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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第7章 第3学年
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241 コルネリウスの容態


「コルネリウス・リシュアール、意識が戻らないようです。」


それはあまりにも突然で、

俺は自分の感情を制御できなかった。


パリィィィン!!!!!


バキッ バキッッ!!!


シモンの部屋には防御と防音の結界が蓄芸石で常時張られていたが、俺はその結界を破りすぐに自身の芸素を拡げた。

窓ガラスも割れ、部屋が唸るような音を立てる。結界が破れたことを告げるアラームが城内に響き渡り、各方向から衛兵が近づいてくるのを感じた。


「シュネイ…抑えてください…!!」


シモンが苦しそうな表情でそう告げた。俺の芸圧のせいだろう。この小さな部屋で芸素をいきなり溢れんばかりに出したからだ。


申し訳ないと思うが、それでも今だけは言うことを聞けなかった。



   コルはどこだ…!?



旧カペーの最西部が遠征地だと言っていた。ならば特別区全域に芸素を拡げて、コルネリウスを探してやる。


ガン ガンガンガン!!!


『シモン様!!ご無事ですか!シモン様!!』

「くっ…風圧で開かない…!!ドアを壊すぞ!!」


外から衛兵の声が聞こえるが、今俺の邪魔をさせるわけにはいかない。


「ギフト、水鏡……氷晶壁(ひょうしょうへき)


「なっ…!い、一度に2つの解名を…!?」


「シモン、すまんがちょっと待っててくれ。」


シモンが上げる声も外の声も、俺は全てを無視し芸素探知に集中した。



   コル…コル……!!!


   頼む……無事でいてくれ……!!



「シュ、あ、アグニ……苦し……」


コルが見つからない。

そんなはずはない。


どこだ


どこだ


どこだ



「っ……!!!」


ふわっと花が香るように、親しみのある芸素を感じた。


「 いた!!!」


生きてる、生きてる!!!!!

大丈夫だ。コルは生きてる!!!


けど・・・芸素がものすごく小さい……。


「ぐっ……ぅうぐぁ…!!」


「あ、ごめん!!!」


俺はすぐに芸素探知をやめ、芸圧を戻した。


ドンドンドン…!!!!

ドドォガァン!!!


『シモンさまぁ〜!!!!』


部屋の外からえげつない爆発音が聞こえる。無理やり扉を壊してこの部屋に入ろうとしているのだ。


「やっべぇ!!!!」


やばいこれはめっちゃ怒られるやつだ!!


「すまんシモン!!また今度ちゃんと謝る!!」


俺は自分で壊した窓から外に飛び出し、そのままシーラの屋敷へ飛んでいった。




・・・




バタン!!!!


「シリウス!!」



『コルネリウスのことかい?』


「なっ……!!」



   なんで、もう知ってるんだ……?



「お前……それ……」


シリウスは俺が来るとわかっていた。俺がなんでこんな急いでるのかもわかっていた。

ソファに腰をかけ優雅に紅茶を飲みながら、馬鹿を見るような冷たい眼差しを俺に向けていた。


『君、芸素探知、してないでしょ。』


「っ……い、や、あれは…だって帝都の中だけって話だったじゃ……」


『帝都の中でしか事件は起きないと思ってるの?』


「っ……!!!」


シリウスは……ちゃんとここでも芸素探知をし続けていたんだ。だからコルネリウスの芸素が危うくなったこともすぐに感知していた。


芸素探知は物凄く疲れる。長い期間、広い場所であればあるほど芸素を使うし体力はごっそり取られる。芸素探知をし続けるのは、ずっと身体強化をして走っているのに近いのだ。


