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毛ほどもございません

「静粛に。これより婚約者を発表致します」


 イマルネス宰相の言葉が響き渡ると演奏されていたワルツが止み、くるくると円を描くように踊っていた紳士淑女もピタリと止まり声の主に注目した。


 キラキラと光るシャンデリア。床には延々と敷き詰められた赤い絨毯。隅々まで丁寧に磨かれているのが分かる真っ白に輝いた壁には国旗が掲げられている。そう、ここは王城の大広間。


 本日はルチアーノ王太子殿下の婚約者発表パーティー。

 婚約者を発表するだけなのにパーティーを開くなんて大袈裟な気がするのだけど王族主催なので仕方がない。


 凛とした空気が流れていますが、選ばれるはずが無い私には一切関係ない行事なのです。いち婚約者候補の義務として参加しているだけでございます。


 まぁでも、早く結果は聞きたいわ。聞いて安心して家に帰って窮屈なドレスを脱いで眠りたい。

 私は決められた定位置に立ちつつ、心の中は既に家のベッドで眠っていた。


「ルチアーノ王太子殿下の婚約者は………………」


 イマルネス宰相が言葉を止め間を取ると、ご丁寧に宮廷音楽隊がドラムロールまで鳴らす。


ドドドドドドドド…………


 なんて無駄にもったいぶるのかしら。もう23時なのよ。いつもならもうとっくに寝ている時間なの。早く終わらせて私の心と身体を早く解放して下さいませ。

 睡魔に負け少し俯き目を閉じる。と。


 小刻みに続いていたドラムの音がドン!と強く打ち鳴らされた。ようやく発表だと薄っすら目を開く。


「リーハ・ハイドリア公爵令嬢に決定する!」


「えーーーーーー!」


 高らかに告げられた自分の名を聞いて一気に目が覚め、立場も人の目も忘れ大声で叫んでしまったわ。

 周りは着飾った貴族達で溢れかえっていると言うのに。でも他の誰かも私に負けないくらい叫んでいましたわ。


 それはそうでしょう。1番選ばれるはずが無いと評判だったリーハ・ハイドリア(わたくし)が選ばれたのだもの。


 私の評判は地よりも低く、自分でも選ばれる事はないと高を括っていました。

 王子に恋心もなかったし、選ばれないようにとても頑張って過ごしたのよ。それこそ神経をすり減らし、荒波に抗うのではなく乗ってしまえと青春まで捧げてきたわ。


 婚約者候補からの辞退だって2度も申し入れた。

 でも辞退は認められなくて、仕方なく他の婚約者候補から仕立て上げられた悪女と言うイメージに乗り何年も耐えてきたというのに。


 それなのに、一体誰が空気を読まずに私を婚約者に選んだというの?王太子殿下の婚約者なんて冗談じゃないわ。


 だって……私には好きな人がいるんだもの。ルイス……こんな状況なのに思い出しただけで胸が高鳴りポッと熱が上がったみたいになるわ。考えただけで熱が上がる。私の心はルイスと言う甘い病に侵されているの。なんて。


 ああ、どうしましょう!無理よ。ルイスじゃなきゃ嫌だわ!

 どなたか「異議あり!」と声を上げて今の発表がなかった事にしてくれたり王宮を爆破してくれないかしら。


 あまりの衝撃に現実逃避していましたが、ふと気づくと周りはざわざわとしていて背後からこんな声が聞こえてくる。


「何故リーハ令嬢が選ばれたのか!未来の王妃だと分かっているのか?」

「ああ、おかしい。他人を蹴落とす悪女と評判の令嬢を選ぶなんてどうかしてる」

「一体どんな手を使ったのかしら」


 何故選ばれた?どんな手を使った?そんなのこっちが聞きたいわよ!誰か賭けでもして胴元が儲かるために仕組んだのではなくて?


 今すぐ叫び出したい気持ちをグッと抑える。すぅと息を吸い、水色のドレスのスカートをつまみゆっくりとルチアーノ殿下を始め王族が座っている高座に向かい礼をした。


「あまりに驚いて取り乱し、声を上げてしまい大変申し訳ございませんでしたわ。ところで何故私が選ばれたのかお聞きしてもよろしいでしょうか?皆様も大変気にしてらっしゃるようですので」


 さあ、はっきりしない理由ならば難癖をつけて考え直して頂こうかしら。自分で異議ありって言ってもよろしいですよね。


 そう思ったが口を開いたイマルネス宰相は意外な言葉を返してきた。


「ルチアーノ殿下ご本人がお決めになった事です」


 ルチアーノ殿下が?


 驚き顔を上げ、シャンデリアの光に照らされ輝いている金髪のルチアーノを見ると、青色の瞳を細めニコリと微笑んだ。


 隣に座っている黒髪が渋い国王陛下も、その隣に座っている金髪美女の王妃様も私に向かってとてもニコニコと優しいお顔で微笑んでいるように見える。


 その様子に更にざわつきが起こる大広間。隣に立っている同じ婚約者候補のウィカなんて公爵令嬢らしからぬ舌打ちをしていらっしゃる。


 その隣にいる同じく婚約者候補のいつも声が大きいスーザンは「何かの間違いよ!殿下がリーハの評判を知らない訳ないわ」と声を震わせている。


 その気持ち分かるわ。私も一緒に言いたいもの。なんなの、ルチアーノ殿下は性格が悪い子がお好みの悪趣味野郎なの?と。


 それとも私が2度も婚約者辞退を申し入れたから嫌がらせ?もしそうなら平和的で穏やかに見えるのに腹黒すぎるわ。


 お父様、お母様「私、婚約者に選ばれるつもりなど毛ほどもございませんでしたの。悪しからず」って言っても良いかしら?そのまま走って逃げても良いかしら?


 今ここでどんなおかしな行動を取れば無かったことに出来ますか?……お願いルイス、私と一緒に逃げて!





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