245 2度目の学院交流前のパーティ―・前半
あまけして、おでめとうございます!!
会場は昨年と同じ。ただ今年は入り口が違う。
今年使うのは天使の血筋専用の入り口だ。
シルヴィアも俺も紫を基調とした第一学院の制服を着て、胸元のポケットに金の装飾を付けている。シルヴィアはそれに加えて、紫と金糸を使用したレースのグローブを着用している。
「アグニ、さっきぶりね。シルヴィアもお久しぶり。」
会場内にある天使の血筋専用サロンでシルヴィアと入場までの時間を待っていると、シーラとオートヴィル公国軍部総司令官のマクニール辺境伯が現れた。
「お!シーラ!リカルドの母ちゃん!」
『良い夜ですね。シーラ様のドレスとても素敵です・……この輝きは貝を使用しているのですか?』
シルヴィアはすぐにシーラのドレスを素材を言い当てた。そんなシルヴィアにシーラは女神の微笑みを返した。
「そうよ。綺麗でしょう?彼女のタキシードには黒い貝殻を使用したの。」
マクニール辺境伯は静かに一歩後ろで待機していたが、シーラの言葉で俺たちに礼をした。彼女の着ている格好いいタキシードは黒い艶のある輝きを放っていた。
「天空のご加護とこの出会いに感謝申し上げます。オートヴィル公国軍部総司令官、ザラ・マクニールでございます。いつも我が息子と親しくしていただき、恐悦至極でございます。」
このかっこいい女性、実は第2学院にいるリカルドの母ちゃんだ。
「いえいえこちらこそです!シュネイです、よろしくお願いします!」
シーラは壁にかけられていた時計を見て、マクニール辺境伯の腕を掴んだ。
「というかあなたたち、そろそろ入場時間じゃない?ほら、一緒に行きましょ。」
・・・
「それでは天使の血筋の方々の入場です!!!」
会場から大きな声が聞こえ、扉が開かれた。
俺とシルヴィアは学生なので、今回のパーティーでは身分に関係なく一番最初に入ることになっている(まあ俺は新顔伯爵位の天使の血筋なので、今回じゃなくても一番最初の入場になっていたが)。
視線は前、堂々と、少し笑みを浮かべて、、、綺麗に歩く!!
なんてことを意識しながらも、周りの目が気になりちらちらと会場内の人たちを見渡した。
ん~~まぁそうだよな
そりゃそうだよな
考えていた以上に、視線が好意的ではなかった。
そもそも貴族の中で黒髪は少ない。だからみんな、黒髪への差別意識が普通にある。
たぶん俺が一般人として普通に挨拶する機会があったら、見下されたり、ギョッとされたり、不愉快そうに見られたことだろう。だけど天使の血筋になったから少し変わるかな~なんて甘いことをほんのちょっと考えていた。
けどまぁ、変わらないもんだな
まぁ、なったばっかだしな!
少し悲しかったが、俺は特に落ち込まなかった。
『何度も言いますが、』
「え?なに?」
シルヴィアはまっすぐ前を見て、堂々と歩いていた。
それは今後、一国の女王となる者が持つ気品だった。
『私はあなたの黒髪が好きですよ。』
「っ…!」
そんなに気にしていないつもりだったが、今そう言ってくれたのが嬉しかった。なんだか、ホッとした。
「………ごめんな、俺のせいでシルヴィアまで不快な目線で見られて。」
『気にいたしません。だって私の視界に、』
シルヴィアは刺すような目で周囲を見渡して言った。
『この方々は映りませんから。』
・・・
俺らの後にシーラとマクニール辺境伯が入場した。
さすが帝国一番人気の天使の血筋だ。シーラが入場したら俺に向いていた視線は全てそっちに向かってくれた。
『シュネイ、油断しないで。この後にファーストダンスです。』
「うへぇぇぇ……」
『私はその前にスピーチもあります。』
「すいません文句言いません任せますお願いします。」
シルヴィアはふっと笑って壇上へと歩いていった。そして見事にスピーチを成し遂げ、ファーストダンスも乗り切った。
「ふ〜、お疲れ〜い。………ん?」
ダンスを終えたからダンスホールから去ろうと思ったのだが、シルヴィアが俺の手を離さなかった。
『もう一曲、踊りましょう。』
