243 帝都のクレルモンホテルへ
「な、なんだって…?!!」
先ほどコルネリウスから別の芸素を感じたことを報告すると、リオンは飛ぶ勢いでコルネリウスの部屋に入っていった。
「コルネリウス!!!」
リオンの声に、コルネリウスはゆっくりと目を開けた。
『……兄さん……あれ、アグニ…?』
「よっ!コル、体調は大丈夫か…?」
俺がそう問うと、コルネリウスはぼーっとしたままコクンと頷いた。
『……うん、大丈夫だよ。ありがとう…。』
「よかった。それと何か……嫌な夢でも見たか?」
俺の質問にコルネリウスはわずかに顔を顰めた。
『………うん。少し、ね。』
「………そうか。」
「久しぶりね、コルネリウス。」
『あ、え、シ、シーラ様?!!』
「あぁ、起きないで。」
コルネリウスはシーラに気づいていなかったようだ。コルネリウスはシーラと目が合うとすぐに起き上がろうとしたが、それをシーラは制止した。
『シ、シーラ様、もしかして僕のお見舞いに…?』
シーラは女神のように微笑んだ。
「ええ。怪我をしてても格好いいのね。それに前に会った時より身長も少し伸びたんじゃないかしら?」
『か、かっこいい!? ゴフッ…!!』
コルネリウスは辛そうな顔で頭を抑え咳き込んだ。自分の声が頭に響いたようだ。
「うおう!そんな大きな声出すな!シーラも!変に惑わすな!」
「やぁねぇ、本心よ?」
『うっ……!!』
コルは今度は心臓を抑えた。
なんかずっと苦しそうだ。
「おいシーラ!!」
・・・
コルネリウスのお見舞いした後、リオンと一緒にシモンのところへ向かった。
そしてコルネリウスから感じたことを包み隠さず伝え、警戒を続けて欲しいと呼びかけた。
そして俺らは帝都へと戻った。
9の週3の日、
公爵への報告を終えて数時間後、クレルモン家から迎えの馬車がやってきた。
クレルモン男爵…つまりバルバラの父ちゃんが俺を帝都にある「クレルモンホテル」に招待してくれたのだ。
俺はカイルと迎えの馬車に乗り、帝都にある「クレルモンホテル」へと向かった。
「うおお……」
「すごいな……」
ホテルの正面玄関には従業員20名ほどが頭を下げて待機しており、俺の歩く道には金縁のレッドカーペットがひかれていた。
そしてレッドカーペットの奥にクレルモン男爵とバルバラが立っていた。今日は普通に授業がある日だから、バルバラは学院をわざわざ休んでくれたのだろう。
「クレルモン男爵、丁寧な歓迎に感謝します。『アグニ』の時にはお会いしたことがありましたね。改めまして、シュネイです。」
頭を下げたままの男爵に俺から話しかけると、男爵は頭を上げてにこやかな表情で礼を言った。
「天空のお導きに感謝申し上げます。天使の血筋様、本日は我がホテルに足をお運びくださり、誠にありがとうございます。また常日頃、学院で我が娘と仲良くしてくださり大変な栄誉でございます。本日は特別区のホテル建設についてご意見伺わせていただければと存じますが、その前に是非、ホテル内を案内させてくださいませ。」
「もちろんです。よろしくお願いします。バルバラもよろしくな!」
「え、ええ……。それでは、案内しますね。」
バルバラはぎこちなく笑っていた。
そしてなぜか、芸素からは焦りを感じた。
・・・
ホテル内を見学させてもらい、昼食をいただいた。
どれも絶品すぎて、俺は当たり前のように完食してしまった。もちろんカイルも完食している。
そしてホテル建設の話をするために応接室に案内してもらった。応接室の扉が閉まり、俺とカイル、男爵とバルバラの4人だけになるとすぐ、バルバラが話しかけてきた。
