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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第7章 第3学年
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256 『 はじめまして。』



氷の牡鹿は砕け、吹雪が止んだ。

場は静まり返っていた。



「……誰か、コルネリウスを保健室に連れて行ってくれ。」


「………あ、お、おう!!!」


少し遅れてパシフィオが返事をし、コルネリウスを抱えて去っていった。

シルヴィアもその後すぐに俺の方へ近寄ってきた。


『シュネイ、怪我は……』


「大丈夫。ギフト、治癒。」


この程度なら自分で治せる。

大したことはない。


「……バノガー先生、2回芸を出しちゃったので俺の負けです。」


「いや、いやいやいや!!」


バノガー先生は首おかしくするんじゃないかと思うくらい、頭を横に振った。


「お前があの解名を出したのは他の生徒たちを守るためだろう?それなら1回目の芸は無効でいいんじゃないか?」


「いいえ、それでも俺は1回のみで対応すべきでした。ルールに従わなかったから、俺の負けです。」


「うーん、まぁシュネイがそれでいいなら……」


『シュネイ、先ほどコルネリウスさんと何を話されたのですか?』


「っ………。」



コルは言っていた。

俺がコルの上に立った、と。


なぁ、コル。


俺はずっと

お前の隣にはいなかったんだな。



「………なんでもないよ、本当に。」


シルヴィアには言えなかった。

そんな簡単に、言葉にできるようなものじゃなかった。


「ごめん、一回着替えてくるわ。またあとでな。」


『……ええ。』


俺は一度、その場から離れることにした。






・・・・・・




どうしても皆に伝えたい大切なことがあった。


交流会最終日、あとで閉会式がある。

第1学院の生徒は1年から4年まで(4年は実習等であまり学院内にはいないが)、第2学院の生徒は学院交流会に参加している2・3年のみが出席している。

そして俺は、その場で代表者として挨拶をする。


俺は制服に着替え直して、皆んなが揃う講堂へと入っていった。


入るまで聞こえていたたくさんの喋り声は止み、大勢の生徒がこちらを見ていた。

多くの生徒から心配するような芸素が伝わってきた。


「シュネイさん、」


「オズムンド、ありがとな、あの後の試合を指揮してくれて。」


「そんなのは余裕ですけど………大丈夫ですか?」


珍しいな。

オズムンドからも心配が伝わってくる。

俺はそんな悲劇的な顔をしてるのかな。


「ああ、心配してくれてありがとう。怪我も大丈夫だ。」


「あ、怪我の心配はしないです。」


「おい!」


軽口を叩く俺らを見てやっと周りの生徒の雰囲気が柔らかくなった。


『シュネイ、挨拶はどうしますか?』


「やるよ。ありがとう。」


『わかりました。』


俺は一度シルヴィアに頷いてから、壇上へ向かった。みんなの方を振り向くと、第1の生徒も第2の生徒も前を向いて静かに俺の言葉を持っていた。


「第1学院、第2学院の皆さん、本日をもって今年の交流会は終了いたします。みんな、交流楽しめたか?」


一度拍手が起こり、また静かになった。


「楽しめたのなら良かった。……ただ、驚かせることもあったと思う。俺とコルネリウス・リシュアールとの試合で、不安な思いをさせたかもしれない。そりゃあそうだ。同級生があんな殴り合いみたいな試合してたら、嫌でも目に入るし不安になる。」


