61 シュエリー公国
またシリウスと二人の旅が始まった。
次に向かうのは、シュエリー公国。
黒の一族の島は国だと認められていないので、ここが帝国唯一の島国なのだ。
「え?『教会国家』?」
『うん、その愛称で慕われてる国だね。あとは「宗教公国」とか。』
「なに?教会が多いのか?」
『そうじゃないよ。帝国全ての教会を統べる「天降教会」があるんだ。そしてそこの教皇にして国王が、天使の血筋であるシュエリーだ。』
なんかやっべぇな。めちゃくちゃ地位高そっ!
「そんな国があったんだ……」
『もちろん、帝国内でシャノンシシリーと互角、もしくはそれ以上に権力を持ってる国だよ。』
「んーまぁ、だろうなぁー……」
『この世界の精神的基盤を支えている国だからね。帝都も無下には出来ない。』
「なるほどなぁ。……で、そこに行くんだよな?」
『うん、そうだよ?』
「なのになんで今…ブガラン公国にいるんだ?」
そう。実は今、ブガランという国にいる。
シュエリー公国はどこにいった!!?
シリウスが説明を重ねる。
『シュエリー公国は島国で、そこには船で行くんだけど、そこに行く唯一の船を出してるのがこのブガラン公国なんだよ』
あ、そうだったのね。
またなんか騙されてるのかと思ったわ。
『ブガランは西側の大陸に行くのに必ず通らなきゃ行けない国だし、シュエリー公国に行ける唯一の国だから通行料とかで収益を上げてる国だね。環境もいいし流通もいいからもっと豊かな国になれるはずなんだけど……ちょっと勿体ない国だよ。』
「へぇ〜そうなんだ。」
『まぁ………「今後に期待」って言っとこうかな』
「ははっ。相当だな。」
・・・・・・
けど本当にこの国良い性格してる。
シュエリー公国に渡る船の料金が片道100センだった。
俺の芸石が70センで、サントニ町に素泊まりで5センだと考えればその異常さが伝わるだろう。
それでも需要があるからこの値段でも成り立っているわけで、きっともっと値段を上げても成り立つ商売なんだろう。
そして俺は初めて海を見た。
ただ残念ながらシャノンシシリー公国で湖を見てしまった後なので「湖と似たようなもん」って印象になってしまった。けれど初めて乗った船は面白かった。
スリーター公国の俺の家くらいはありそうな大きさの船だったが、船の両脇にたくさん人が座っていて、オールを使って漕ぐのだ。あと船の最後尾に風の芸を使える人が数人いて、その人達も風で船を動かす仕事らしい。
船の中心に小さい家みたいなのが建っていて、乗客はその中で座って待っているのだ。そして今、俺もシリウス(民族衣装着)もその中にいる。
「なぁ、シリウス。もし芸獣が出てきてこの船襲ったらどうするの?」
『大丈夫。どの船にも「武芸家」がいるから。』
「武芸家??」
『そう。まぁ傭兵みたいなものだね。武と芸に優れた格闘家のこと。この小屋の周囲に数人立ってるし、船の先頭にもいる。』
「へぇ~その人たちどれくらい強いの?」
『弱いよ。』
「えっ……」
じゃあ意味ないじゃん!
どうするんだよ!
シリウスが目を覆う赤い布越しに笑顔をみせた。
『君と比べれば、ね。』
「……そうなの?」
『ああ、彼らは強いって言っても大会で優勝するほどではない。軍人でもない。あくまで「市民で武芸が達者な人」程度だ。』
え、なのに武芸家なの?
じゃあ俺もここで働けるのかな?
「へぇー……将来の職業候補の一つだな」
『君なら間違いなく働けるよ。けどまぁ、ここの武芸家は弱くても平気なんだ。この辺の海は比較的芸獣が出ないから』
「え、なんで?」
『大昔はブガラン公国からシュエリー公国まで歩いて行けたんだよ。』
「え?ここに海が無かったのか?!」
『あったよ。けど海の高さが膝くらいまでしかなかったの。だから一人ひとり篭や水牛車で移動出来たんだよ。』
「へぇ~!!!」
『その時に建てた建造物や、シュエリー公国の教会まで続く大理石の柱の道とかは全部今海の中だけどね』
「そうなんだ!!じゃあ海を覗いたらそういう昔の物が見えるのか?」
『まぁ、見えるよ。多少壊れてるだろうけど。船で移動するようになって、もう千年くらいになるからね』
「そんな大昔のものなのか~。なんか憧れるなぁ!」
海底に沈んだものはどんなものなんだろう。
その時、そこの人たちはどんな者を着て、どんな仕事をして、どんな生き方をしてたのだろう。
・・・
今いる小屋の窓から外を見ると、シュエリー公国がすぐそこに見えた。
そして船は陸地から長く延びている海の上の桟橋に着いた。
「は~着いた!意外とすぐだったな!」
『まぁそうだね。ブガランからこっちの陸地が見えるくらいの距離だしねぇ』
「あれ?シリウス。あれ何?」
船が着いた桟橋の両脇の海の中から、何か丸い柱(?)のようなものが出ていた。
『ああ、あれがさっき言ってた大理石の柱だよ』
「えっ!上の方はまだ見えるんだ!」
『というか…後ろ見てみなさいよ』
シリウスに言われた通り後ろを振り返ると、桟橋から陸地の方へ行く道に一定間隔で柱の頭部分が見えていた。海から陸地にかけて徐々に柱の見える高さが変化している。陸地にはもう海の中に浸かっていない、そのままの柱が立っていた。
「え?なんで?柱の長さが違うのか?」
『ううん。海の中見てみ?』
海の中を見ると、綺麗な青い海の中に石造りの階段が見せた。
「ああ!なるほどね!本来であれば階段を上がってシュエリー公国に着く道だったのか!で、その階段に柱が立ってるから陸地に近づくにつれて柱の見える面積が増えてってるってことか!」
『そう。だから柱の長さは同じで、ただ柱の立っている位置が違うってこと!』
「あ~なるほどなぁ!面白いな!」
『この柱はシュエリー公国の中心にある天降教会までの道筋になってるんだよ』
「へぇ~街全体が工夫されてるんだなぁ!」
俺らは桟橋を進み、やっとシュエリー公国の陸地に上がった。
あれ??柱の真ん中に家建ってるけど…
「シリウス、柱はその教会の道筋なんだよな?じゃあなんで家建ってるんだ?」
てっきりその柱の間を通れば天降教会に着くって意味かと思ったんだが、そうではないらしい。家が並んじゃってる。
『あほなの?一直線じゃん』
「え?それじゃだめなの?」
『帝国一神聖で天空人や天空王に近い存在だと考えられてる教会に一直線で行けたら危険でしょ?もし例えば芸獣が陸に上がってきたらすぐにその教会潰されるよ?』
「ああ、ナルホド……」
『柱の位置は教会への道筋になるように設置されてるけど、それは人のための道ではないんだよ。あくまで神のための道なんだ。天空の神がこの教会に降りられた時の道しるべになるように作られたものなんだよ。』
「なるほど…奥が深いな……」
『まぁ……神だって人と同じ道を通るだろうけど』
「あははっ意外とそうかもな!」
そんな軽口を叩きつつ、俺らは噂の天降教会のある方向に歩き始めたのだった。
「教会国家」 一度だけそう描写されたことがありますね、とある閑話で。その国です。
シュエリー公国のイメージはモンサンミッシェルっすね。
柱の説明が長くなりました……が!次話はいよいよ噂の教会です。