「ねぇ、コルネリウスは?!コルネリウスは無事なの?!!」
「こらバルバラ!やめなさい!!」
すぐに男爵がバルバラの行動を咎めたが、バルバラは構わず俺に質問した。
「パシフィオから大怪我で意識がないって聞いたの!ねぇ、コルネリウスは無事!?」
そうか、コルネリウスの容体を聞くためにバルバラは学院を休んだのか。
緊張で泣きそうなバルバラをなんとか安心させようと、俺はできるだけ笑顔で大きく頷いた。
「大丈夫。コルネリウスの怪我は俺が治したし、意識も戻ったよ。きっとすぐに学院に戻ってくるから、焦らずに待っててやってくれ。」
「っ…!! そう、そうなのね…!!ああ…!!」
バルバラは手で顔を覆い、下を向いた。
すすり泣く音が少し聞こえてきた。
「……バルバラ、向こうで少し休んでいなさい。」
「……ぐすっ……はい……。」
男爵はバルバラを気遣いながら別室へと連れ出した。そして応接室に戻ってくると俺に深々と頭を下げた。
「……大変申し訳ございません。学院でコルネリウス殿が意識不明だと聞いたようで、居ても立っても居られずに貴方様に会いに来たそうです。」
「……そうか。」
おいコル、バルバラが泣いてたぞ。
………早く戻ってこいよな。
俺もコルネリウスが帰ってくるのを待っている。そして俺と同じように、コルネリウスのことを待ってる人がいるというのが、なんだか少し嬉しかった。
「大変失礼をいたしました……。改めて、特別区に建設予定の新たなホテルについてご説明いたします。」
男爵は申し訳なさそうに俺を座席へと案内した。
「はい、よろしくお願いします。」
・・・
男爵からホテルの説明を受け、完璧に出来上がるのは2年後の予定だと聞いた。
ただ1年後からお客さんを入れられるように整えるとのことで、そのファーストゲストとして俺に来てほしいとお願いがあった。
俺はもちろん快諾した。
「アグニってまじで友好関係広いよな」
「なんだ急に?ちなみにそうでもないぞ??」
帰りの馬車でカイルがそう言った。
しかも別に本当に友好関係は広くない。
「だってよぉ、貴族とも仲良いし、貴族以外の人間とも仲良いじゃん。」
「いやまぁ…そこ別に分けて考えてないからねぇ。」
「第一以外の学院生で友達はいるのか?」
「いるよ。第二学院にはシド公国のシド、デボラやリカルド、オズムンド。第三学院はアイシャとか。第四学院ならセシルの婚約者のイサックとかだな。」
「クィトは?」
「クィトは家族だから。」
けど改めてカイルに質問されて、久しぶりにみんなのことを思い出した。そういえばそろそろ学院間交流もあるけど、あれは第2学年と第3学年しか出ないから、オズムンドくらいしか会えん。
「あ、そういえばデボラは結局どこで働くんだろ。」
「デボラって誰だよ。」
カイルは不貞腐れた顔でそう呟いた。そういえばカイルはデボラに会ったことがなかった。というか俺が「シュネイ」になってから会ってないな。
そんじゃちょうどいいし・・・
久しぶりに会おう!!!
ということで家に帰ってすぐにデボラに「公爵家に遊びに来ないか」というお誘いの手紙を書いた。するとすぐにデボラから、ものすごく丁寧な文面で「行きます」という内容の手紙が返ってきた。
デボラは今、第4学年で、授業の一環として帝都軍部に週2で通っているそうだ。デボラが割り振られた隊は第5部隊。そして第5部隊は5の日が休みだそうだ。
なので俺は、4の日はフェレストさんのとこに行って鍛治をしつつ、久しぶりに森の家に泊まり、5の日の朝、森の家から直接デボラんちに迎えに行った。
え・・・こいつ直接家まで行ったの…?
馬鹿じゃねぇの…?




