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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第7章 第3学年
259/281

*10 違うってわかったから

2024年終わりますね。

いやぁ今年もありがとうございました……。


来年もぽつぽつと書き続けるので、

引き続きよろしくおなしゃす!!!!




ー 違うよ。君とアグニじゃあ、全然違う。ー


シリウス様に言われたあの言葉は、

呪いというにはまっすぐで、

祝福というには心に刺さる言葉だった。




 

「それでは、よーい、はじめ!!」


カイルの掛け声を聞いて、私とアグニは互いに走り始めた。

身体強化なし、短剣のみの武術の勝負。


あのピアスがどんなものかは知らないけど、芸を使わない武術勝負なら大して変わらないはず。


いったいどんな違いがあると・・・


「っえ…?」


一瞬の油断。


そのたった一瞬で、アグニは私の短剣を弾いた。


「も、もう一回いい?」


私がそう聞くと、アグニはぎこちなく笑って頷いた。



「よーい、はじめ!!」


再びカイルの号令で戦い始める。

たぶんだけど、あのピアスを外して瞬発力と動体視力が上がったのだろう。

であればもう油断しなければ・・・


「ぐっ…!!!」


二度目。

次はアグニに背後を取られ背中に剣を当てられた。


シンプルに悔しかった。

先ほどまでは私が勝っていたから。


「……あのピアスで、瞬発力と動体視力を抑えてたの?」


「……半分正解かな。」


アグニは私の背中から短剣をどけた。


「あのピアスは俺の芸力を10分の1に抑えるんだ。」


「っ……じゅ?!!!」


芸力を……10分の1 ?!!!

そんなに制限していたら芸なんておよそじゃないけど出せない。けれどアグニは今までずっとこのピアスを付けていた。

()()()()()()()()()()()()()


「まぁこれは芸の()だけを制限してて、俺の芸量は変わらない。だから実質的に制限されてたのは威力だけだと思ってたんだけど、これ付けてると芸素循環自体が制限されるんだ。」


「……どういうこと?」


不思議だった。アグニはなぜかとても言いづらそうで、不安そうな顔をしていた。


「芸素循環が悪いと身体的な機能も落ちるんだ。だからデボラの言ってた答えも、半分正解。」


「………なるほどね。」


アグニがどうして不安そうなのかわかった。

恐れているんだ、私が怒ることを。

本当の自分を見せずにいたことを、アグニは後ろめたく思っていたんだ。


「こんなに芸力に差があったならもう……驚きすぎて笑っちゃうわ!」


それは私の本音だった。

私は特別芸力がある方ではないけど、護衛騎士を目指せるレベルには芸力がある。中の中くらい。


なのに・・・


「ねぇアグニ、ピアスを付けて解名を出してみて?私の知らない解名を。」


「え?………うん、わかった。」


アグニはカイルからピアスを受け取り自分の耳につけた。


「……ねぇ、それどこで買ったピアスなの?」


「いや、買ってない。編入試験を受ける前にシリウスから貰った。」


「なるほどね……。」


このピアスは黒色の半透明の芸石の中に金色の芸石が入っている、二重構造。黒色の芸石も非常に珍しい上に、金色の芸石は目が飛び出るほど高価。だから私は最初にアグニと喋った時に「貴族の家の子だ」と思ったんだった。


アグニの耳から垂れ下がったピアスはキラリと輝いていた。それはとても美しくて、綺麗だった。


「ギフト・・・火車(かしゃ)


アグニの言葉で大気が動く。

空気は熱くなり、火が膨らみ、風が渦を巻いた。


「……なにこの芸、大きすぎでしょ……。」


アグニが火車と呼んだそれは、私がどんなに頑張っても出せないほど大きくて見事な解名だった。


「………これで、10分の1なのね…。」



ー 違うよ。君とアグニじゃあ、全然違う。ー



あぁ、また思い出した。あの言葉。

事実だわ。事実すぎる。



事実すぎて、痛いのよ。




・・・





「そういえばデボラは俺への態度が変わらないな。」


芸の練習後、アグニはハーブ水を飲みながら安心したようにそう言っていた。


「……そうね。でもね、今朝までは緊張してたのよ。」


「え、そうなの?!」


「当たり前じゃない!友人が天使の血筋になったのよ!?どう接していいかわからないじゃない!けどアグニがいきなり家まで来て、驚きすぎて思わず素で話しちゃったのよ。そしたら、なんかもういいやって思って。」


