254 2度目の学院交流:第2学院②
陣地取りゲームは大成功!!
各グループは学院の壁を超えて協力し合い、全員が楽しめたようだ。
大きな怪我もなく、あっても俺が治せる程度(打撲くらい)だった。
夕飯の時には両学院の生徒は随分と打ち解けていた。
「ほんとやってよかったな!おつかれ~い!ランとカイルも!!」
俺とシルヴィアは天使の血筋の寮にオズムンドを誘い、5人で簡単な打ち上げをした。
お酒もちょっとだけね。
「お疲れ様です。」
『無事に終わって何よりでした。』
「お疲れ様でございました。」
「お疲れさまでーーーす!!!」
各々のテンションが違って面白い。
オズムンドは学院内でお酒を飲むことに抵抗があるようだったが、天使の血筋寮は、まぁなんというか、暗黙の了解を得られる。
「優勝グループみんな喜んでたなぁ。」
優勝したのは青チーム。
第1学院の生徒の中にはコルネリウスもおり、コルネリウスの圧倒的統率力と推測力で、他チームと大差をつけて陣地を取っていた。さすがコルだ。
「明日からは普通に武芸の練習ですか?」
「もう明日からはふつーだよ、ふつー。」
「……そうですか。」
オズムンド、意外とこういう催し系好きなんだな。
『それでは参加者を武芸の研究会参加者に限り、交流会最終日の5の日に武芸総当たり戦を行うのはいかがでしょう?』
「「 総当たり戦??」」
総当たり戦はトーナメント戦と違い、試合に参加する者は自分以外の参加者全員と必ず一回は戦う。試合数が多くなるから時間はかかるが、公平性は高い。
「いいね!時間なくてあんまり総当たり戦はやったことないもんな!」
「第1第2総合での順位がわかるってことですか……ふーん……」
あれ、オズムンド意外と乗り気じゃない?
こういうのは興味ないのかな?
「どうだオズムンド?あんまり惹かれなかったら全然やらなくて大丈夫だぞ?」
「え?やりますが。」
真顔のくせに随分と食い気味に返事をしたな。
なんだよもぉ〜こいつぅ〜!
ということで、2の日に総当たり戦を行うことを全員に伝えた。もちろん武芸を習っている人のみで、参加も自由にした。
しかし第2学院の生徒は全員参加を希望し、第1学院の生徒も第3学年は全員、第2学年も半数ほどは参加を希望した。偉いぞみんな!
ただ……
「………多すぎですね」
「……だな。どうしよっか……。」
参加したいと言ってくれたのは全部で99人。
つまり試合数は4851回。
一回3分の試合にしても、合計14553分かかる。
「……第2学院の人数を絞ります。」
「……すまん、オズムンド。」
『……よろしくお願いいたします。』
参加希望をしてくれたのに申し訳ないが、さすがに人数を絞らせてもらった。
そして最終的な参加者は、
第3学年総勢29名
第2学年総勢25名
それぞれ試合数は406と300。
3分の試合で合計1218分と900分。
う〜ん変わらず果てしない!!