俺はできる限り全員の顔を見るように意識した。



「……俺はな、ただの人間なんだ。」


生徒たちは少し不思議そうな顔をした。


「ちょっと武芸が得意なだけ、ちょっと戦い慣れているだけ。本当にそれだけだ。座学の成績はよくないし、字も汚ねぇ。皆んなと同じ、ただの生徒だ。」


しっかりと話を聞いてくれている。

もうそれだけで嬉しかった。


「完璧からはほど遠い。社会常識もよく知らない。親もいない。それでも俺は、皆んなと同じ位置にいたい。……大切なんだ、この場所が。」


伝わってるかな。

伝わっているといいな。


「大事なんだ、皆のことが。すごく楽しいんだ、同じ目線で話し合えることが。」


みんな真剣な表情でこちらを向いている。


「だからどうか、俺が……いや、シルヴィアも俺も、皆と同じただの人間であることを忘れないでほしい。俺たちは全員、最初は同じだったはずだ。」


俺らは一緒に成長して、一緒にくだらない常識を身につけて、一緒に「違う」と線を引いてしまったんだ。


「……わがままかもしれないけど、この場所と皆が大切だと言った俺の言葉を、信じてほしい。……お願いします。」


俺は深く深く頭を下げた。


天使の血筋は頭を下げない。

そんなこと、どうだっていい。


俺はずっと、変わりたくない。




パチ……パチパチ……パチパチパチ…



少しずつ拍手が鳴り始め、それが重なり、大きな音になった。


それは間違いなく『肯定』だった。

よかった。届いた。ちゃんと届いたんだ。


「ははっ……ちょっと泣きそうなんだけど。」


俺の一言で数名が笑った。


「シュネイ!アグニ!ちゃんとわかってるぞ!!」


パシフィオがそう言ってくれた。


「なんなのよもう……ちょっともらい泣きしそうなんだけど!」


バルバラがそう言って目を拭った。


「アグニでもシュネイでも、ずっと信じてるぞ!!」


カールが声を上げてくれた。

それが皮切りとなり、大勢が声援を送ってくれた。


「アグニ!シュネイ!アグニ!シュネイ!アグニ!シュネイ!」


大切な2つの……いや、この世に2つしかない俺の名前を、皆が呼んでくれている。


「………ありがとう。本当に、ありがとう……!!」










次の瞬間、

耳をつんざくような不協和音が鳴り響いた。





「うっ…?!!」

「きゃあ!!」

『耳痛い…!!』

「な、なに…!?なんの音?!」


全員が耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。

ほどなくして聞いたことが大きさの衝撃音が響き渡り、地面が大きく揺れた。



ドガァァァァァァァァン!!!!!




「なになになに!?!?」

『うわぁぁぁぁ!!!!!』

「きゃああああ!!!!」

『なんだよぉ!?!?』



『アグニさん、この芸素は一体……!!』


シルヴィアも気づいたようだ。

事態の異常さに。



「・・・・防御結界が、壊された。」



第1学院の周囲には防御結界が張られている。

天使の血筋や王族を含め、貴族の子女が何十人と暮らしているこの場所に埃一つ外部から入らないよう、人類の叡智を詰め込んだ最高傑作の芸石をふんだんに使用し、いかなる侵入や攻撃を通さない結界が張られている……はずだ。


