51 双子の帝都観光
双子は少しずつ芸も上達し、
時間はかかったが無事四人で帝都に着くことができた。
今は「水の月」らしい。四季で言うと春になる。
暖かくなって出歩きやすくなったからなのか、帝都は一層人も露店も多く、双子は首をグリングリン回しながら目をキラキラさせて歩いている。
『アグニ、ちょっと僕一旦別行動取っていい?』
シリウスが帝都に着くなり、そう言ってきた。
この前ハーローさんのとこで買った茶色の布にところどころ藍色の装飾が入った民族衣装を着て、髪や目を隠している。
「ん?別にいいけど…。」
『そう、よかった。じゃ、なんかあったら全力で芸素撒き散らしてね。たぶん気づくから』
「お、おおう?!!気づくのか?!」
『じゃっ!二人ともいい子にしててね~!』
シリウスは手をぶんぶん振りながら人混みの中へと消えていった。
残されたのは帝都2回目の俺(外見16歳)と帝都初めての双子(12歳)だ。
こっからどうすればいいんだよ!
俺どこも案内できないぞ!!!
道で呆然と突っ立っているとレベッカが俺の腕をくいっと引っ張って上目遣いをして聞いた。
『ねぇねぇアグニ。お店見ちゃだめ?』
は?もちろん全然構わないが?
レベッカ聞き方上手すぎな??
「もちろん!俺もよくわかんないから歩きながら気になるところに入っていこう!」
『うん!レイ!行くよ!』
「うん…!」
レベッカが先頭で歩き始め、レイが俺の手を取った。
はぁ?レイ、お前もかわいすぎな??
・・・
3人で色々な店を見て回った。
二人の洋服を買い揃えたり、レベッカは装飾用芸石店に心奪われ、レイは戦闘用芸石店にふらふら行ってしまったり…昼食替わりに露店を回って食べ歩き、武器防具のお店に寄ったり……
そしていつの間にか、空が真っ赤に色づく時間になっていた。
「あ、これ…!第2学院じゃないか?」
歩きながら帝都の西側に来ていたようで、第2学院の校舎の前に着いた。
「第2学院?」
『なにそれ?』
2人がゼリー状の果物ジュースを飲みながら聞いてきた。
「第2学院は軍人になるために勉強する学校だよ。…俺も詳しく知らないんだけどね」
『へー』
「ふーん」
「二人とも興味ないんか……」
質問してきたわりに気の無い返事だった。正直今は口に入ってるものを全力で楽しむので忙しそうだ。
すると、少し前に聞いた声が背後からした。
『あれ…?アグニ?』
「え?……あ!シド!!」
お高そうな馬車の窓からシド公国の王子、シドが顔を出していた。
「え!なんでここに?」
俺が馬車に近寄って聞くと、すぐシドは馬車から出てきた。
『ちょうど昨日帝都に着いたんだ。まだ学校があるから明日から学校の寮に戻るんだよ。二人はレイとレベッカ…だっけ?あれ?シリウス様はどうされた?』
「あー今なんか別行動してる。レイ、レベッカ。挨拶できるか?」
黒の一族である二人からしたらもしかしたらあまりシドに良い印象を抱いていないかもしれない…なんてことを心配したが二人ともきちんと挨拶をした。
『レベッカです。こんにちは』
「レイです。初めまして」
シドは少し腰を折って二人に目線を近づけた。
『シド公国のシドだ。二人とも、元気にしてたか?』
二人ともコクコクと頷いた。シドは快い笑顔を二人に向けた後、俺に提案してきた。
『アグニ、今日は帝都の屋敷に戻るつもりなんだ。もしよかったら今から遊びに来ないか?』
「え?いいんすか?」
『もちろん。ここでせっかく出会ったんだから一緒においでよ。シド国の事も気になるだろ?』
「そうだな……。レイ、レベッカ。いいか?」
二人とも了承したのでそのままシドの馬車に乗り、お宅にお邪魔することになった。
あと一応、森の家にシドの家に行く旨の手紙を出しておいてもらった。
・・・・・・
「わあ………」
『おっきい……』
「ここに住んでるんすか……」
今さっきずっと下町で露店やらお土産屋さんやらを見ていた俺らからすると、圧倒的にスケールの違う屋敷に着いた。下町の家いくつ分くらいあるんだろう。
『ここら辺は全て各国王の屋敷が並んでるんだ。皇帝陛下の宮殿や、政を行う宮廷が近くにあるからね。』
ひえっ……ってことは一等地!!
それでこのスケールの家なのかよ!!!
「すごいっすね……」
『ここで仕事もするし会議や会合もするから…この大きさでも意外ときつきつなんだよ』
・・・
大きなドアも開けると白い大理石と赤い絨毯、そして各所に金色を散らした大変豪華な、けど決してうるさすぎない、美しい装飾の内装だった。
正面の大きな階段を上り二階の巨大な応接間に通された。この部屋も白と赤と金を基調にした美しく洗練された部屋だった。
「失礼いたします、お客様。こちらお飲み物のリストでございます。いかがされますか?」
応接間で紳士が紙を差し出して聞いてきた。
飲み物リスト!!なんじゃそりゃあ!
うおー!知らない名前がめっちゃ載ってる!!
「あー……すいません。なんか甘くなくて冷たいやつ、ありますか?」
とても素人的な聞き方をしてしまったにもかかわらず紳士は馬鹿にする事もせず
「はい、ございます。爽やかな香りと芳醇な香り、どちらがお好きでしょうか?」
「あー今は芳醇な方飲みたいです。」
「かしこまりました。他のお二人はどうされますか?」
紳士は双子にも飲み物の要望を聞いた。
レイは甘くて爽やかなもの、レベッカは甘くて芳醇なものを、という曖昧な注文をしてしまったが、紳士は綺麗に礼をして去っていった。
『さて、早速だがシド国の事を話すよ』
「ああ、頼む」
『軍部の贈収賄や汚職に関する不正調査を一斉に行い、相当数を摘発した。そして黒の一族は正式にシド公国の国民になってもらった。…つまりもう、公的な場所で「黒の一族」という名称は通用しない。もちろんこのことは彼らに了承してもらっている。またその代わりに黒の一族の皆には次代まで、シド公国王室管轄で各家庭に毎年一定額の生活支援金が渡されることになった。今決まっているのはここまでだ。』
「……けっこう頑張ったな。」
『まぁ、新に国民となるわけだから、居やすいように整えるのは当たり前だよ。あぁ、それと各家庭の家もシドの街に用意することになった。最初の家はこちらが準備するが、もしそのうち別の場所に移り住むのであれば、その時は自身らのお金で家を買ってもらう。』
「ほぉ……まぁ悪くないんじゃねぇかな。彼らは帝国民になると決めた時から「黒の一族」の名が消えることは覚悟していた。もちろん寂しいだろうけど、理解しているだろうし…」
俺がそう言うと、シドはほっとした顔をした。
『よかった、そう言ってくれて。あぁ、僕が国を出る前までの話だけど、ドルガも他の人もみんな元気だったよ。』
その一言を聞いてやっと双子の顔が明るくなった。
「失礼します。お客様がいらっしゃいました。」
さっきの紳士が応接間のドアの前でそう言い、腰を折った。
『ん?お客様?』
「シリウス様でございます。」
『えっ。シリウス様?!』
「え?シリウス来たの?」
シドが席を急いで立った。俺と双子はそのまま応接間の入り口を見ていると、民族衣装をバッと取りながら、シリウスが大股で部屋の中に入ってきた。
『はー疲れたー。家に手紙来たから、直接ここ来ちゃった』