43 黒の一族
黒の一族はシド公国近くの小島に住んでいる。
逆に今まで黒の一族が生存できたのは、小島にいたからでもある。海の芸獣が陸のそれよりも強く、そんな危険を冒してまでわざわざその小島に行く必要がなかったからだ。
「よ~し、着いたな。この島だろ?」
俺がそう聞くと、4人は頭を上下に動かした。
「……無事着いたな。ヨハンネさんのお陰だ。」
『いいえ~』
マースがシリウスに対して礼を言う。
今回はそれほど大きい芸獣は出ず、シリウスが船の上から一人で対応したのだ。
4人を下ろし終えて戻ろうかというところで、黒の一族の男性が初めて喋った。
「あ、あの……お礼する…村にきて…話すます」
「え?お礼?してくれるのか?」
俺がそう聞き返すと、その男性はうなずいた。
「マースさん、どうしますか?」
一度マースに聞いてみるが、マースは疑い深い顔をしていた。
『マースさん行きましょう。彼らの生活がわかりますし……住む場所もわかるでしょう?』
シリウスがマースの耳元でそう囁いた。その言葉を聞いてマースは決断した。
「…わかった。お前ら2人は船と周辺の警戒を頼む。戦闘民族が俺らの船を壊さないとも限らないからな。そうなったら各自対処しろ」
「「はっ!!」」
マースが連れてきた正規軍2人にそう指示を出し、俺、シリウス、マース、そして4人の黒の一族が村に行くことになった。
ぬかるんだ道を進み続けた。きっと満潮時には海の水がここまで届くのだろう。生えている植物も今まで見たことがないものが多い。周りをきょろきょろしながら奥の村まで進んでいった。
「あ!あれが村か?」
「…そう、村」
村は、根が俺の頭の高さまで出ている木で囲まれていた。その木がバリケードの役割を果たしているのだろう。建物は木や泥で固められたもののように見える。家の位置が高く、どの家にも階段と船があった。
「……なぁ。家の位置が高いのは、水が来るからか?」
俺がそう聞くとその4人はうなずいた。
やっぱそうなのか。
これは生活が大変そうだな…
「村の長の家、連れていく。…来て」
「あぁ、ありがとう!」
村の中に入ると、黒の一族たちは武器を片手にこちらを見ていた。
しかし攻撃はしてこなかった。
「ヨハンネさん、すぐに芸を出せるようにしといてくださいね」
『はい。』
マースが柄に手を添えてシリウスに告げる。
シリウスはにっこりと笑って返事をした。
「ここ、長の家、待つ、ここで」
「お?おお。ここで待ってればいいんだな?」
たぶん村長に、俺らを連れてきたことを言うのだろう。
暫く待ってると入っても良いと言われたので、階段を上り、家の中に入った。
「ようこそ。我が一族の村へ。彼らを助けてくださりありがとうございました。」
優しそう…だけど筋肉の目立つ老人が奥に座っていた。
なんかすげぇ強そう…
おじいちゃんかっこいいな。
「いえいえこちらこそ。怪我無くて良かったです。お招きありがとうございます」
俺も丁寧に礼をする。マースとシリウスはしなかった。
「私は一族の長、ドルガと申します。どうぞ、おかけになってください」
「あ、はい!僕はアグニと申します。後ろの二人はマース、シ…ヨハンネです。」
『ドルガ、ヨハンネです。よろしく』
「……マースだ。」
辛うじて自己紹介が終わり、俺らは村長に勧められた席に座る。
するとすぐにシリウスがドルガに話しかけた。
『ドルガ、この村…海が入ってくるのでしょう?食糧と水はどうしてるのです?』
「食糧は狩りを、水は木から取ってます。木が海水を純水に変えるので、その木を切ってね。けど…毎夜村には海水が入ってくるのですよ。なかなか…安全な暮らしではない。」
『そう……そうは大変ですね。』
するとドルガは覚悟を決めたような顔でこちらを見て言った。
「…我々が、一族が陸へ上がることはできないでしょうか」
「あ?どういうことだ?」
マースが眉をひそめて答える。
「ここに住み続けるのには……限界がきております。どうか、陸地へ上がって、一族があなたがたとともに生活できる方法はないのでしょうか?」
「マースさん……どうなんですか?」
マースは疑いの表情のまま、それでも驚いているようだった。まさか一族側からそのような提案が出るとは思わなかったのだろう。
「……わからない。シド公国で受け入れるか、それとも別の土地を与えるのか…受け入れないか…。話し合う必要がある。」
マースは、この島で初めて表情に迷いを見せた。
きっと、今まで聞いていた通りの人間じゃなかったからだろう。彼らはあまりにも理性的だった。
「……そうですか。では…私を陸へ連れて行ってもらえませぬか。話し合いをする場を、設けてはもらえませぬか。」
眉を寄せ、深く考えている様子のマースに、シリウスがぽつりと呟いた。
『初めての試みになりますね。成し遂げたら…』
マースはシリウスの言葉にピクリと反応し、ゆっくりと顔をあげた。
「わかった。では、ドルガ。あなたを公国へ連れて行こう。話し合いの場を設けるよう上司に進言しよう。」
「!! あ、ありがとうございます…」
周りにいた他の黒の一族は皆、笑顔を見せた。
彼らの表情は明るく、心から嬉しがっていると十分に伝わった。
・・・・・・
再度、船に乗り、シド公国へと戻る。
村に案内をしてくれた男性と、ドルガも一緒だ。
シド公国の海岸に着くと、すぐ正規軍が周りを囲った。
そしてその真ん中で連隊長が声を張り上げる。
「マース!!!どういうことだ!!!!」
マースは一定の距離まで近づいた後、連隊長に敬礼をした。
「連隊長!彼の一族は帝国民になることを考えています!そのために、話し合いをしたいとのことです!したがって、黒の一族から2名、代表の者を連れ、戻ってまいりました!!」
マースの宣言に周囲の軍人はら一斉にざわついた。
「なに?言葉が通じるのか?」
「帝国民になってもいいっていうのか?」
「話し合いだと?どうせ隙を見て我らを殺そうとするに決まってる。」
「シド公国に住むのかな?」
「黙れ!!!!!!」
連隊長の一言で一瞬で場が静まりかえる。
険しい顔のまま、連隊長は告げた。
「……とりあえず、一室設ける。そこに連れていけ。報告後、検討する。…行け!!!」
「「「 はっ!!!! 」」」
軍人らが一斉に動き出し、二人を連れていく。
俺とシリウスは彼らと一緒に付いていくことにした。
・・・
「連隊長……」
「……ちっ!!!!!!!」
「…どうするのですか?あんなモノ、受け入れるのですか?」
「そんなわけないだろう!だがマースが全体の前で言ってしまった。報告を怠ればすぐにバレる。私は報告せざるを得ない…!!」
「…どうするのですか?」
「……今後…いくらでも軋轢を起こせばいい。」
にやりとした笑みを浮かべて静かにそう言っていた。
黒の一族が住むところのイメージとしては石垣島ですかね。マングローブのような木がたくさん生えてる感じ。黒の一族の住む家は、高床式住居ですね。