表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

翻弄されているのはお互い様

 


「本日もお誘い頂いたと言うのに申し訳ございませんが昼食は他の方と約束しておりますの……」


 私は目の前のルチアーノ殿下に深く頭を下げる。


 なぜでしょうか?急にルチアーノ殿下から毎日ランチに誘われるようになったのです。

 そして連日お断りをしている状況。ウィカとスーザンは私が断る度に笑顔が増えて今では嫌味の一つすら言って来なくなりましたの。


 これじゃ言い返す事も出来ないのですがお断りをする度に教室内がざわめくので私の評判は殿下のお誘いを断る無礼者として最悪な印象になっているでしょう。


「残念だな。1度くらいは君と食事を共にしてみたいんだけど。なんなら2人きりでも……」


 珍しくルチアーノ殿下が本気で残念そうな声を出すと久しぶりにウィカとスーザンの顔つきが厳しくなった。それと同時にルチアーノ殿下の背後にいるルイスが立ちあがる。


「え~と、ルチアーノ?断られたんだからさっさと食事に行けばどうかな?」


 ルイスの言葉に凍り付く教室内。

 私はルイスの事を父に聞いてルイスとルチアーノ殿下がご親戚だと知っていますが私以外ルイスの事を調べようとした人はいないのでしょう。

 きっと「目立たない地方の貴族の息子」だと思っているのだと思いますわ。


 だってウィカが顔を赤くしてルイスを睨みつけたんですもの。


「ちょっとあなた、殿下に対して失礼なのではなくて?」


 ウィカが怒りで声を震わせると続いてスーザンが声を大きくした。


「そうですわ。どこの田舎から出て来たのか分かりませんが、王太子殿下に対しての言葉遣いが全くなっていませんわよ。その不格好なマッシュルームみたいな髪を見たらお家の程度が分かりますけどね。さすが、リーハ様と良くお話になっているだけあって常識をご存じないみたいで」


 スーザンの大声にウィカが鼻で笑う。


「教育を受けられるなら今からでも受けた方が良いですわよ」


 蔑むような瞳で見てますがルチアーノ殿下のご親戚ですよ?本気でルチアーノ殿下の婚約者になりたいなら勉強しておくべき事ですわ。

 ムカムカが頂点に達し口を開く。


「お2人共ちょっと言い過ぎではなくて?ルイス様に対してとても失礼ですわ」


 私にしては大きな声で言い返すとルイスが「落ち着け」と言わんばかりにサッと手を出した。


「ご忠告ありがとうございます」


 ウィカとスーザンに向かって礼を言ったルイス。

 なぜそんな態度を取るの?親戚だっていえば良いのに!悔しくてハンカチを噛み締めたいくらいだわ。


 心の中でキィと悔しく思っているとルチアーノ殿下が気まずそうな笑顔を作った。


「僕は気にしてないから良いよ。それにちょっと悪ノリした所があるから……」


 ルイスに目配せをするとウィカとスーザンを連れて教室を出て行った。

 ウィカとスーザンは「お優しすぎますわ!許してしまうとしめしがつきませんわよ」と殿下に訴えていたけれど当の本人は困り顔をしたのみ。

 それはそうよ、ご親戚なのにそんな事を言われても困るに決まっているじゃない。


「なっ」


 何故親戚だと言わないのですか?とルイスに向かい声を出そうとしてやめました。ルイスが笑いを堪えるように口を押さえ肩を揺らしていたからです。それにわざと内緒にしているのかもしれません。


「ムカついたけど面白かったんだよね」


 いつものベンチに座りルイスは上機嫌で私の髪の毛を撫でる。

 ベンチに来るとルイスは決まってメガネを取り片方の前髪をサイドに流しネクタイを緩めリラックスするようになった。

 

 そして私の髪を解いて撫で、休憩が終わりに近づくと編んでくれる。残念な事に器用なのかすぐに三つ編みが上達して不格好では無くなりましたが編んでもらっている間とても愛おしいです。


 今のイタズラ少年みたいに笑っている顔も大好き。


「何がそんなに面白かったのですか?」


「ん?ちょっとね。それにしてもあいつ調子に乗ってるから今日帰ったら説教だな」


「全く意味が分かりませんわ」


「リーハは分からなくて良いんだよ」


 ルイスのイタズラっぽい微笑みが含みのある笑顔に変わる。変わる瞬間をスローモーションのようにゆっくりと脳裏に焼き付ける。

 

 言葉一つ一つを直に受け止められる距離感。この破壊力をどう表現すればいいのかしら。ルイスのちょっとした表情の変化や言葉や仕草に私ばかりが翻弄されているのよ。


「ズルイですわ」


 ボソっと呟いてみるとルイスが目を見開いた。


「その内話すから」


 慌てて言ってきたけど何の事やらですわ。


「何の事ですの?」


「へ?」

「え?」


 お互い首を傾げ合い目が合うと髪に触れていたルイスの指先が私の頬に触れた。


「っ……」


 驚き息を飲むとルイスは頬をひと撫でして立ち上がる。


「ヤバイな……俺もう限界かもしれない」


「何がですか?」


 ルイスを見上げると、口を結びじっと私を見下ろしてくる。

 何も言ってくれないと不安になるわ。


 目が合うとルイスは「はぁぁ」と大きなため息を吐いて隣にまた腰掛けた。


「立ったら逆効果だった」


「今日のルイスは全然意味が分かりませんわ」


「そうだな、リーハには一生分からないんだろうな。少し悔しいよ」


 悔しい?そう言うなら私も悔しいですわ。

 こうやってルイスの言う一言に翻弄されるのが。少しルイスにも味わって欲しいくらいですが……それこそ、一生分からないでしょうね。


 私が「はぁ」と息を吐くと同時にルイスも「はぁ」と小さく息を吐いた。気付いてお互いフッと笑う。


「リーハの溜め息の理由が俺と同じとかだったら最高なんだけど、ないよな?」


「ルイスの理由は何ですか?」


「ん~……俺の頭は不格好なマッシュルームかって……」


「気にしてらっしゃったのね?わざとしている髪型なので平気かと思っていましたわ」


思わず笑いが込み上げるとルイスは拗ねたように口を尖らせた。


「やっぱリーハから見ても不格好なマッシュルーム?」


「いいえ、とても素敵なブロッコリーですわ!」


 突然の問いかけだったにしろ、好きな人にはもっと気の利いた事を言うべきでしたのに。

 つい思っていた事を元気良く答えてしまいましたわ。ルイスは肩を揺らし暫く喋れないほど笑い続けてくれましたが……

 

 笑ってくれたのは嬉しいのですが、このままの私を恋のお相手として見てくれる時は来るのでしょうか?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