と、いうことで2の日から順次試合をしていくことになった。4日間で分けてやっていくしかない。
しかも各学年場所を分けて2試合ずつ行っていく。これでやっと終わる可能性が見えてきた。
「いやあ、よかったよかった。無事に2の日が終了して。」
2の日には開会式と第3学年の110試合、第2学年の70試合を行った。
『今日は第3学年は118試合、第2学年も90試合ありますよ。』
「だなぁ……けど今日と明日は同じ試合数だから、終われば一安心だよな。」
最終日の5の日は帰らなきゃいけないし閉会式もするのでそんな試合数を多くできない。そんなわけで、今日と明日の試合数は大めに設定している。
言い出しっぺの自分がいうのはダメだろうが、夕食後にする試合のだるさが半端なかった。
「シュネイ~!!試合5つ前だからそろそろスタンバイしとけ~!!」
効率化を図るため、試合5つ前から各々スタンバイして最終調整を始めることにしている。俺はいよいよオズムンドと戦うのだ。
ちなみにもちろんだが、今のところ俺は全勝している。舐めないでほしい。
試合の時間が来て、オズムンドと対面した。
「……昨年戦った時、あなたはまだ『アグニ』でした。」
「ああ、そうだったな。」
去年第2学院交流会の最終日に戦った時、俺はまだ天使の血筋だと公表していなかった。
「……あなたが天使の血筋だと知った後、あの試合のことを思い出しました。そして、気づいたんです。あなたは……自身が特別な存在であるとバレてしまう危険を冒してまで、全力で向き合ってくれていたんだと。」
「っ……!!」
俺はあの時、オズムンドの真っすぐさに答えたくて、演習場全体に水鏡を施して防音し、様々な解名を制限なしで繰り出した。
よかった。あの時の誠実さは、ちゃんと伝わっていたんだ……。
「けど、あなたが天使の血筋だとわかった後も、俺の中の最高はシド様だ。だから、俺は必ず、勝ちます。」
オズムンドはシドを敬愛している。けれどそんなシドが俺のことを「すごい」と褒めた。
だからオズムンドは、俺が最高ではないと証明し、シドこそが最強で最高であると伝えるために、俺に勝ちたいのだ。
「ああ。それじゃあ……この1年の成果を俺に見せてみろ!!」
「言われなくとも!!!」
俺らは剣を交わし合う。
それだけで、相手の気持ちは伝わってくる。
オズムンドの持つ、熱の入ったまっすぐ純粋で強い意思が、剣を通して俺にぶつかってくる。
「っ…!!」
オスムンド、去年よりも確実に強くなっている!!
剣の重さも早さも全然違う。
「なるほどね……!」
こりゃあ、第2学院の総長だわ。
「この1年、頑張りましたから…ね!!」
「っ……!!」
剣が重い…!!
「くそっ!!」
俺は身体強化をしてオズムンドの剣をはじき返した。
つまり、素の状態での力比べはオズムンドの方が上だということだ。
「本当に、相当頑張ったんだな。」
俺に解名を出す時間を与えないほど、素早く攻めてくる。
オズムンドは以前よりも実戦的な動き方になっていた。
「……はじき返されましたか。」
「身体強化したからな。」
「芸は出さないんですか?」
「出さない。」
「なぜ?」
気持ちが高揚している。
負けを感じさせる焦りが、最高に楽しい。
「それじゃつまらないからな!!!!」
「ですね!!!」
剣を合わせる。
あぁ、楽しい。
負けるか勝つか、生きるか死ぬかの瀬戸際が
俺を最高の気分にさせる。
「っ…!?」
芸素を感じた。あの異質な芸素。
そしてコルネリウスが俺の試合を遠くから見ていることに気づいた。
そのコルネリウスの目は、今までに見たことのないほど暗く淀んでいた。
「よそ見なんて、随分余裕ですね。」
「っ……わりぃ」
俺は再びコルネリウスの方を見た。
しかしその時にはもうコルネリウスは他のクラスメイト達と笑顔で何かを会話しており、芸素の違和感も消えていた。
先ほどの目は、なんだったのだろう。
「……なぁ、オズムンド。」
「はい?」
俺は本気の剣を振るいながら会話した。
なぜなら今のこの会話だけは、俺ら2人にしか聞こえないものだったから。
「違和感とか、何も感じない……よな?」
「え??なにか感じてるんですか?」
「俺は、第1学院で人以外の芸素を感じた。」
ギィィィィィィィィン!!!!!
剣が合わさる。
激しい金属音が耳を劈く。
「・・・・・どういうことですか。」
「オズムンド、もし、もしだけど、」
視線が交わる。
その目はまっすぐで、信頼に足るものだった。
「この場で有事が生じた場合、俺の指揮下に入れるか。」
カキィィィン!!!!!
オズムンドの剣を持つ手が緩まった。
俺は一瞬の隙を突き、ひどく簡単に剣を弾くことができた。
「はぁ、はぁ、はぁ……いつでも…」
オズムンドの息は切れ切れだった。
しかしその表情の意志固く、天使の血筋を支える軍人のものであった。
「いつでも、命じろ。」
「勝者、シュネイ!!!」
歓声が聞こえる。
ただ俺は勝った嬉しさ以上に、安心していた。
「……ああ、よろしく頼むな。」




