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墓守り辺境伯と天使な修道女

墓守り辺境伯と天使な修道女【デート編】

作者: 月乃宮 夜見

登場人物


【修道女】

純白の髪に深い青い目の正しく「天使」のような修道女。死者の為に祈る。

魔力の純度がかなり高く、祈りの力も凄まじい聖女候補。しかし彼女自身は生者の為に祈りたく無いので聖女になる気は全く無い。

所属先は某十字教でいうプロテスタントっぽい雰囲気のオリジナル宗教。


この世界でも、異世界からの転生者/転移者が聖女やら勇者になる事が多いが、それに匹敵する(あるいはそれ以上の)魔力の持ち主。


【領主代行】

漆黒の髪に暗い赤の目の、不吉な男性。魔獣を食し、魔獣化できる魔術師。普段は暴走を抑える為の煙草を吸う。

動けない領主の代わりに代行として色々貴族のパーティーとかに出席する。また、貴族はもれなく国軍に所属しなければならない決まりにより、対人間部隊の部隊長もやっている。


因みにこの領土は90%が墓地で住民の80%以上が死人である。魔獣が大量発生する国境の辺境伯。


《前置き1》

この国は一般国民は志願制、領主家等の貴族は半ば強制的に国軍への入隊が定められている。領主代行はそこで対人間部隊の部隊長の一人。

他は対魔獣部隊、工作部隊、魔術師部隊、砲兵部隊、科学部隊などがある。金よりも実力主義。


《前置き2》

国土の公道は殆ど国軍が見回りをし、領土内は領主の持つ兵士達が警備に当たっている為、国自体の治安は割と良い。学習、医療が完全無料で大体消費税10~15%。

娯楽の税率5%、酒煙草類の嗜好品の税収10~30%(種類による)。



前編(?)

https://ncode.syosetu.com/n4287gz/

「墓守り辺境伯と天使な修道女【求婚編】」

「この日、空けていただけませんか」


 領主代行は、修道女に声をかける。今は午前中の祈り(と言う名のお昼寝タイム)が終わった、何もない昼前だ。


「……私は、いつも空いておりますよ?」


この領土は、屋敷と孤児院の人間以外は全て死人の土地だ。余程のことがない限り、唯一の教会とはいえ忙しくなる事はない。


「そうでしたね…」


しまった、と少し目を見開くも、彼は持ち直して言葉を続けた。


「それでは、この日に出かけたいと思っているので、準備していただけないでしょうか」


「はい」


何かしら。……失礼ながらも、このヘタレな領主代行様がデートなんて誘えるはずがないし、と少し考えていると。


「他の地域の墓地の視察を行いたいのです」


そう、彼は言ったのだった。


「…なるほど」


『近くに教会もあるので、ついでにみませんか』みたいなお誘いだった。


「(墓地の…視察…)」


 別にがっかりはしていない。戒律などのお陰で修道女はこの土地からあまり離れることができないために、(墓地巡りとはいえ)外に出られるのはとても嬉しいことだった。


「(領主代行様らしいですね!)」


にっこり!修道女は彼と出かけられるだけで十分に嬉しいのであった。いや、めっちゃ嬉しかった。


「(殿方とデート…なんて初めてです)」


デートとは言われていないが、自分の中でデートと思えばデートだ。


「どのような服がよろしいのでしょう…」


上気する頬を押さえながら服について考える。どうせ歩き回るだろうから動きやすい服にして。でも、ちょっぴりオシャレに。



「それでは、行きましょうか」


 当日。領主代行は黒手袋に覆われた手を差し出す。それにそっと手を重ね、修道女は馬車に乗り込んだ。

 普段より近い距離感と密室に二人きりという状況だが、滅多に出来ない外出である事、それに大好きな彼と一緒に出掛けられる事が修道女の胸を躍らせるのだった。


×


「ここは……が有名なんですよ」


「なるほど」


 目的の領地に向かう前に、彼はその土地の特徴や特産を大まかに教えてくれた。ちなみに領主代行ではあるが、お忍び&個人的用事なので盛大な出迎えなどはない。


「お越し頂き、誠に有難う御座います」


「此方こそ、…」


 彼が、ちゃんと領主代行としての仕事をしている。


 その領地の墓守りや周囲の人間達と会話する様子を見、まず修道女はそう思ったのだった。

 普段は彼は軍の仕事で外に出ているし、修道女は礼拝堂で祈りを捧げたり、近くにある孤児院で勉強を教えたりしている為、彼の仕事姿など初めて見た。


「…(きちんとしていて、格好良く見えます)」


ほぅ、と内心で感心する修道女。因みに普段見ているヘタレ姿は可愛いと思っている。


「そちらの方は…?」


修道女の方を見ながら住民は領主代行に問い掛けた。


「ああ、彼女は我が領地の修道女で……他の領地の(死者の)為に祈りたいのだとか」


言った覚えは無かったけれど、そういえば誘い文句にそれっぽい事は言っていた。それに、祈る事自体は苦痛では無い為、修道女は笑顔で頷く。


「それは結構!ささ、どうぞ」


と、墓地の側にある教会へ誘導される。どこの礼拝堂もまま似たようなデザインだ。


「……神の御加護を…」


 修道女は心の底から(死者の為に)祈りを捧げた。──その姿を見た者達によって『祈りの天使』とかいう異名が付いたのはまた別の話。



「次の約束の時間まで、少し時間が余ってしまいましたね」


 次の領地に行く前に「あそこに行ってみませんか」と彼は誘う。その先に有ったのは、美術館。


「美術館…ですか?」


実はこの修道女、人混みが苦手。


「貴女が興味がある、と聞いていたので」


彼は柔らかく微笑む。


×


「素晴らしい作品ばかりでした!」


 修道女は目を輝かせて領主代行へ感想を語る。この美術館、超マイナーな画家や彫刻家、陶芸師の作品しか置いて無いので館内は人混みとは無縁のガラガラのスカスカでした。白い大理石と柔らかい光、音や衝撃の吸収措置の取られた美術館自体も実は作品だったりする。


