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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第7章 第3学年
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252 コルネリウスから感じる芸素



3の日

今日からは第1学院で授業だ。もちろん第3学院の生徒も同じ授業を受ける。そして放課後は、引き続き武芸の練習をする。

本当にみんな偉い。ぶっちゃけ武芸に興味ない子だってたくさんいるだろうに、ちゃんと最後まで練習会に参加してくれた。



『シュネイ、少しいいですか?』


5の日の練習後、シルヴィアが声をかけてきた。


「おお?もちろん。なんだ?」


『マイアさん、もう少しで「風刺」ができそうなんです。』


「おお〜?!」


マイアはシルヴィアの後ろで照れていた。そして照れながらも現状の芸を見せてくれた。

確かに、風刺という名を与えた風の芸が少し針のように尖って出力されている。


「すごいなマイア!!このまま練習を続けていたら今年中には風刺ができるんじゃないかな!」


「ほ、ほんとですか!?」


マイアはキラキラとした表情で嬉しそうに笑っていた。もちろん、「風刺」ができるようになったからといっても、威力や精度は低いだろう。けれど一旦そんなものは置いといていい。解名のコツを掴むのが一番重要だ。


「風刺ができるようになったら、次は威力を上げる練習をしてくれ。その練習が自分の芸素量を増やす練習にもなるから。その後に精度を高める練習をしてくれ。」


「わかりました!!!」


「そんでもし風刺が上手くできるようになったら、次は「鎌鼬」を練習してくれ。風刺と近いからきっと学びやすい。」


「鎌鼬ですか?あの……風刺と鎌鼬ってどう違うんですか?」


「簡単に言うと、風刺はまっすぐの攻撃しかできないから避けられる可能性が高い、けど出力が速い。鎌鼬は攻撃する向きを()()()()。その分、鎌鼬の方が難しいし威力も上がりにくいが、殺傷能力も高い。実際に違いを見せるよ。」


俺は風刺と鎌鼬それぞれを的に向かって出した。

風刺は的の前と後ろからそれぞれ1回ずつ。

鎌鼬は出してからしばらく空中で遊ばせ右からの攻撃と見せかけて左から的に当てた。


「うわぁ!!!すごいです!!!!」


「もし本気の戦闘になった場合、鎌鼬の方が有用だから覚えておいた方がいいぞ!」


「本気の……」


マイアはそう言って黙ってしまった。

俺はなぜ黙ったのかわからず、マイアの顔を覗き込んだ。


「マ、マイア…?」


「シュネイ様、私が役不足なのはわかっています!」  


「え?なに??」


マイアは真剣な表情で俺を見ていた。


「けれど一度だけ……私と本気で試合してくれませんか?!」


「え?無理だよ。」


「っっ!……どうしても、ですか?」



   なんだ急に?

   どうしたんだ?



「うん、マイアと本気では戦えないよ。」


そんなことしたらマイアが死ぬ。

練習試合で本気を出せるわけがない。


「……ですよね!!」


マイアは傷ついた芸素を出していた。


「ほんとすいません、不躾に失礼しました…!!本当にごめんなさい。」


「マイア、誤解しないでほしいんだけど、俺は第1学院の中で本気を出せる相手はコルネリウスとシルヴィアしかいないんだ。だからなんというか……マイアが特別なわけじゃないよ。」


「っ……!!」


マイアは先ほどよりも傷ついた芸素を出した。

マイアだけに本気を出さないとか、そういう意地悪ではない。俺はみんなに本気を出してない。だから傷つかないでほしい。傷つく必要なんてない。

ただ、そう伝えたいだけなのに……。


「あの、本当に……ありがとうございました…!私……失礼します……!」


マイアはそう言って走り去ってしまった。

その場に取り残されたのは俺とシルヴィア、そしてなぜかバルバラやセシルを含めた第1学院同級生の女子たちもいた。


「あ、あんたねぇ……」


「え?なに……マイアはどうしたんだ!?……お、俺のせいだよな?!」


「いい!!任せて!!」


バルバラはそう言ってマイアの後を追っていった。そして複数の女子生徒たちはシルヴィアを連れて学内へと戻っていってしまった。


「……アグニ。」


「セシルぅぅぅ!!!」


俺の近くに残ってくれたのはセシルだけだった。

優しいなぁと思った直後、セシルは特大のため息をついた。


「はぁ……バカ……」


「なぁ?!!!!」




・・・





「マ、マイアさん!」


私はなんて声をかけたらいいのか、わからなかった。

マイアさんは校舎の隅に立っていた。立って、泣いていた。

私が声をかけると、マイアさんは驚いた顔をして急いで涙を拭いた。


「あ、はい…えっと……」


「バルバラよ。バルバラ・クレルモン。どうぞよろしくね。」


「あ、はい!バルバラ様。」


「あら、バルバラ呼びで結構よ?」


「いえそんな!!……あ、それではお言葉に甘えて…バルバラ、さん……。」


マイアさんは様子を伺いながら、私の事をそう呼んだ。


 性格がいいのよね、この子。

 だから困るのだけど。


「……シュネイのこと……本気なの…?」


「っ…!!!」


マイアさんはとても驚いた顔をしていた。しかしすぐにその顔は曇ってしまった。マイアさんは笑ってるような、泣いてるような顔をしていた。


「……ちょっと、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ、一緒に過ごせる未来を考えてしまいました。」


「っ……。」


 ……悲しいわね。

 たぶん本当に、これが本音だもの。


もし、アグニと身分差がなくて、あの素敵な一目惚れを同じ学院生でして、そして自分のことを気になってくれたら……そしたらそんな未来もあったかもしれないもの。

 

