246 2度目の学院交流前のパーティ―・後編
その後、
第3学院のアイシャとアイシャの父ちゃんであるブリッジ子爵も挨拶に来てくれた。
そしてシュエリー大公とも喋った。会うのは裁判の時以来だった。相変わらず見た目は綺麗だが口が悪くて安心した。前シュエリー大公である天見の翁も元気らしい。よかった。
そしてイサックとセシル、その両親たちも挨拶に来て、その後にカールとブラウン子爵、シモンを含めた特別区の貴族、バルバラと父ちゃん、シャルルとアルベルト、その他帝都貴族や辺境貴族などすげぇ色々な人と喋った。
いやぁ、たくさん喋った。
本当に人脈を広げるにはすごくためになるし良い機会なんだが………まじで疲れる。なんか途中からよくわからなくなってきてシャルルやアルベルトにも変な敬語使っちゃったし。
あ、クィトだ!
あれ、しかも一人じゃん。
「お~い!クィト!」
「え………?俺………?」
「おい、ばっ……!」
クィトがなんかジュースをめっちゃ啜ってて可愛いかったので声をかけたが、当の本人は目を真ん丸にさせていた。そして俺の後ろにいるカイルが何かを言いかけていた。
「よっす!どう、交流会パーティーは?というかパートナーの子はどうした?」
周りを見渡してもパートナーっぽい子はいなかった。
「…………………化粧室。」
「あ、そうなんだ!あ、そうだシルヴィア、紹介するよ。こちらはクィト!ほら、前に軽く伝えた、今年第4学院に入学した子!クィト、こっちはシルヴィア!ちょくちょく公爵邸に来てくれるから今後も顔合わせることあると思うぞ!」
「え……待って天使の血筋じゃん……詰んだんだけど。」
クィトはそんなことを言いながら呆然とシルヴィアを見ていた。
まぁまだ入学して間もない。天使の血筋が目の前に現れたら咄嗟の対応ができないのだろう。
「ほらクィト!いったん礼をして、そんで・・」
「おいシュネイ!お前とシルヴィア様とクィトが話してんの不自然だって!!!」
「え? …………あ。」
やらかした。
俺も天使の血筋だったし、クィトとの接点はないはずだった。
『落ち着いてください。そしてクィト、あなたは私達2人に大きく礼をしてください。』
「っ!はい……!」
クィトはシルヴィアに言われたまま礼をし、挨拶をして顔を上げた。
『そしてその飲み物があった場所を、大きく身振り手振りを使って説明してください。』
「っ!! わかりました!!」
クィトは西側の壁に飲み物が置いてあることを大きく全身を使いながら喋った。遠巻きに俺らを見ていた人たちは「あの子……急に話しかけられてとても緊張してるわね」「可愛らしい反応だわ」「まさか自分が話しかけられるとは思わなかったでしょうね」「彼にとって人生で最も素敵なパーティーになったんじゃない?」などという言葉が聞こえてきた。
『シュネイ、クィトのことは後日改めて紹介してください。一旦、離れましょう。』
「あ、ああ…!!(クィトごめん……!)」
「(馬鹿アグニ)」
俺が小声で謝ったらクィトは礼をしながら罵倒してきた。ひどい!でも本当にごめん!!
シルヴィアの機転でどうにかなったが、まじで気をつけなきゃだ。
クィトには出来る限り、本人の希望する技術職の道を歩ませてあげたい。身分を匂わせる程度ならいいが、高位貴族や天使の血筋と接点があると示すのは危ない。クィトが俺らの弱点になり得るし、クィト自身も利用される可能性が高くなるからだ。しかも正当な評価を受けにくくなるし、研究分野も絞られてきてしまう。
「……はぁ、カイルすまん。喉がからからだ。クィトが教えてくれた飲み物を持ってきてくれ……。」
「了解。」
「シルヴィアも、挨拶とかも含めて色々ありがとな。」
『あの方が……あなたが家族になりたいと思っている子なのですね。』
「お!覚えてたんだ!」
クィトの入学式に参列すると伝えた時、シルヴィアからなぜ本当の家族じゃないのにそんなことをするのかと聞かれた。だから俺は、本当の家族になりたいからだと伝えた。
『ええ、覚えています。どんな方なのか……とても会ってみたかったんです。』
「ほんと!?いい子だろ?素直で可愛いだろ?!頭もいいだぜクィトは!」
よし、今度絶対にシルヴィアのことちゃんと紹介しよう!
