53 帝都の鍛冶場
次の日、以前冒険者登録関係でお世話になったハーローさんの洋服店にシリウスと向かった。
キィーーーー カランコロン
「いらっしゃいませ、お客様。……大変失礼いたしました。オーナーを呼んで参ります。少々お待ちくださいませ。」
『うん、ありがとー』
安定の顔パス。流石っす先輩。
よく髪と顔隠してるのにシリウスって気づくな
あ、違うか。
この格好してる人帝都にはこいつしかいないか
少し待っていると、ハーロー男爵が現れた。なんだか楽しそうな顔をしている。
「シリウス様!!あの毛皮、良い商品になりましたよ。ありがとうございます!」
『あ、ほんと?売れた?』
「売れましたもの!!『シャルルで騒がれていたあのトラの芸獣の毛皮』なんて言えばすぐ皆金を積みます!あはは!」
男爵めっちゃご機嫌だな。よかったわ。
「アグニ様も!ありがとうございます。もしまた何か手に入りましたら、是非私にお売りくださいね!」
「はい!助かります、ハーローさん。」
「いやいやこちらこそ。……ところで今日はどういったご用件で?シリウス様の商品のご購入でしょうか?」
『ああ違うんだ。今日はね、またなんだけどさ…どこか鍛治できる場所知らない?紹介して。』
シリウスが唐突に本題に入った。
男爵も少し面食らっている。そりゃそうだろう。全然自分の専門分野じゃない、鍛冶場を教えてほしいなんて言われりゃ。
「鍛冶場…ですか?うーん………残念ですが、私が紹介できる場所は一つしかございません。」
あ、あるんだ。さすがやな。
『どこ?』
「シリウス様。先程あなたは『鍛冶ができる場所』と申しましたが、『剣を購入できる場所』ではないのですね?」
『うん、違うよ。アグニに鍛冶ができる場所を与えてあげたいの』
男爵は目をパチパチさせて俺を見た。
「ああ、そういえばアグニ様はスリーター公国で鍛治師をしておられたと以前仰っていましたね。なるほど……先程も申し上げましたが、私が紹介できる場所は一つしかありません。しかもその工房は帝都でも指折りの職人がいると言われてる場所です。」
「え、そこを紹介してもらえるんですか?」
「はい、もちろんです。けれど、そこの主人が気難しい性格でして…大変申し上げにくいのですが……彼に認められなければ使わせて貰えないかもしれません」
「………ほぉ。」
つまり俺の鍛冶力次第で使えないってことか。
ふーむ。まぁ大丈夫だと思うけど……不安だな
シリウスは俺の肩にポンっと手を置いて、男爵に笑顔で告げた。
『大丈夫だよ。アグニはなんてったって「王室御用達の鍛治師」だったわけだし?まさかまさか実力が無くて断られる、なんてことにはならないよ。ねぇ?』
おおう。プレッシャーかけてくるタイプね!
物凄いフリみたいで嫌なんだけど!!
「…ハーローさん、とりあえず頑張ってみます。そこの鍛冶場所と、主人の名前教えて貰えますか?」
・・・
帝都の北西部、
市民街の中にその鍛冶場はあった。
鉄を打つ音を久しぶりに聞いた。
独特の生暖かい空気、匂いが感覚を呼び起こす。
「失礼します。フェレストさん、いらっしゃいますか?」
そう言って中に入ると、ふくよかな、笑顔の可愛らしいマダムが出てきた。
「あらあら、いらっしゃいませ~!うちの主人に何か御用?」
「あ、こんにちわ。僕、アグニと申します。突然で申し訳ないのですが、鍛冶場を貸してもらいたくてフェレストさんにお願いに来ました!これ、ハーロー男爵から預かった手紙です。」
「え?ハーロー男爵様から?!ちょっと見せてね。………ちょ、ちょっと主人呼んできますね!」
マダムは手紙の内容を一読し、早足で奥へと向かっていった。
少し待っていると、マダムと不機嫌そうな男性が現れた。
「お前か、この手紙に書いてあるアグニってのは」
「あ、はい!アグニと申します!元々スリーター公国で鍛冶師をしておりました!それで…可能でしたら、こちらの工房をたまに貸していただけないでしょうか?お願いします!!」
俺は頭を下げて元気よく、言いたいことを言い切った。
不機嫌な顔の人は、下手に、丁寧に出るに限る。世の中の鉄則だ(キリッ)
「ああん?…お貴族様に頼まれたらもうこっちは断れねぇんだよ!!ったく!邪魔しやがって!」
おおう……そうか。そうなのか。
けどそりゃそうか。
平民と貴族じゃそうなるのか…
「そうですよね…すいません。でも、どうしても鍛冶がしたいんです。俺も剣を作りたいんです!」
再度の説得が功を奏したのか、フェレストは腕を組んで俺が期待していた台詞を言った。
「ほぉ……それなら今、何か打ってみろ。それでだめだと判断したら容赦なく追い出すからな。」
「あ、あなたっ…!!」
フェレストの言葉に奥さんが慌てているが、こちらは願ったり叶ったりだ。
「…わかりました!是非、やらせてください!!」
・・・
テストはフェレストさんの工房にある、作り途中の剣を仕上げだった。
「………お前、何年鍛冶してる?」
「ええ?!な、何年でしょう……?」
あ、急にクイズみたいになっちゃった。
ほんとは40年だけど…
「えっと、10年…?です。はい。」
俺の勘違いしてた年数を言っとく。この外見で40年は絶対に無理があるし、頭がおかしいやつだと思われる。別に思われてもいいが、そうなると鍛冶場を貸してはくれないだろう。
フェレストは唸りながら、剣を色々な角度から見ている。
すると向こうでシリウスとお茶会をしていた奥さんがこちらにきた。そして俺が打った剣を見て驚きの声をあげた。
「あれま!こりゃ綺麗だね~!お兄さんが打ったの?凄いじゃないか!!」
「え?そうですか?えへへ、ありがとうございますー」
「お前…スリーター公国で鍛冶師だったと言ったな?どこに卸してた?」
フェレストが剣を睨みながら質問してきた。
「あ、主に大公様にですね。」
「ほぅ… お??…ほおぉぉぉ??!!」
フェレストは今までの低い声ではなく頭の上から音が出ているような声をだした。
「なんだって?大公様に?!お兄さん、何者だい?!さっきの手紙にはそんなこと書いてなかったよ?!」
奥さんが驚きの声をあげると、後ろからシリウスがひょこっと顔を出して答えた。
『はい。彼はスリーター公国大公家専属の鍛冶師でした。証拠として、別件で使う予定の推薦状を持っていますから、お見せしましょうか?』
「いい、いい!!そんなもん見せられちゃあ、逆にお前をどう扱っていいのかわかんねぇ!」
「え、ということは……?」
俺は期待に満ちた表情をわざと作り、フェレストを見た。
フェレストは頭をガシガシと掻いて、
「あーもう!!!いいよ!来い!なんなら来る時は俺の工房も手伝っていけ!!」
「っ!!!あ、ありがとうございます!!」
『アグニよかったね!』
「おう!!!」
こうして、俺は無事帝都での鍛冶場所兼アルバイト先を見つけたのだった。
これでいよいよ、帝都暮らしが本格的になってきましたね。