60 双子の選択
シリウスの家に帰り、寝る支度をした後
一室にレイとレベッカがいた。
『レイ、今日楽しかったね!!芸獣使いかっこよかったね!!』
「うん………。」
レイは下を向いて、難しい顔をしている。
『レイ?どうしたの?』
「……………ねぇ、レベッカ。」
『なに?』
レイが意を決したように言った。
「僕たち、芸獣使いにさ、なれないかな?」
『…え??』
「僕たちはアルダに入れないかな?」
『……レイは、入りたいの?』
レイの膝の手に、レベッカは自身の手を重ねた。
「ずっと考えてたんだ。どうしたらシリウスとアグニのためになるのか。」
『うん。』
「それでね、僕たちがすべきことは、あの二人に出来ないことをすることなんじゃないかなって思ったの。」
『…うん。そうだね…だけどそしたらもう一緒に居られないんだよ?もう四人で一緒に過ごせないんだよ?……レイはそれでいいの?』
「………やだよ」
『じゃあっ!』
「けどさ。僕、あの二人の重荷になりたくない」
『え?』
「あの二人と同じレベルになりたい!あの二人を守ってみたい!…まぁ、それは無理かも…だけど、でも!!あの二人と互角に渡り合えるくらい、強くなりたい!!」
『……レイ………』
「僕もあの二人とずっと一緒にいたい。だから…ずっと一緒にいるために、今は…離れる時なのかなって思う」
レベッカはレイを抱きしめ、震える声で言った。
『やっと…やっと。レイのやりたいこと、教えてくれたね。』
レイもレベッカを抱きしめた。
「うん……」
『よかった…よかった…。ねぇ、レイ?』
「なに?」
レベッカはレイから離れ、優しい笑顔を見せた。
『私も…アグニもシリウスも、レイも守りたい。』
「…うん。」
『…一緒に、 ここに残ろう。』
「うん……」
レイも優しい笑顔をみせた。
・・・・・・
昨日言われていたように、次の日も王宮へお邪魔し、庭園で昼食会を開いていた。
出された昼食が豪華すぎて何かの箱に入れて持ち帰りたいと思ってしまう。
「……あの!!!」
レイが突然全体に呼びかけた。いつも以上に緊張した面持ちのレイと、その隣でいつも以上に大人っぽくて落ち着いているレベッカがいた。
「なに、レイ?どうした?」
俺がレイに問いかけると、レイは一つ息を吸って、きちんとした声で言った。
「僕とレベッカを、アルダに入れてくれませんか?!」
……え?アルダに?レイとレベッカが?
なっ…なぜ急に!?
俺の心の疑問に答えるかのように、今度はレベッカが話し始めた。
『私たちは一族のみんなやシリウスやアグニに教えられて強くなりました。ある程度芸獣とも渡り合える力を持ってます。そして昨日、アルダの軍人さんが私たちは芸獣との親和性が高いかもって言ってくれました。』
「そして僕たちはまだ、12歳です。」
『芸獣使いになれる年齢です。』
「アルダに入れるような人は少ないと昨日おっしゃてました。ならどうか!僕たちをテストしてください!!!」
「『 お願いします!!! 』」
レイとレベッカが共に立ち上がり、大公様に頭を下げた。
そして沈黙が訪れた
大公様もシリウスも暫く一言も発さなかった。レイとレベッカは黙って頭を下げ続けている。長く感じる沈黙の後、大公が低い、渋い声で二人に告げた。
『アルダに入るのは簡単ではない。』
「『……』」
『君たちは親和性が高い可能性があるだけだ。実際にあるかどうかも定かではない。』
「『……はい。』」
『それに親和性が高かったからといってすぐアルダに入れるわけではない。我が国の軍部を舐められては困る。』
「………どうにか、一度だけ!!機会をくれませんか?!!」
レイが必死な顔で言った。そんな表情は今までに一度も見たことがなかった。
「1年!どうか1年だけ!!13歳になるまで!!どうか!!芸獣使いになる可能性がある歳まで!!ここにいさせてください!!」
レイが勢いよく頭を下げた。それを横目に見ながら、レベッカが落ち着いた様子で言う。
『大公様はアルダに入れる人材が少ないと言っていました。もし私たちが芸獣使いになれたら、必ずアルダに入り、この国の…大公様のお役に立ってみせます。必ず。御恩は必ず返します。どうか、私たちに返せる恩をください。』
レベッカは少し挑発的な笑みを浮かべた。レベッカがこんなにも成熟していることに俺は今まで気づかなかった。
‐「私たちに借りを与えれば、それ以上の忠誠心を持って恩に報いる」‐
大公様相手に言うにはふさわしくない物言いだが……この場、この時、この人だからこそ合ってる答え方だ。昼食会という軽い会話もできる非公式の場、シリウスと懇意で帝国唯一の部隊を作ってしまうような挑戦的思考の持ち主、そしてアルダに入れる人材を常に探し回っている現状・・・
大公様はニヤリと片頬を持ちあげて笑顔をみせた。
『……12歳にしてはよく考えてるな。一端の大人のセリフならばまだ不十分だが…』
その一言にレイが下げていた頭を勢いよくあげた。
「え……じゃあ…!!!」
『一年だ。13の年まで、我が国の特殊部隊、「アルダ」の候補生として受け入れよう。それまでに才能が芽生えなくても数年は我が国の軍部で働いてもらうぞ。』
「『 っ!! ありがとうございます! 』」
すごい…すごい!!!!