「お気に召したようで、良かったです」


彼は安心したように小さく溜息を吐いた。なんだか、心の底から安心したような様子だった。



 予定の時間になり、次の領地へ移動し領主代行はその領地の墓を見て、修道女はその近くの教会で祈りを捧げる。すると、気が付けばすっかり日が高くなっていた。


「一旦休憩をしましょうか」


領主代行は疲れていないように見えるが、街中にある時計を見ると昼食頃の時間だ。


「そうですね。お弁当は持って来ていませんが……」


どうしましょう、と修道女が首を傾げた時


「丁度良いお店が、この先にあるんです」


彼はそっと、修道女の手を取る。


×


 着いた店は物静かな、所謂喫茶店と呼ばれるような場所だった。


「ここの紅茶やコーヒーは美味しいですよ」


静かに、彼はメニューを差し出す。


「おすすめはこれですが」


食事メニューを指してくれた所で、ふと修道女は「(これはデートなのでは?)」と、薄らながらも確信を持ったのだった。

 紅茶は好みの味だったし、メニューの量も丁度良かった。忙しい筈の彼が、色々な土地の色々なお店や良いもの(或いは修道女が好きなもの)を既に把握しているなど、下準備をしていた以外にどう納得出来るだろうか。


「…(…まあ、偶然でも構いやしないのですけれど)」


なんだか小さな満足感を得ながら、修道女はゆっくりと紅茶に口を付ける。



 また、次の時間まで余裕があるらしく、周囲をゆっくり見て回る事になった。ここはのんびり出来る、木陰やベンチ等が沢山置いてある、広場だ。


「あれはなんでしょうか!」


そこに停まっていたキッチンカーに、修道女は目を向けた。


「……あれは、若者の間で流行っている、カラフルなスイーツですね」


彼は「どうしますか」という目線を修道女に向ける。


「食べてみたいです!」


その言葉に彼は快い返事をした。


「良いですよ。戒律で食べられないものは「ないです!」……でしょうね」


すごく目がキラキラしてました。


「ふふ、色が付いてます」


 目に鮮やかな、真っ青なスイーツを食べる修道女を見、領主代行は目を細めた。


「本当です!領主代行様も、赤い色が付いてますよ」


鮮血のように真っ赤なスイーツを喰む彼に修道女は楽しそうに笑う。


「そうですね。着彩しているものですから……絵の具、みたいなものですかね」


多分、と彼は呟く。


「絵の具……?」


そうおうむ返ししながらふと思い付いた事を、彼に問い掛ける。


「もしかして、私が領主代行様の赤い方を食べたら舌は紫色になるのでしょうか?」


「……そうなる、とは思いますが…」


何かを考え込むように目を動かしたところを、


「『隙あり』です!」


ぱく、と修道女は彼の持っていたスイーツを食べる。


「どうでしょう?」


べ、と修道女は舌を小さく出し彼に見せる。


「……変わってます、ね」


一瞬、呆気に取られた様子をしたものの、領主代行は笑顔を見せる。


「私には見えませんね……鏡があればよかったのですが」


むぅ、と修道女が思案しようとした時


「…………試してみましょうか」


ぱく、と、彼が修道女の持っていたそれを口に含んだ。


「ちょっと、味が違いますね」


そう呟き、彼は修道女に舌を見せてみる。


「…どうです、変わりましたか?」


「あっ、変わってます!すごい、紫色です!」


私の舌もそのような色になってるのでしょうか、と再び自身の持つスイーツを口に含もうとする。が、


「……はっ!」


唐突に気付いてしまった。……これはもしかして、間接キ「どうなさいました?」


「なっ、何でもありません!」


覗き込む彼から顔を背け、修道女は完食した。彼は気にしていないように見え、それを少し残念に思うのだった。


「……(神よ、どうか欲深い私をお許しください…)」


そっと心の中で神に懺悔する。神は多分文句も咎めもしないだろうけれど。スイーツを食べ終わると浄化魔法で色をきちんと落とし、次の領地に向かった。


×


 墓地や教会の視察を終え、今は屋敷や孤児院の人達へのお土産を購入していた。楽しかったな、と思いながらも、修道女は疲れが溜まっていた。それは出歩いた所為ではなく、張り切って祈り過ぎた事が原因だった。


「今日中に国内全ての墓地を視察するのは、やはり大変ですからね」


帰りの馬車の中で修道女の頭をあやすように撫でながら、領主代行は話しかける。


「また、一緒に行ってくれますか?」

× 二人の移動速度早くない?的な疑問の解説 ×


使用していた乗り物は『馬車』という名の特殊な魔導機で、道路のように魔法で整備された(指定された)馬車用の道を揺れを少なく高速で、あるいは目的の場所へ瞬時に移動してくれる優れものです。


馬のような姿の精獣が引いているので馬車。


特殊な道は貴族しか使えない上に使用許可の申請が必要なので基本は面倒がって使わない人の方が多い。

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