「え?まじ?大丈夫かな?」
ダンスを連続で3度同じ人と踊るのは、その2人が恋人であったり、婚約者であったりなど、関係性が深いことを意味する。そんなわけで2回連続で踊るのも「お、おお?あいつら仲良くね?」って意味になってしまい、3度目踊るかどうかを周りから見られ続けてしまう。
もちろん俺とシルヴィアは仲は良いが、恋人でも婚約者同士でもない。
『2度目ですので、大丈夫かと。むしろ今はあなたの目線を好意的なものに変えるためにも、「シルヴィア」と友好的な関係が築けていることを示す方が大切です。』
「違いねぇな。けどまた俺のために……ほんとありがとな、シルヴィア。」
シルヴィアは優しい子だなぁ
緊張まみれのこんな社交界でも、俺はシルヴィアになら安心して素の笑顔を見せれた。
『べ…別に、、!別に……~~っ!さぁ早く準備してください!』
「あぁ、はいはいごめんね。」
俺はすぐシルヴィアの腰に手を当て、次の曲が流れるまでのわずかな間にこそっと重要なことを伝えた。
「これ終わったらさ、料理何があるか見に行こうぜ。」
・・・
「お!リカルドとデボラじゃん!!」
『顔を上げてください。』
豪華で宝石のように輝く料理を食べていると、少し遠いところでリカルドとデボラが頭を下げて待機していた。2人とも緑を基調とした第2学院の制服を着て、胸元にドライフラワーを入れていた。
『「 天空の神々のお導きに感謝申し上げます。ご挨拶のお時間を頂戴してもよろしいでしょうか。」』
2人の口から聞いたことのないフレーズが出てきて面白い。
「リカルド久しぶりだな!最近どうだ?2人とももう交流会に参加しないんだよな?寂しいなぁ〜……そういえばさっきマクニール辺境伯に会ったよ!」
「…………ね?」
デボラは笑顔でチラリとリカルドを見た。そのデボラの言葉がなんの意味かはわからなかったが、リカルドは高らかに笑い始めた。
「え?なになに?」
『いや。アグニがシュネイになってどんな風に変わってしまったか不安だったが、デボラが「何も変わってない」って言ってな。……だが本当にその通りだった!』
『私から見ても、アグニとシュネイは変わっていないですよ。』
『シルヴィア殿がそう言うなら間違いありませんな!あははは!!』
『お?なんだか楽しそうじゃないか!アグニ!おっと、シュネイだったな!久しぶりだな!』
「おおおお!!シド!!オズムンド!!久しぶりだなぁ!!」
俺とシルヴィア、リカルドとデボラで話していると、シドとオズムンドが現れた。シドはいつも通りの元気な笑顔で、オズムンドはいつも通りの不貞腐れた表情をしていた。
『アグニ、おっとシュネイ!何か不都合なことはないか?元気に過ごしているか?』
『うん!わりかし楽しく過ごしてる!シドは?国の方はどう?』
俺の質問にシドはサムズアップした。
『シモン殿と話してな、特別区とシド公国の間に大きなトンネルを掘ることにしたんだ。大規模な掘削工事になるから年数はかかると思うが、完成すれば両国間の貿易が今とは比べ物にならないほど増える!』
「まじで?!すげえ!!」
『ああ!……もう何もできないまま、隣国が潰れていくのは見たくないからな……。』
一国の代表者が2国間の戦争に入ることは極めて困難だ。それなのにシドは、ブガランとカペーの戦争中、できる限り力を貸してくれようとしていた。
「……そうだよな。あの時は協力してくれて、ありがとな。」
『いいや、俺は何も……。』
「アグニさん、天使の血筋だったんですね。全然気づかなかったです。」
オズムンドが不貞腐れた顔のままそう告げた。なるほど、俺が天使の血筋だと気づけなくて悔しかったから不貞腐れてたんだ。
「ごめんな伝えなくて!!まぁでも、もし俺が事前に伝えててもオズムンドは信じなかっただろ?」
「信じるわけないじゃないですか。」
バッサリとそう言い切るオズムンドが、めちゃくちゃオズムンドっぽくて俺は好きだった。
「ははははは!!だよな!!」
あまけしておでめとうって何歳になっても言ってる……
いい加減に成長したい……(´;ω;`)




