85 自己紹介
コルネリウスはリシュアール侯爵ってしてましたが、ミスです!伯爵です!けど2学年では天使の血筋の女の子一人を除いて、コルネリウスの家が一番爵位が高いです。
食堂の屋根は高くて陽の入りも良い。
何十人も座れそうな長い木の机が4列ある。食堂で座る場所は一応自由だが、基本的には右から1年、2年、3年、4年の順に長机を使うらしい。
あと4列ある長机とは別に、一段高いところに『天使の血筋』専用席が設けられている。ここは天使の血筋しか座ってはいけない。一段高いので間違って座ることは絶対にないが、間違えないように気をつけてねとセシルにさっき説明された。
食堂に入るとすでに結構な人数が揃っていた。皆が俺を探るような目線で見る。決して否定的なものではない。けれども俺の価値を測っているような目だった。
んー…やっぱ皆、幼くても貴族様なんだなー…
最初に公爵やシリウスを相手しといてよかった…
公爵はたまにとても怖い目をする。
けれどもそれを隠すのも物凄く上手い。だから暫くはその目線に気づかなかった。シリウスは言わずもがな、いつも怖いしね。ある意味あの人らのおかげで同学年の目線を怖くは感じなかった。
俺は礼儀の授業で習った「歩きながらの自然な笑顔」を浮かべて、右から2列目のみんなのいる席に近づいた。
すると長机の真ん中、みんなの中心に座っていた「金髪碧眼の貴公子」こと、コルネリウスが立ち上がって俺とセシルに近づいた。
『アグニ!昨夜ぶりだね。昨日は……今思い出しても震えそうだよ…』
コルネリウスが赤くなった顔を手で扇いだ。
「え?なんで?……あ、シーラとのダンスか。」
昨日のパーティーでシーラと踊った後からコルネリウスの様子はなんかおかしかった。魂が抜けたらきっとこんな感じなんだろう、って様子だった。
俺の言葉にコルネリウスは大きく肯定した。
『そうだよ!逆にそれしかないだろ!?……なぁ、アグニ。いつでもいいから…そのうちに家にお邪魔させてくれ』
物凄く真剣な顔なのに下心しか見えない。断ります。
コルネリウスに続いて席を立った男子が俺に手を差し出した。茶髪に茶目の好青年だ。
「こんばんは。そして初めまして。僕はカール・ブラウン。アグニ…と呼んでいいかな?」
「初めまして。ああ、アグニって呼んでくれ!」
俺とカールと言う名の少年が握手をしていると、カールの後ろから別の男子が出てきて俺に手を差し出した。カールより少し明るめの茶色の短髪に黒目の青年。背が大きくガタイも良い。
「パシフィオ・アガッツィだ!父がアガッツィ男爵当主で帝国軍師団長だ。俺も軍部を志望してる。アグニは…苗字がないのか?」
ガタイの良さに軍人志望を納得しつつ答えた。
「ああ!俺貴族じゃないから!名前しかない!」
俺のその宣言で、一気に俺に興味を失くした人が数名いた。その他には、気が楽になったような顔をする者、俺を不憫そうに見る者、蔑むような目線の人もいた。何人かはパシフィオの質問に焦った。
おぉ〜貴族じゃないってわかったらこれですかぁ
皆様、結構極端ですねぇ〜……
カールが眉間に皺を寄せて大きくため息を吐いた。
「貴族じゃなくても構わないだろ?僕の家はただの一商会だが、お客は貴族も平民も、天使の血筋もいる。どの身分も大切なお客様だ。それに僕の家は男爵の身分を買った、元平民だ。」
カールの言葉にパシフィオが慌てる。
「俺は別に貴族じゃないのをどうこう言うつもりはなかったぞ?!ただの確認だ!知らなきゃまずいから!それに俺の家だって昔に男爵位を買った元平民だ!……男爵位はほとんどがそうだろ?というかカール、お前の父君は子爵だろ?」
「曾祖父の代で子爵に上がっただけだ。」
聞くところによると、各家々で経営しているお店や事業に共通する名前がないと不便だからという理由で爵位を買って苗字を得る家柄が多いのだそうだ。セシルの家も元はそうらしい。曰く、男爵位から身分が上がることでやっと「本物の貴族」になれるそうだ。
今までの会話を黙って聞いてたコルネリウスが、皆に聞こえるように俺に言った。
『ここにいるほとんどの人がまだ爵位を受け継いでない、ただの子どもだ。アグニと何も変わらない。同学年として、対等に仲良くしてくれると嬉しい。』
コルネリウスのこの一言をみんな黙って聞いていた。そして俺に自己紹介をしてくる子たちが増えた。コルネリウスがこの学年の頂点であること、まとめ役であることは明らかだった。
・・・・・・
「え?研究会?」
「ああ。放課後に同じ趣味を持つ人同士で集まって、より深く学びを得るんだ」
昼食の時間、そう言ってカールが説明してくれた。
『研究会』…自分の将来伸ばしたい分野の研究や練習を行う場であったり、趣味嗜好を共有する場でもある。例えば、文学研究会。主に文官志望者たちが自身の読んだ本の話をしたり、議論を交わしたりする。女子だけの文学研究会なんてのもあるらしい。その他には、数学研究会や生物研究会、武芸研究会、裁縫研究会、技術発展研究会等様々だ。参加の有無は自由で、別に何もやりたくないって人は普通に寮に帰ってもいいらしい。
「へぇ~面白そうだな!みんな何入ってんの?」
『僕は武芸研究会。パシフィオもそれだけだよね?』
コルネリウスの言葉にパシフィオが頷く。
「ああ、それだけだ。カールは?」
「僕は文学研究会だね。」
「へぇ~。セシルは?」
俺の斜め向かいに座っていたセシルに聞く。
「私は…技術発展研究会と…女子文学研究会と裁縫研究会…」
「すげぇ!3つも入ってんの?!」
「うん……」
『入る数に制限はないから、アグニも気になるものがあったらいくつでも入っていいんだよ。』
コルネリウスにそう教えてもらい、気になる研究会は一回見に行ってみようと決意した。
『そういえば、アグニは何志望なの?』
コルネリウスの質問でみんなが俺に視線を向けた。
この第1学院の卒業生には主に6つの就職先がある。
①帝都軍部・その他公国の軍部
②帝都文部・その他公国の文部
③帝都技術部・その他公国の技術部
④大公家や天使の血筋、高位貴族の侍女や侍従
⑤大公家や天使の血筋、高位貴族の護衛騎士
⑥家業を継ぐ!