私は遠慮なく本当の気持ちを告げた。

アグニは話をまっすくに聞いてくれるから、話しやすかった。


「それに、」


私は笑顔でアグニに聞いた。


「アグニが天使の血筋になったからって、これからも友達なのはわからないわよね?」


ー 違うよ。君とアグニじゃあ、全然違う。ー


「っ!!…うん!もちろん!!」


アグニはとびきりの笑顔だった。

以前と変わらない笑顔は、私と同じ黒色の髪を持つ少年のようだった。


ー 違うよ。君とアグニじゃあ、全然違う。ー



………アグニ、ごめんね。

あなたが天使の血筋だってこと、私は随分と前に気づいてた。

あなたが金色の瞳を持っているとわかった日から。


ー 違うよ。君とアグニじゃあ、全然違う。ー


「……ありがとう、アグニ。」


「え?なにが??」


アグニは不思議そうにその金の瞳をこちらに向けた。

自分が黒色の瞳であることを、今まで恥じたことなどない。黒色の瞳は、黒髪以外でも大勢いるから。


「自分より圧倒的に強い人がこの世にいるってことを知れるのは、とても気持ちがいいわ。」


けど、これから私は、

瞳の色でも劣等感を持ち始めるのね。


「……そうだね、わかるよ。俺もそうだから。」


「あら、アグニもそうなの?」


「うん。シーラもそうだけど、シリウスとは何度も戦ってるのに一度も勝てたことがない。」


「……ねぇ、シリウス様って何者なの?」


シリウス様はこの世で最も明るい髪と瞳をしている。たくさんの天使の血筋と出会う機会があった。その中でもシリウス様は群を抜いていた。

だから私は、シリウス様は誰もよりも天空人に近い存在なんじゃないかと考えた。しかもそう考えると凄く納得できた。そうであれば、宰相閣下があれほどまでに厳重に保護し、手足となって動き、好きなようにさせている理由もわかる。



あの方こそが、皇・・・



「え?いや俺もよく知らんのよね。」


アグニは吞気にそう答えた。


「………え? 」


「え?なに?」


「いや、だって……もっと知ろうとは思わないの?」


アグニがどういうつもりなのかがわからない。

もしかしたらこの世で最も高貴なお方かもしれないのに?そんな方がずっと自分の近くにいるかもしれないのに?


「まぁ、言いたいことあるんだったら本人がなんか言うだろ。せっかく口があるんだし。」


「…………。」


………ははっ、驚いたわ。

へぇ、そういう感じなんだ。なるほどね。

この話を置いとけるわけね。あ、そうなの。


「………あはははっ!!」


ああ、そういうことね。そうなのね。

だからシリウス様はアグニを近くに置いてるのね。


アグニの前では、天使の血筋も普通の貴族も平民も、みんな同じ一人の人間に見えた。それがずっと不思議だった。

けれど、やっとわかった。

アグニはシリウス様のことさえ、他の皆と同じように扱う。誰に対しても姿勢を変えないのだ。

そしてその金の瞳でまっすぐに相手を見るから、皆がアグニと対等に話すのだろう。



「あぁ、悔しいわぁ……」


「え?デボラ?」


思わずつぶやいてしまった。

だって、誰もあなたのようになれないもの。



ー 違うよ。君とアグニじゃあ、全然違う。ー



ええ、ほんとに。

本当にそうですね。



悔しいほど、


痛いほど、


もう、わかりました。




・・・・・・





9週目7の日の夜、

今日は学園交流会前のパーティーでぇす!!!


昨日の夜からクィトも公爵邸に来ている。

そして俺とクィトとカイルはシーラと一緒にパックやらマッサージやらを受け、明日着る制服を完璧に整えてもらった。そういえばクィトは同じ学院の子にパートナーを頼んだらしい。


「じゃあ僕はそろそろ行くね。」


「え、もう!?早くない?」


クィトは既に制服を着て胸に装飾も付け終えていた。

ちなみにクィトが今日付けている宝石は、公爵が子どもの頃、お出かけする時に着けていたものらしい。濃紺の巨大な宝石の周りを純白の細かい宝石が縁取っている、超豪華な一級品だ。

これを『おでかけ』で着けてる公爵家はまじでやばいと思う。およそではないが一般市民が持てる代物ではない。

ただだからこそ、これを付けているクィトをみんなは()に扱えなくなる。公爵なりの最大限の防御方法なのだろう。


「アグニはもっと後の入場でしょ?僕は普通に第4学院の生徒として入場するから、学生の中でも一番早いもん。」


学生がメインのパーティーなので、そもそも普段のパーティーより開始時間が早い。しかも入場は第4学院の生徒から行うから、クィトは早めに行かないといけないのだ。


「あら本当だわ。それじゃあクィト、またあとでね♪」


シーラは耳にピアスを付け終えるとクィトの頬にキスをした。クィトは『なんで?』って顔をして首を傾げながら部屋を去っていった。


シーラは昨年と同じパートナーと入場するらしい。そして去年は貝殻のお披露目ドレスで会場を沸かしたが、今年も貝殻を使用したドレスにするとのことだ。

ただ今年は貝殻がドレスに織り込んである。生地自体は絹のように滑らかなのに、貝殻ならではの発色も輝きもある。素晴らしい逸品だ。


「アグニ、あなたもシルヴィアを迎えに行くんでしょ?少し早めに出なさいね。私もそろそろ迎えが来ると思うわ。」


「え?なんで?」


「馬車で道が混むからよ。」


ほぉなるほど。

………つまりそろそろ家から出ないとまずいぜ⭐︎


「やべぇ!!行ってきます!!行くぞカイル!」


「うぉぉい!ちょ待てよ!!」


「またあとでね〜♪」


『行ってら〜』


俺らはシリウスとシーラの呑気な声を無視して急いで公爵邸から飛び出していった。







閑話『全然違う』の延長って感じっす。

最後の視点はアグニに戻ってます。

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