33 内談
スリーター公国の王城のイメージカラーはルーマニアのブラン城です。ボキャ貧なので補足を。
剣を献上する2日前のこと。
スリーター公国 王城の一室 それも王の部屋の居間
1人がけのソファに座る王の目の前で、3人がけのソファにゆったりと座るシリウスがいた。
誰も入ってこないこの部屋の中だけは、シリウスは髪も目も隠していなかった。
『じゃあ剣を渡すのは明後日で決めていい?』
「はい。そうお伝えください。」
『わかった。 それと………ここを去るよ。』
シリウスの言葉に、王はゆっくりと目を瞑った。
「……そうですか。いよいよ…ここを出るのですね」
『 うん…。今まで、ありがとうね。』
シリウスが優しく微笑むと、王は少し寂しそうにいった。
「…私一人だけが礼を受け取るわけにはいきません。歴代の王がずっと守っていたんですから。いっそ、やっと肩の荷が下りると清々してますよ。」
シリウスは王の言葉に少し笑い、ブドウ酒を口に含んだ。
『……君も、もうおじいちゃんか』
「…はい。それも、やっとですよ。」
『ふふっ。あれ、じゃあ君はアグニと同い年くらいかい?』
シリウスのその問いかけに、王は楽しそうに笑った。
「ははっ。実はそれくらいですね。……昔、私が幼い頃、母に連れられてアグニ様を見に行ったことがあるのですよ。」
『ほぉ?』
「その時アグニ様は私より少し年齢の高そうな外見で、まだ先代アグニ様もいらっしゃって。こっそり見に行ったんですが先代に見つかりましてね」
『あらら。で、どうしたの?』
「なにも。先代は私たちを見なかったことにして、その日はこっそり見続けることを許してくれたのです。もう何十年も前のことですが、よく覚えてます。鍛冶をしているお姿がとても美しくて……けど、もうそれきりです。」
『じゃあアグニと次に会ったのは君が即位した後か?』
「はい。私の父が亡くなって10年ですので、10年前に2度目の再開をしました。」
『その時のアグニをどう思った?』
王はグラスに入っているブドウ酒を揺らしながら答えた。
「……難しいですね。何か…泣きそうであったり、嬉しかったり、悲しかったり。私と比べてずいぶんと幼く見える外見に戸惑ったり。跪きそうになってしまったのは苦い思い出です。」
『あははっ。君が跪いたらアグニはびっくりするだろうな~。けどさ…アグニの外見が自分よりずっと幼くなってて、その時初めて「本物だ」って思ったんじゃない?』
「いいえ。アグニ様は出会った時から私の心の中にずっとおりました。私にとってアグニ様は最初から「本物」でしたよ。」
『そう……。君も大概だねぇ。けど気分がいいや。僕ではなくアグニを一番に考え、アグニの言うことを最優先で聞く…そんな国があるってことが嬉しいよ』
「ふっ。シリウス様には申し訳ありませんが、ね。そこはわが国民も譲らないと思いますよ」
『……君はいい王になったね。ああそういえば、学院の推薦状書いてくれた?』
「ああ、はい。こちらに」
そう言い、王は自身の部屋の机の中から封筒を取り出してシリウスに手渡した。
『ん。ありがとう。そのうち使うね』
「せっかく書いたのですから役立ててくださいよ」
シリウスと王は再び向かい合って座り、喉を潤す。
「シリウス様、剣はどうしましょう?」
『ん?明後日渡す剣のことかい?そのまま貰いなよ』
「いやいや、いくらなんでも恐ろしい。先ほどシリウス様から聞いた話だと、皇帝に直接剣を捧げても良いほどのものじゃないですか」
『ん~まぁ~飾っておくには惜しいかな…。それじゃあ、そのうち取りに来るよ。必要になった時に。』
シリウスのその発言を聞き、王はピクリと動きを止めた。
「……つまり、あれほどの剣が必要になる時が来るということでしょうか?」
シリウスはクスっと笑って
『いやだなぁ。勘ぐりすぎだよ。この帝国内でそんな戦争は起きないよ。単純に、そのうち難しい芸獣と戦う時とかってこと』
「……それを聞いて安心しました。私には民の平和を守る義務がありますのでね。大変失礼しました。」
『君は、いい王になったなぁ』
「ふっ。さきほども言われましたな」
『あれ?そうだっけ?やだな。年かな。ふふっ』
「ふっ…はははははは!」
2人は二度目の乾杯をし、
まるで2日後の別れを惜しむかのように
その後も語り合った。
・・・・・・・・
『さ、アグニ!そろそろ出るよ~』
「ああ!!」
今日、
この村を、この国を出る。
まずは帝都に向かうつもりだ。
家の鍵を閉め、荷物を持ち、村の出口に向かって歩いていく。まだ日の開けぬ頃だからか、村の中は誰もいなかった。とても静かで、まるで誰も住んでいないかのようだった。
けれど村の出口に行くと、一人の老婆がいた。
優しそうな老婆はアグニに深く頭を下げて言った。
「アグニ様。旅に出てゆかれるそうですね」
「あ、はい。これからいろいろなところを見て回ろうと思います」
「そうですか。……大変、おこがましいのですが…こちらを受け取っていただけますか?」
「え?なんですか?」
老婆はそう言って、黄色の小さい芸石がたくさん付いたヒモのブレスレットを渡してきた。
「わぁ。綺麗です!ありがとうございます!」
「こちらこそ、受け取って下さってありがとうございます。どうか、旅の間、ご無事で過ごされますように。お祈り申し上げます。」
「……ありがとう。優しくしてくれて。名前を聞いてもいいですか?」
「……アリシア。アリシアと申します。」
「…アリシア? アリシアさん。この頂いたブレスレット、ずっと持ってますね。このブレスレットと一緒に旅をしますね。」
老婆は少し目を見張り、泣きそうな笑顔を見せた。
「………どうか、どうかご無事で……いってらっしゃいませ……」
そう言って老婆は再び腰を深く折り、見えなくなるまでずっと送っていてくれた。
村の人にずっと避けられていると思ってたけど、そうではないのかもしれない。
最後に温かい気持ち気持ちにさせてもらったな
旅のはじめは順調だ。
こんな良いスタートはないだろう。
きっと素敵な出会いもある。
素敵な場所もある。
俺は足取り軽く、旅に出たのだった。