『……とても天使の血筋に慣れていましたね。それは普段からあなたを含めて大勢の天使の血筋と過ごしているからだと、すぐにわかりました。』
シルヴィアは遠くにいるクィトを優しい目で見ていた。
『けれどそれ以上に、シュネイが愛情深く彼に向き合っているとわかりました。きっとクィトが「素直でいい子」でいられるのは、あなたのその大らかな性格と器の大きさに包まれているからでしょう。』
「え、いやだ……!!」
なにそれ嬉しい………
うわ待って、泣きそうなんだけど!!
俺はめっちゃ嬉しかったから、なんとかシルヴィアを褒め返そうと思った。
「そんなぁ~!シルヴィアだって、いつも綺麗で品があって、今日のドレスも……あ。」
やべ、今日制服だった。
シルヴィアの目がギュンっと氷の温度に下がったのを感じた。
「……う…うぅ……カ、カイルぅぅ………」
こう言う時に限ってカイルが近くにいない。サポートしてくれよ!今!!
『はぁ、ではそろそろ帰りましょ………………頭を上げてください。』
俺らの前に3人の男が現れた。
3人は頭を下げたまま待機し、シルヴィアの許しで顔を上げた。その3人は俺の方には少しも目を向けず、シルヴィアのことしか見ていなかった。
「この素晴らしい時をシルヴィア様と同じ空間で過ごせます事、夢のようでございます。この夢をお与えくださった天空の神々とシルヴィア様に感謝申し上げます。グレー・ピグシーでございます。』
『………お久しぶりですね、ピグシー卿。』
「シルヴィア様、この夢のような時間に、更なる祝福をお与えくださいませ。」
更なる祝福?
なんだそれ、どういう意味だ?
俺は話がよくわからず黙って3人とシルヴィアの顔を交互に見ていると、シルヴィアは無機質な声で俺に言った。
『シュネイ、こちらで失礼してもよろしいでしょうか。帰りの馬車も別々で結構です。』
「あ、おう!わかった……。」
『では、ごきげんよう。』
そう言って俺の前からいなくなる時、シルヴィアの表情がなくなっていた。
俺はなんか、すごく焦った。
シルヴィアがものすごく無理をしているように思えたから。
「……シルヴィア!!また学院でな!」
『…ええ。』
そういうとシルヴィアはピグシーという名前の男と手を組みホール中央に向かっていった。
……更なる祝福ってダンスのことか
あの3人はシルヴィアとのダンス待ちだったのか。
それは申し訳ないことをしたな。
「あれ?シルヴィア様は?」
「お、カイル!」
カイルが両手に飲み物を持って帰ってきた。
「たぶんシルヴィア公国辺境貴族のご子息たちにダンス誘われてホールに行ったよ。先に帰っていいってさ。」
「え!?おいおいおい、いいのか?!」
「え?なんで?」
何も問題じゃない。というかむしろ、俺としか踊らないほうが問題だ。
あ、でもよく考えてみたら俺も今日シルヴィアとしか踊ってないな。
「あ、この持ってくれたやつ、シルヴィアの代わりにカイル飲んじゃえよ。」
俺はそう言ってカイルが持ってきてくれた飲みものを指さした。
「いやいやいやそうじゃなくて!なんかその…感情?気持ち的になんか……ないのか?」
「え、シルヴィアへの……気持ち……?」
シルヴィアの気持ちか……。
そういえばさっきすげぇ冷たい声で表情の無い顔でホールに向かっていった。
シルヴィアはあの3人が嫌いなのだろうか。
それとも、もしかして……
「もしかして……シルヴィアって実はダンスするのめっちゃ嫌いなのかもしれない……!」
やばい。全然そんなこと考えてなかった!けど考えてみたらいつも先頭きって踊らされて、失敗が許されない重責の中で誰よりも綺麗に踊なければならなくて……そうか、だから今日は全然踊らなかったのかもしれない。
「いや、え!?ならお前と2回も踊らないだろ!!」
「あ、そうか!ふ~あぶねぇ~!じゃあまぁ、これ飲んだら帰ろうぜ。疲れたわ。」
「ええぇーー……………」
カイルは不本意そうな顔で俺の後ろを歩き始めた。
なんだこいつ。
まぁいいや。
とっとと帰って、シリウスと話して寝よ。
明日からいよいよ、学院交流会だ!!




