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トラップと呪い<上>

MAGI レム睡眠時 夢を見た

そのひとつ 霊の存在と 悪意の絡繰が 結託して襲ってきた

 翔は珍しくテレビを見ていた。長らくPCでネットにアクセスし、動画を見てはポータルサイトのニュースを流し見しているルーティンだったので、テレビをつけるのは本当に久しぶりだった。最後にまともにテレビを見たのはいつだっただろう、それぐらい久しぶりだった。

 流れた番組は、どうやら心霊バラエティなる番組だった。お笑いタレントが心霊スポットと呼ばれる場所に行って調査したり、特に危険のない場所でアイドルが幽霊に扮してドッキリを敢行したりといった、一昔前の心霊番組にしては幾分か質は変わっていた。

 それを見て翔は下らないと思っていた。一昔前の心霊番組だと、心霊写真の検証やおふざけ無しの心霊スポットロケ、ポルターガイストの科学的検証と、ヤラセかどうかの真偽はさておき、面白味が凄く良かった。

 怖いと思いつつ覗き見る感覚。今の番組ではそれが感じられない。そんな一昔前に思いを馳せて、翔はテレビを流し目で見ていた。

 すると、画面に妙な家が映り込み、翔はじっと見た。建てられて軽く五十年近くにはなろうかと言う年季の入った一戸建ての家屋が映っている。

 外壁は昔はサーモンピンクだったのだろうが、カビが所々に生えていて黒ずんでいる。今では余り見られなくなった引き戸の玄関で、建て付けが悪くなっているのかド引き戸が斜めになっている。その引き戸の隙間から何か人の顔のような物が外を除いていた。

 しかし、そのシーンは一瞬で、タレントと撮影スタッフは、有名な心霊スポットに到着しました、と朗らかにカメラ目線で元気よく声を発している。

 そこじゃないだろ、本物を見過ごしたぞ。翔は内心毒づいた。

 その有名な心霊スポットは、山の斜面に沿って作られた小さな公園で、木々に囲まれていて如何にもな雰囲気を醸しているが、さっき通り過ぎていた家屋に比べたら何と陳腐な事か。これはヤラセだな、と思った翔はテレビを消して、スマホのSNSアプリを開く。今テレビに映っていた家屋の事を調べる為だ。探すとやはり出て来た。

 W市大字Sにある、今から五十年以上前の建物で、三十年前からずっと空き家のまま廃墟化しているらしい。更に廃墟になった原因が、この家屋で殺人事件があったらしく、以来土地自体にも買い手が付かず、そのまま誰も触れていないらしい。

 学生時代によく心霊スポットを巡りしていたが、大学卒業後就職してから一度もしていない。しかもこの場所は地元にも近いから、里帰りを兼ねて行っても良い。更に検索して見ると、この廃墟に撮影に一緒に行く人募集と言う投稿があった。

 迷う事なく翔は投稿者に「参加したい」と連絡した。


 その気になった廃墟の近くに、翔はいた。翔のみならず、その撮影に参加するであろうか、既に何人もいた。翔も併せて六人といったところか。

 参加を呼び掛けた主催者、阪東が全員に声をかける。

「今日はお集まり頂きありがとうございまっす!!」

 調子よく阪東が言っていたが、おそらく配信者としてのキャラを演じているのだろう。どことなく塗り固めた、と言った印象を持てる。

 カメラを回しているのは坂木、特に何もリアクションも取らず、無言でハンディカメラを回している。幾分も不愛想な女性に感じる。

 カメラに向けて、阪東が他の参加者の紹介をし始めた。

 加奈。地下アイドルをしているそうで、配信コラボということで参加したとの事。しかも住宅街のど真ん中でメイド服を着ている。これには周囲の目にどう映るか気持ちが落ち着かない。

 涼平。ホスト風の見た目で金髪、かなりチャラそうである。しかも場違いとも言える程、光沢のあるグレーのスーツを着ている。おそらく仕事着であって、配信されるので見た目も仕事並みに気を遣ってきたのであろう。