それなのになぜ……


「アグニ、」


カールが俺を呼んだ。


「……確かか。」


「ああ。」


「……歴史上、一度だって学院の結界が壊されたことはなかった。」


「緊急事態であることは言うまでもない。」


オズムンドが俺の前まで進み出て、告げた。


「指示系統を明確化する。……第2学院は、あなたの指示に従う。」


オズムンドの目はまっすぐで、声色は落ち着いていた。


「命じろ。」


第2学院の生徒はオズムンドの言葉に黙って頷いた。


『この場の全員がわかっています。この非常時に誰に従うのが賢明であるか。』


俺の隣に立っていたシルヴィアは一段下がり、俺を見上げた。

王族としての威厳は失っていない。

シルヴィアは背後にいる生徒全員を率いて進むつもりなんだ。


『我々は、あなたの指示に従います。』


「シルヴィア……」


轟音は収まり、全員が静まった。


俺の声を聞こうとしている。

俺の指示を待っている。


そうか、信じてくれるんだ。



けれど・・・


ここで皆に指示を出した後、

皆は変わらず、俺を同じ目線で見てくれるだろうか。


俺、さっき嬉しかったんだ、皆が受け入れてくれて。


「……うん、嬉しかったなぁ。」



『……アグニさん?』


シルヴィアが不安そうに俺を見ている。

俺は順番に皆の顔を見渡した。


怯えている子や震えている子もいる。

けれどオズムンドやシルヴィアの言葉を聞いて、

怖くても一生懸命歯を食いしばって、

震える手を握りしめて、

全員がまっすぐにこちらを向いていた。


もう、元の場所には戻れないかもしれない。

それでも、嬉しかったあの気持ちを皆に返したい。



だから・・・



「………外部から防御結界を破り二体の芸獣が侵入。最初の音がそれだ。そして二体のうち芸力の弱い方でさえも……大型を越えている。」


空気が一気に張りつめた。

大型の芸獣が出たら、軍が討伐に出動する。

その大型のレベルを超えるなんて……災害レベルである。


「二体の芸獣は侵入時に東の塔を破壊。それが二つ目の衝撃音と揺れだ。二体は今も東塔の付近にいる。」


俺はシルヴィアとオズムンドと目を合わせた。


「シルヴィアは先頭を、オズムンドは後方を。ここにいる全生徒を引き連れ、西の演習場へ向かえ!」


「『 了解!!』」


「パシフィオ!!」


俺は一つの芸石をパシフィオに投げた。


「学院長への通信用芸石だ!今の俺の話を伝えてくれ!そして軍の動きを把握しておいてくれ!!」


「わかった!!!」


学院長への情報共有は最小限でいい。その中から最適な行動を起こしてくれるはずだ。

第1学院の防御結界が破られたことで、既に帝都軍は動いているはず。

あとで演習場で合流した時にすぐ次の動きができるよう、パシフィオには最新の状況を掴んでおいてもらいたい。


「セシル!!」


俺はセシルを探して目を合わせた。


「映像、撮れるな?」


「は、はい!!!」


「頼んだぞ!!それと全員が演習場に着いたら俺に芸石で教えてくれ!!」


「はい!!」


改めて全員の顔を見渡す。

もう皆、怯えていなかった。

全員の目には「覚悟」が宿っていた。


「俺は芸獣の元へ向かう。」


『………大丈夫ですか。』


シルヴィアがそう問うた。

俺は一段下がってシルヴィアと同じ目線になった。


「シルヴィア、俺の芸素を辿れるな?」


『ええ。』


「なら、俺の生存把握を。もし俺が死んだら、学院長に伝えてくれ。」


『………死ぬのですか?』


「死なないように頑張る。」


『もしあなたが死んだら、今度は私がその芸獣を敵討ちに行きますから。』


「っ……ははっ!これは本当に死ねなくなったなぁ。」


俺はまた一段上がり、皆に向かって叫んだ。


「全員の無事を祈る!!また会おう!!!」


「「『「『  おう!!!!! 』」』」」


一気に皆んな、動き出した。


シルヴィアが指示を出し、オズムンドが配列を組む。

パシフィオは通信を、セシルは映像を撮り始める。


「アグニ、」


「カール、なんだ?」


「俺も連れていけ。」


「それはできな……」


「刻身の誓い」


「っ!!」


カールは手首を見せてきた。

そこには消えない切り傷があった。


「俺は、あの方の力を使える。」


カールはシリウスと刻身の誓いを交わしている。

それによって、カールはシリウスの同意の元であればシリウスの力を借りて芸を出せるのだ。


「……シリウスは、なんて?」


「シリウス様は帝都の外で待機するようだ。アグニが芸獣どもを追い払うからと。」


「あははっ!あいつ、援護する気ねぇのかよ。」


「アグニに援護が必要だと感じたら、俺を使用するだろう。だから俺を連れていけ。」


「………走るぞ。俺についてこれるか?」


俺は初めて、刻身の誓いの発動を見た。

カールの目は金色に変化し、腕に黄金の鎖が浮かび上がった。


『「今なら空も飛べるよ。」』


「っ…!!」


そこでやっと気づいた。

刻身の誓いは、カールがシリウスの力を借りて芸を行使するのではない。

シリウスがカールの身体を使って芸を出すのだ。


「……カール?」


『「 なんだ? 」』


カールからシリウスの芸素を感じる。


「お前は、カールだよな?」


カールはシリウスのように笑った。


『「俺は、ずっと俺だよ。」』


そう言ったカールの目は金色で、腕には鎖が巻き付いていた。


「そうか………行くぞ!!!」


『「 おう!!!」』


俺は芸獣の方へと走り出した。

身体強化と風の芸を使用して廊下を駆け抜け、ドアを突き破り、校舎の外へ出た。

そのまま空へと舞い上がり、直線距離で芸獣の元へと向かう。


カールは俺の後ろをずっとついてきていた。


「あれ、二体とも南に移動している。あの先にあるのは……」


『「保健室だ!!!!」』


カールの叫びで気づいた。


「コルネリウスが危ない!!!!」


俺は限界までスピードを上げた。

急なスピードの変化に骨が軋んだ。

けれどそんな痛みはどうでもいい。鼓動が早まり、不安が高まる。


「頼む、間に合ってくれ……!!」


『「……アグニ!煙が!!」』


保健室から煙が上がっていた。

コルネリウスの緊張した芸素を感じる。


「ギフト!!!水鏡!!!!!!」


俺はコルネリウスと二体の芸獣の間に水鏡を張り、落ちるように地面へと降りた。

降りた時に咄嗟に風の芸で砂嵐を作り視界を遮った。


「コル!!!」


「あ、アグニ……!!!」


コルネリウスのシャツと顔には泥がついている。首に巻かれた包帯は少し解けており、先端が焦げていた。

コルネリウスは水鏡の先へと剣を構えたまま俺の隣まで移動してきた。


「アグニ、こいつは……!!」


「ああ、わかってる。」


ここ最近、何度も話題に上がった。

ハイセン村を弄び、帝都軍を半壊させ、コルネリウスから度々感じた、あの芸獣人間。



『あなたが、「アグニ」ですか。』



砂煙が薄まり、()()が姿を現した。


それは、

漆黒の髪に鮮血のような赤い目の、人間だった。



『 はじめまして。』









けっこう話が進んだぞ〜!!!

うぉーーーー!!!

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