「……わかっていました。この5日間、ずっとシュネイ様を見ていましたから。」


マイアさんの目がキラキラしていて、それはとても綺麗だったけれど、切なかった。


「…シュネイ様は全員にお優しいだけで、私が特別ではない。私に心を開いてくれたわけでもない。……私じゃあ、役不足なんです……。」


「そ…そんな…!」


そんなことないわよ……とは言えなかった。




『あなただけではありません。』


「え、シルヴィア様!?」


シルヴィア様はゆっくりと、優雅に気品を感じる足取りでマイアさんの方へ近づいていった。


『シュネイが背負うものは、とても重い。』


絹のように美しい金色の髪は、夕日を浴びていっそ眩しいほどに輝いていた。


『その重さは、私ですら計り知れない。』


マイアさんはじっと静かにシルヴィア様のお話を聞いていた。


『だからこうして、必死になって、その重さを分かち合える者であろうと努力をしているのです。』


「っ……」


シルヴィア様は、そのようにアグニを想っていたのね。

好きとか、そういう次元じゃない。

王族として、天使の血筋(同族)として、対等に語る者として、自分を奮い立たせる者として、上へと共に向かう者として、アグニのことを見ていらっしゃる。


私は、アグニの背負うものを知らない。

その重さもわからない。マイアさんと同じ立ち位置。

だから私はマイアさんとアグニが近づいた時、「シルヴィア様は焦ったりなさらないのかしら?」と思ってしまったけれど、そんなものは杞憂だったのね。



『だから、共に……励みましょう。』



シルヴィア様は不器用に口角を上げて、片手をマイアさんに差し出された。精一杯、マイアさんを奮い立たせている。

けどきっとシルヴィア様がそのように振舞ったのは、アグニから人が離れるのを阻止したかったからなのでしょう。


「っ……はい!!」


マイアさんはただただ純粋に喜んで、笑顔でシルヴィア様のお手を取っていた。





・・・





夕飯の時、マイアは普通に戻ってきた。

改めて謝ったが、いつもの笑顔で「気にしないでください!私もっと頑張ります!」とだけ言って、席を離れてしまった。


「なぁシルヴィア、マイア怒ってるかな…?」


『怒ってらっしゃないと思いますよ。』


たしかに芸素的には怒ってなさそう。

むしろ気を張って元気よく振る舞おうとしている。


「たぶん傷つけたんだよな……。」


『……はぁ。』


「うえぇ!?!?」


シルヴィアが!ため息ついた!!

え、もしかして俺がガタガタ言ってるのが煩くて!?


「うぅぅ……カイルぅぅぅ……」


俺は自分の後ろに立っているカイルに助けを求めた。

なのにカイルも呆れた顔で俺を凝視してくる。ナニコレ……。


『そういえはシュネイ、来週から行われる第2学院との交流会の時にはコルネリウスさんも学院に戻って来られるそうです。』


「え!まじ!?」



   コル!よかった!!!

   戻って来れるのか!!!!



コルネリウスは特別区で行われた帝都軍の遠征に参加し、何者かに集団幻影をかけられ、同士討ちの末に意識不明の重体になった。

幸い意識はすぐ取り戻したが、体と心の傷はすぐには癒えず、しばらく療養していた。


集団幻影の芸をかけた何者かは、ルシウスと同族である可能性が高く、シーラの解名と同じレベルの芸を出せるほど強い。俺とシリウスはその者の芸素をハイセン村でも感じていた。


そいつは絶対に、また何かを起こす。

それがわかっているからこそ、シーラは積極的に軍部関係者のパーティーに参加して情報収集に励んでくれているし、シリウスとシャルト公爵も対策を練っている。


『傷が癒えたようで、安心いたしました。』


特別区の病室でコルネリウスに会った時、コルネリウスからそいつの芸素を感じた。

コルネリウスはひどく取り乱していて、そんな姿を一度を見たことなかった俺はとても驚いた。

だから絶対に許せなかった。

コルネリウスを傷つけた、そいつのことが。


「………あぁ、そうだな。」


コルネリウスが帰ってきたら、また仲良く2人で話をしたい。

そんなことを思っていたら、すぐ青光る2週目になった。


第2学院との交流会は、今年は第1学院で行われる。そのため第1学院の生徒は朝いつも通り通学して、講堂へと集まった。



「コルネリウス!!」


パシフィオの声が遠くから聞こえた。

その声を皮切りに、全員がコルネリウスの帰還を喜んでいた。



しかし・・・



『シュネイ、あの何か……コルネリウスさんの雰囲気が変わったように感じるのですが……』


俺の隣にいたシルヴィアは不思議そうにそう言っていた。


「……ああ。その感覚は間違ってねぇよ。」


『………シュネイ?』


自分の心臓がうるさい。警鐘を鳴らし続けている。

危険だと、知らせている。


コルネリウスは俺とシルヴィアの方に向かってきた。絵に描いたような綺麗な笑顔を携えて。


「……なんでだ?」


『アグニさん?どうしたのです?』


コルネリウスは俺らの前に辿り着くと、一層笑顔になった。


『お久しぶりですね、シルヴィア様、シュネイ様。第3学院の交流会に参加できず申し訳ございません。コルネリウス・リシュアール、本日より復帰いたします。』


ハイセン村、そしてコルネリウスの病室で感じた、あの芸素。

何人もの人間を幻影で惑わし、殺し合わせ、コルネリウスに悪夢を見せた者の芸素。


『改めて、よろしくお願いいたしますね。』


その何者かの芸素を、今までで一番濃く感じた。






コルネリウス……?


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