80 シーラの考え
また授業の日々が始まった。
休み時間や授業後の遊び時間にはシリウスと武芸の練習を行なって、息抜きをしている。
けどたまに木を吹き飛ばしちゃったりするので、その都度バレないようにと「藝」で直すが…大抵バレて怒られる。
まぁそんなことをしながら日々過ごしていた。
その日は授業が休みの日だったので、結構だらだらとしていた。
シリウスは朝からどっか行ってて、広い居間には俺とシーラしかいなかった。
「ねぇ、アグニ?」
「ん?なに?」
お互いソファに寝転がりながら会話を続ける。
「暇よね?」
「んーまぁ…」
「じゃあ、一緒に踊りましょう?」
「おぇ??」
急の話に驚き、姿勢を直してシーラを見た。
「踊るの??」
「えぇ。練習しときましょうよ。」
正直シーラと踊るのは楽しいので全然構わない。
なんなら練習は重ねたいしな……。
「わかった!シーラ、相手役お願いしていい?」
俺がわざとらしく手を差し出すと、シーラが美しく笑い俺の手に手を重ねた。
「ふふっ、紳士な男性は好きよ。もちろん喜んで。」
・・・
「アグニ、あなた結構上手になったんじゃない?」
「え、ほんと??」
よかった!!!
シーラに言われるとまじっぽくて嬉しいな!
「ええ、随分安定してきたし、相手のペースを見れるようにもなってるわね」
「まじで?合格点取れる?」
「取れるわ。私が保証する。」
シーラがウインクをして答えた。ちょうどその時、シリウスが部屋に入ってきた。
『ここにいたんだね。何してるの?』
「ダンスの練習よ。」
『2人で?』
「練習は2人いればできるわよ。」
シリウスは何の感情も入ってないような笑顔を作った。
『ふーん、じゃあ僕また出かけてくるね。』
キィーーー バタン。
「………シリウス、どした?」
俺がシーラに聞くと、ため息を吐いて答えた。
「自分だけ除け者にされた気がして寂しいんでしょ。んもう、ほんと素直じゃないわね」
「あー、あれはそういう意味だったのか。」
俺が頷きながらシリウスの出て行った扉を見ていると、シーラが笑顔で言った。
「アグニ。今日はこの辺にして、少し2人でお話しでもしない?」
・・・
今いる小ダンスホールの隅に小さめの机と椅子が置いてあるので、そこで紅茶を用意してもらい2人で休憩をとった。
「なぁ、シーラっていつシリウスと出会ったの?」
そういえば俺、2人の出会い知らないな。
そもそものきっかけって何だったんだろう?
シーラは飲んでいた紅茶を机におき、俺に向き直った。
「私がまだ小さかった頃、死にそうだった私を助けてくれたのよ。」
「え、そうなの?」
そんな劇的な出会いをしているとは知らなかった。
「なんでシーラは死にそうだったの?」
「んー…馬車で移動しててね、盗賊に襲われたのよ。」
「盗賊に?!」
「ええ……。」
シーラは少し懐かしそうに語った。
「死ぬ覚悟ができた時、ちょうど助けてくれたのよ。」
「………そうだったんだ。」
シーラは子供のような笑顔で教えてくれた。
「その後は、シリウスに付いてくって意地でも離れなくて。そしたら…あなたも知ってると思うけど、彼スパルタでしょう?」
「あぁ……ですね……」
「だからもう…泣きながらよ。泣きながらずっとついていってたわ。」
小さいシーラが目を赤くしながらシリウスの後ろを必死でついていく様子が目に浮かび、なんだか少し暖かい気持ちにあった。
ん?あれ??
シーラが……小さい時??
「あれ?シーラが小さい時って…シリウスいくつ?」
今の見た目的には2人とも年齢差は無いように見える。
シーラは少し狼狽えた様子を見せた。
しかしすぐ、困ったような笑顔をみせた。
「シリウスは、今と見た目は違わなかったわ。」
「えっ………え?」
「そんな驚くことないでしょう?あなただってもう60年以上生きてるわけだし。」
「あ、そういうことね。あぁ、まぁ確かに……」
天使の血筋は年齢不詳だ。前に聞いた話だと、次代の後継が生まれるまでは基本外見の歳は取らない。ただこの世において大変貴重な血筋なので、みんな若い時にすぐ次代を儲ける。そのためそのことを知っている人間は他にはいないのだ。
シリウスは次代を儲けてない。なので外見は大体27歳くらいだ。けれど少なくとも俺よりは年上だろうし、シーラよりも年上だろう…。そもそもシーラは何歳なんだ??
だめだ。聞きたいことが多すぎる……。
「……シーラはなんで踊り子を始めたの?」
色んな質問をすっ飛ばして次の質問に移ることにした。俺の質問にシーラは美しく微笑む。
「シリウスのためにできることが、これしか思いつかなかったのよ。」
「…シリウスの…ため?」
「ええ。」
シーラは優美な動作で紅茶を飲み、俺に話した。
「私がこの世で、この社会で、表の舞台で立場を得ることが、唯一私がシリウスのためにできることだったのよ。彼はこの貴族社会では生きていないから…」
ん?シリウスはこの社会にはいない?
「あ、この事はシリウスには秘密よ。シリウスには、踊り子は私の夢だと伝えているからね。」
シーラがいたずらっぽく笑った。
「さぁ、じゃあそろそろ戻りましょ。いい加減シリウスが拗ねるわ。」
「あっ、そうだな。戻ろっか!」
・・・
『おかえり』
「ただいま~」
シリウスは窓際に座ってた。白金色の髪が陽の光を浴びてきらきらしている。
「あれ?あ、これ全部シーラ宛の手紙だよ。」
机の上に置かれたいくつもの手紙を確認する。
「ええ??!待ってこれ…侯爵、伯爵、子爵、侯爵、大公家からも来てるじゃん!!え、なんの手紙?!」
勝手に宛名を見て申し訳ないがびっくりだ。全員がこの帝国で相当の立場を持つ人たち。そんな人たちからこんなにも手紙が来るのか?
シーラはそれらを受け取って宛名を高速シャッフルでみていく。
「お誘いよ。パーティーやお茶会の。」
「え?こんなに??」
「そうよ。あとはパーティの相手役をお願いする手紙ね。私への手紙は全部シャルト公爵の住所宛てでってお願いしてるからここに届くのよ。」
「ふーん。シーラはこれ全部行くの?」
「もちろん別日なら全部いけるわよ。日が被っていたら仲の良い人優先ね。」
シーラはウインクして俺に言うと遠くにいたシリウスが綺麗な笑顔で言った。
『シーラはほんと人気ものだねぇ』
なんだなんだ。笑顔だけど不穏だな。
よくわからないがシリウスからしたら面白くないのかもしれない。自分にはお誘い来てないのにーって感じなんだろう。
けどさっきの話だと、シーラはシリウスのためにもこういった社会の繋がりを持ち続けてるんだろうし、このお誘いには乗った方がいいんだろうけど…。
シーラはため息を吐いて答えた。
「……少し疲れたから、来年度まで誰のパーティーにも行かないつもりよ」
『そうなんだ。』
「え、そうなの?いいの?」
俺がシーラに聞くと、シーラは優しく笑った。
「ええ。せっかくの休みよ?思いっきりダラダラするわ!」
「……そっか!僕も付き合うよ!」
『アグニは明日からまた授業だよ。』
「あああああ!!!!!!!!」
何気ない日常の一コマの話ですが、とても大切な一場面です。
また少し更新乱れます!!