ですよね?私から見るとあのお2人の方が悪く感じるんですけど……」
「お前見る目があるな」
「それはどうも。……それに、リーハ様ってどこから見てもルチアーノ殿下の事お好きには見えないのよね……」
何か含んでいるような物言いだったが噂だけを鵜呑みにせず鋭い観察眼を持っていると感心した。将来王妃の侍女に推薦しようかと思っていたがルイスの婚約者に推薦しても良いかもしれない。
「ルイスは俺のせいで婚約者探しもままならないもんな。ソニア嬢に婚約者がいないのなら本気で推薦するよ。俺の方は早めに決着を付けようと思ってるからもう少し待っててくれ」
「分かった。ソニアってリーハ嬢の前に座ってる赤茶色の髪の子だよね?ルチィが人をお勧めするなんてかなり珍しいから興味ある!婚約者がいないか確認してみようかな?全てが終わった時すぐ話が進められるように」
「ああ、そうしろ。もうリーハと2人きりで話そうなんて誘うなよ?」
「それはノリだね。だってあの2人がルチィに向かって好き勝手に言うのが面白くてさ。笑いを堪えるのに必死でかなり困ったんだよね」
確かに俺も正体をバラした時にあの2人がどんな顔をするのか想像したら思わず吹き出しそうになったけど、1度でいいよ。
この先ストレス溜まりまくってるルイスが暴走しない事を祈った方がいいかもな。




