48 彼の目に映るもの
連隊長視点の話です。
最初に見た時の印象は、「フォード公国の民族衣装を着た綺麗な女」だった。
治癒ができる人間が傭兵志望者とともに現れたと聞いて驚いたが、目の前で一切のためらいもなく自分を切り、そして治癒してみせたその心意気も良かった。
これほどレベルの高い治癒師で、かつ芸師なのであれば相当な家柄……「天使の血筋」お抱えの家柄だった者、もしくはあの「教会国家」の者。
それに……布で隠れてよく見えないがなかなかの美人だ。
親しくしておくに越したことはないな。
・・・
くそっ!!!
マース…いらないことしてくれやがって…!
あの傭兵のガキもだ。随分と余計なことを…!!
師団長は戦闘民族との融和に乗り気だ。
なぜあんな劣等種と…!!!
あんなものと一緒にされては困る。
戦闘に強いから利用価値がある?
そりゃそうだろう。そういうことしかできないんだから。
軍に入れたら強くなる?
その代わりに統率しにくくなるだろうが。
あれらと一緒にいるなんて、笑われるだけだ。
早くなんとかせねば………
『連隊長?』
「あ、ああ。ヨハンネさん。軍はどうですか?」
『ええ。とてもよくして頂いてます。ただ…』
「……ただ?」
教会の服を身に着けた美貌の女は憂いた顔をして答えた。
『あんな……野蛮な者どもと一緒にいるのが…不安で…』
「ああ…戦闘民族ですか。私もそう思います」
『あら、連隊長もそうお考えで?』
「ええ。忌々しい。あのまま島で絶滅すればよかったんですよ。」
軽口を叩くと、その女は妖艶な顔で告げた。
『ここにいたくないと思わせれば…なんて考えてしまいます。そうすれば、我々は向こうの意思を尊重する形で追い出せるでしょう?』
「……ほぉ。なるほど。けど…難しいですな…」
『そんなことありませんわ。そうですね、例えば…過度な練習をさせる、とか?』
「ふむ…」
『あ、そろそろ戻らないと…連隊長、失礼しますね』
「あ、ああ。ではまた、ヨハンネさん」
過度な練習…ふっ。確かに。簡単だな。
・・・・・・
今思うとおかしかった。
毎回あんな都合よく現れるなんて。
あの女の言葉に乗せられてたんだ。
『怪我をさせた負い目があるから、抵抗しないのでは?』
『良い的役になりそうですね』
『あの船…なんだか汚なくて…』
『先祖代々のもの?ならこの国では必要ないですね』
『あちらから手を出して来たら…問題ないでしょう?』
『「彼らはやっぱり人じゃありませんでした。」この報告で済みますよ。』
大丈夫。上手くいく。
あんな獣どもと一緒に住むなんてありえない。
大丈夫。上手くいった。
全て、上手くいったはずだった。
・・・
この世で最も美しい色に、恐怖を感じた。
な、どうして…「天使の血筋」?!!!!
『僕が生きている限りあなたのしたことは大公様に伝わるよ』
まずいまずいまずいまずいまずい!!!「天使の血筋」の証言は絶対だ。それがたとえ嘘であっても。
あ、そうか。
……殺してしまえばいい。
愚かな獣どもはなぜかわからないが「天使の血筋」を攻撃している。これはチャンスだ!!!!!
獣が「天使の血筋」を攻撃していた。守るために獣を攻撃した。獣の駆除には成功したが「天使の血筋」は守れなかった!!!これだ。これで説明はつく。
まとめて殺してしまえば問題ない!そうだ!ここには何もいなかった!!
獣どもが砲弾で潰れていってる。
よし!よし!!このまま!!!!
ははっ!あの傭兵のガキも死んだ!!!
もうこれで終わりだ!!!!!!
・・・
爆発したように人が飛び散った。
それが名もない風の芸だと気づいた時には遅かった。
『 君らにギフトを与えよう 』
与えられるものは なんなのか。
訓練場を囲っている炎が蠢いた。
中心にあった氷の木が溶けた。
氷の木の一部になっていた砲弾や矢が、雨のように降る。
暑い
極端に暑い
肌が痛い
乾燥が酷い
朦朧とする
高温すぎだ
なのに
先ほどから猛烈に悪寒がする
天使の笑顔は それはそれは美しかった。
その天使の後ろには 炎の竜がいた。
皆が絶叫している。
当たり前だ。こんなもの見たことない。
その竜の前では誰もが皆同じだった。
同じように、餌だった。
竜のいるところの石畳が溶けている。
天使が私の部下を指さした。
炎の竜がその者に息を吹きかけた。
一瞬で黒の炭になった。
天使は何人かを選び、黒いものに変えていった。
私が 指さされた
ああああああああああああああ
もうだめだ。もうだめだ。終わりだ。死ぬ。
一瞬で 何も残らず・・・
「やめてくれぇェェぇぇぇ!!!!!!」
極度の乾燥の中、叫んだことで喉が潰れた。
流した涙はすぐ乾いていく。
股間から漏れた液体も地面に落ちる前に乾いた。
やめてくれごめんなさいもういやだ許してくれ!
私の最期の恐怖の時間を、ある声が遮った。
「……シリウス」
『 起きたの?』
「………」
『あぁ、熱いよね。今消すよ』
感じたことのない強大な炎と温度だったのに
たったの2秒で世界が元に戻った。
こんなの………人ではない…!!!!!
シド公国大公様の芸を見たことがある。けれどもこんなものではなかった!!!!レベルが違う!!!!違いすぎる!!!!
あれは確実に「人」の域を出ている!!
あれはなんだ?!
あの方は……本当に人なのか?!
あれで我々と同じ種だというのか?!
「シリウス…お前は人だよ。」
少年が かすれた声でそう言った。
あの方は後ろの向いていて、
表情は見えなかった。
今もずっと その少年の言葉が耳に残っている。
次から場面が変わりますよ~