 ワタル。如何にも引き籠りであると言った印象。手入れを一切していないクシャクシャの髪に、もう夏は過ぎて肌寒くなってきているのに半袖で汗だくである。肥満気味で運動不足なのが見て取れる。

 何というデコボコ軍団。どう見ても色物しかいない。そんな中で翔は、自分の雰囲気が余りにも普通過ぎる見た目だ、と思えてきた。

「ではこれから、ドマイナー心霊物件の調査を行います!」

 阪東が軽薄な声を響かせる。翔は前もってこの阪東の動画を視聴していたが、このノリの軽さはどうにも好きになれていなかった。

 どうやらこれから入るその“物件”は、一階ではなく二階にしか入れないと言う。普通なら、一階に入ってから二階へ行くものなのだが、この物件の特徴が妙で、一階と二階の入り口がそれぞれ独立しているのである。メゾネットタイプのアパートの走りなのか?とも思える物件だが、どうやらアパートとしての住居ではなく、家族一組しか住んでいなかったそうである。

 確かに、道に面した一階の壁に、引き戸の玄関があって、向いて左側に階段室がいきなりある。普段はシャッターで閉められているようだが、今回は特別に開けてもらえたようだ。

 撮影で、阪東が加奈にやたらと絡んでいる。男の本能が燻ぶられているのか、喋り口調や仕草は動画でのイメージを何とか保っているが、目が少しギラギラしている。それに加奈は特に嫌そうな反応でもなく、アイドルとしての演じたキャラなのだろうか、ぶりっ子ぶっていた。そこに涼平が割り込んで何とか会話に入ろうとするが微妙にかみ合っていない。ワタルは撮影には興味を示さず一眼レフのカメラを廃墟に向けてとにかくシャッターを切っている。この光景、本当に配信してもいいのか?

 そんなバカげた空気に翔はあきれたが、ふと階段室から何か気配を感じ、翔は階段室の入り口に目を向けた。

 階段室の入り口には何もなかったが、どうにも奥から何か変な空気が漂っている。

 近づいてはいけない。何故か翔の頭の中にこの言葉が過ぎった。

 しかし、普段見る心霊番組がどんどん下らなくなったから、怖いもの見たさで撮影に参加したんじゃないか。翔はおそるおそる入り口から階段の上を見上げた。

 どうやら階段の上部の右側に、廊下が続いているようだが、その廊下の方向に足が引っ込むのが見えた。異様に白い。しかも十一月に差し掛かろうかというのに素足だった。あれは何だ?

「そう言えば翔さん!」

 突然声を掛けられ、翔はびくついた。阪東が声をかけてきたようだ。これに加奈も涼平も、小馬鹿にしたように小さく失笑する。ワタルはまだシャッターを切り続けている。坂木は相変わらず無表情のままだ。

「なぜこの企画に参加していただけたのでしょうか!?」

 ああ、やっぱりこのノリは苦手だ。翔は内心毒づいた。


 潜入前のシーンの撮影を終わらせ、一行は中に入る準備を始めた。とは言ってもちゃんと準備しようとしているのは坂木とワタルの二人だけ。それぞれのカメラを入念にチェックしている。阪東、加奈、涼平は相変わらず妙な会話を繰り広げている。加奈の取り合いなのか?一体何しに来てるんだ。

「翔さん」

 坂木に声をかけられた。翔は少しハッとした。誰とも口をきいていなかったので声をかけられたこと自体驚いたが、何より驚いたのは坂木のルックスだった。よくよく見るとかなり綺麗な顔立ちをしている。加奈はかわいらしいルックスではあるが、品のあるノリではない。余りにも凛としていて女優とも思える。敢えて地味な恰好をして、眼鏡をかけて本来のルックスをごまかしていたのだろうか。

「階段の上に何かいましたか?」

 坂木は抑揚もなく聞く。見透かされた感じだ。

「あ・・・、はい」

 翔は気の抜けた返事をした。どうにも美人と向き合うとあがってしまう。

「また見えたら教えてください」

 坂木が一方的に会話を終え、カメラのチェックを再開する。

 翔は首をかしげたが、何も聞かなかった。

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