二人は自分で将来の道を開いたんだ!
あ、けど……
『レイ、レベッカ。よかったね。』
シリウスが立ち上がって二人を抱きしめた。二人ともそれに答えるように一生懸命しがみついている。
『ここでお別れだ。』
「『 ……うん。 』」
『君たちの選択を誇らしく思うよ。頑張りなさい。』
「『 …はい!! 』」
俺も二人に近づいて話しかけた。
「二人とも、めちゃくちゃ格好いいな!偉いなぁ!」
「アグニ……」
『…ぐすっ』
「レイ、レベッカ。二人とも、頑張れるな?」
「『 …うん!! 』」
「俺がいなくても泣かないな?」
「もう泣かないよ…」
『私泣いてないもん』
「ははっ。きちんとご飯食べて、きちんとよく寝て、きちんと練習して、二人とも元気でいれるな?」
「『 うん!!! 』」
「っはは。よし!!いい子だなぁ。……けどやっぱちょっと寂しいな?」
「……うっえぇ……アグニィィ!!!」
『…んうぇーん…!!アグニィ!!』
二人が堰を切ったように泣き出した。
二人ともまだ12歳なんだ。まだまだ親から離れるのには早い。俺も心配なんだよ。
「レイ、レベッカ。暇な時でいい。なんでもいい。手紙、書いてくれよ。」
シーラに倣って、俺も二人にそう告げた。二人の無事が分かればいい。ここにいるとわかればそれだけでもいい。
あぁ…シーラも同じ気持ちだったんだろうな
・・・・・・
二人は三日後から正式に特殊部隊「アルダ」の候補生として一年間シャノンシシリー公国の軍に所属することとなった。軍の寮に住むこととなり、そのための準備にてんやわんやしてるとすぐに日は過ぎた。
「レイ、レベッカ!!二人とも、頑張れよ!!」
俺が二人を抱きしめながら言う。
「うん!頑張る!」
『頑張るね!!アグニ、シリウス!二人も元気でね!』
「ああ!!」
シリウスも双子に寄って、抱きしめる。
『レイ、レベッカ。君達二人はきっと強くなる。』
双子から体を話し、金色の瞳でまっすぐ告げる。
『けど、アグニももっと強くなるよ。そしてまだまだ僕には及ばない。』
双子が少し驚いた顔をした。シリウスはそれを見て、ふわっと笑った。
『君たちがもっと頑張れば、追いつけるかもしれないけどね。……そしてまた一緒に旅をしよう。もっと強い芸獣を狩ろう。四人で力を合わせないと勝てないような、ね。』
レイとレベッカはとても、とても嬉しそうに、満開の笑顔を見せた。
どうか…気を付けて、幸せに、いつでも戻ってきていいから、頑張って。
伝えたい言葉は山ほどあるのに、そのどれもが伝わっていない気がして、けどきっと伝わってて…
この気持ちはなんなんだろうな
・・・・・
『さぁ、アグニ、そろそろ行くよ』
「………よし、行くか!」
丘の上
シャノンシシリーの街と湖と大樹を一望できる。最初に四人で来たところ。
けど今は二人
世界を知る旅に出る。
その目的のため、この国を後にした。
一区切りですね。
けどまだまだ旅は続きます。
乞うご期待!!!