例えばカールはブラウン商会を継ぐので⑥だし、コルネリウスやパシフィオは①、セシルは③だ。そして俺はまだ何も決まっていない!!!この学院には、シリウスみたいに『僕旅人やってる~』とか俺みたいに「冒険者やろ~」みたいな選択肢は無いようだ。
「えっとぉ……んー……」
正直どれも良い。なんなら鍛冶師も続けたいし、冒険者も続けたい。けど技術部にも興味ある。武芸が楽しいから軍人も楽しそうだし。護衛騎士もできると思う。唯一微妙なのが侍従かな…?俺に気遣いなどができるとは思えない。シリウスほどではないが。
答えに悩んでいるとコルネリウスが優しく言った。
『まぁ、今日初日だしね。ゆっくり自分のやりたいこと見つけてけばいいよ。』
「……あぁ、そうだな。色々見て決めてみる!」
『うん!』
すると急に長机の端の方に座っていた同学年の子らが立ち始めた。
「え?なに??」
『あ、いらっしゃったんじゃないかな?』
「え??」
コルネリウスを始め、全員が立ち上がったので俺も一応立ち上がる。すると昨日の代表生の女の子が歩いてきた。
天使の血筋のシルヴィア公国の姫君だ。
少し紫がかった金色の髪と青紫の瞳によく合う紫色の制服で、深緑色と金色を装飾に使っている。足首までのスカートに、薄紫のヒール。シャツの色も白ではなく、少し紫がかっている。
その子を見ているとコルネリウスが小声で言った。
『アグニ…!お辞儀して…!』
「え??」
俺が周りを見渡すとみんな礼を取っていた。
おおおおう!!!!やっちまった!!!
俺が急いでお辞儀をしようとしたところで凛とした透き通るような声がかかった。
『礼を解いてください。』
ああああ!お辞儀する前に解かれたぁ!
どうしたもんかと思いつつ立ってると、その子が俺の目の前で立ち止まった。
え??やばっ。怒られる……?
しかしその考えは覆された。彼女は宝石のような瞳で俺を見上げて言った。
『あなたが編入生ですね?』
とてもきれいな声だった。そしてもうすでに、この年齢にして威厳があった。
「あ、そう!俺アグニっていうんだ!」
俺の言葉に一瞬ピクリと目を動かした。
『……そうですか。私はシルヴィアという名です。』
「おう!シルヴィア!よろしくな!」
俺が手を差し出すとシルヴィアは軽く目を見開いた。そして周りから息を飲む音が聞こえた。
隣に立っていたコルネリウスが俺の手を下げ、シルヴィアに優しく言った。
『シルヴィア様、昨夜ぶりですね。我々一同、また明日からシルヴィア様とご一緒できることを大変うれしく思います。』
コルネリウスがシルヴィアと話している間に、反対側のカールが小声で教えてくれた。
「バカかアグニ!シルヴィア様になんで敬称無しなんだよ!」
「え?だって同学年は敬称無しって……」
「それは原則だ!天使の血筋は別だろ?!」
「え?!あ、そうなの?!」
俺は急いでシルヴィアに向き直り頭を下げた。
「ごめん!あぁ、違う…ごめんなさい!大変失礼いたしました!今後間違いがないように気を付けます!」
数秒沈黙が訪れた。
あれ?……芸素が…?
するとシルヴィアが軽くため息を吐いて俺に答えた。
『無理に敬称も敬語も付ける必要はありません。明日からの授業頑張ってください。…では。』
シルヴィアが俺の前から去り、周りの生徒はほっと息をついた。
コルネリウスがびっくりした顔で俺に言った。
『…シルヴィア様からお許し…でたね…』
「いや、あれは一応そう答えただけで、敬称も敬語も付けなきゃいけないやつじゃないか?」
カールが眉間をぐりぐりしながら言った。けど・・・
「いや、たぶん大丈夫だ。」
「「『 え??? 』」」
あの時…俺が呼び捨てしたとき、確実にシルヴィアの芸素は揺れた。
本当に少しだったから誰も気づかなかったようだが、まるで高揚しているかのように芸素が広がった。
なんだか…とても嬉しそうに感じた。
「みんなが思うより…人が好きなんじゃないかなぁ」
俺の言葉は誰の耳にも届かず、風のように流れていった。
カールの家の「ブラウン商会」。一度閑話でその名が出てきましたが…覚えてますか?
あとコルネリウスのお兄さんも一度出てきてますね。気づきましたか?