『君が周囲の警戒と探知を疎かにしたことで友人を助けられなければ、』


シリウスの瞳は嫌というほどにまっすぐだった。


『それは君が殺したも同然じゃない?』


「っ……そんな!!!」



そんな……


そんなこと……言われたって……


だって……コルネリウスがいるなんて知らなかったし……



『ほんと?』


シリウスは相変わらず冷めた目で俺をじっと見つめる。


『もし今回コルネリウスが死んでも、君は自分を責めない?』


「っ……!!!!!!」


……シリウスの言う通りだ。

ぐうの音も出ない正論。

もし手遅れだったら……俺は確実に後悔していた。


「………シリウス、俺はコルネリウスに会いに行きたい。」


シリウスはふっと笑って俺から目線を外し、再び紅茶を飲んだ。


『異変を感じた後、通信用芸石でルシウスとシーラにこちらに来るよう伝えといた。もう18時間ほど前だね。』


「はっ…!? そ、それなら教えてくれれば…!!」


『今度は何を僕のせいにするの?』


あぁ、嫌になる。

全部を正論で返される。


そうか、俺の気が立ってて、冷静に判断できなくなっているんだ。


「ふー………」



   落ち着け。

   さっきコルの芸素は感じた。

   つまり死んでない。

   もう一度芸素探知をしよう。



俺は再度芸素探知を行った。



   ……コル…だけじゃないな。

   中隊全員がこっちに向かってる。

   メンベルに来るつもりだろう。

   このスピードなら……明日には帰ってくる。



「………わかった。受け入れ体制を整えて、俺はここで待つ。」


シリウスの芸素が穏やかになった。それを感じで、こいつも気を張ってたんだとわかった。


『明後日にはルシウスとシーラも来るだろう。明日中に怪我をした隊員から話を聞いて、明後日には現地行くよ。』





・・・





次の日


『あ、遠征隊が見えたぞ〜!!』


「門を開けろ〜!!!」


メンベルから遠征隊が見えるや否や、すぐに開門の準備を行う。


カンカン カンカン カンカン・・・


街中に鐘声が響き、西門からメンベル最大の教会までの露店が片付けられた。


『治癒師の準備はできてるかー!!』

「遠征隊の後ろに芸獣が数匹付いてきている!仕留めるぞ!!」


数々の指示が飛び交う中、俺は教会の真上で空中待機していた。

確か100人規模の中隊と聞いていた。しかし肉眼で観測できる人数は半分の50人弱。


コルの芸素は……芸素は消えていない。

そして…


「リオンも一緒だったのか…!」


リシュアール家長男でありコルネリウスの兄であるリオンの芸素にも気づいた。彼も相当芸素が不安定だった。怪我をしているんだろう。

遠征隊が門の中へ入ったことを確認し、俺は下へ降りていった。


「人数50人弱!各々、芸素回復薬は持ったな。順番に治癒をかけてくれ!!」


「『「『 はっ!!! 』」』」


治癒師は15人。教会で治癒のできる者も集めて、合計23人。



   ………うん、十分な人数だ。

   絶対に、全員助ける。



遠征隊が教会に着くとすぐに治癒師と特別区の軍人らが状況整理と治療を始めた。

俺はその様子を確認し、コルネリウスの方へ走っていった。


「コル!!!リオン!!」


「なっ?!あ、アグニ……!!」


すぐ俺に気づいたリオンの頭には雑に包帯が巻かれ、右腕が血で滲んでいた。だが意識ははっきりしている。怪我の少ない左手で木の杖を持ち、必死に歩いていた。


「コルネリウスは……くっっ!!」


「………隊にいた治癒師がやられてしまって、応急処置しかできていない。」


重傷だった。

コルネリウスは簡易的な担架で、背を上にして運ばれていた。背中一面が血で馴染んでいる。


「包帯取るぞ。…………え?」


俺はコルネリウスの背中に巻かれていた包帯を解き、目を疑った。

だってこれは……


「……リオン、なぁ。」


何度も、見たことのある傷だ。


「どうしてコルネリウスの背中に、剣傷があるんだ?」


コルネリウスの背中にあったのは右肩から左腰までのの、大きな剣でついた傷だった。

傷の線は細いが深い。腕力のある人がきちんと研がれた剣で付けた傷……つまり、軍人が剣で付けた傷ってことだ。あのあたりで軍人は、この遠征隊しかいないはずだった。


リオンはバツが悪そうな顔をし、俺から目を逸らした。


「……必ずあとで説明する。だから頼む、治癒をしてやってくれ……!」


「ああ。……ギフト、治癒。」




・・・




コルネリウスの容体は安定したが、意識はまだ戻らなかった。

でもとりあえず、一命は取り留めた。


「それで……どういうことか、説明してくれ。」


「はい……」


シモンの執務室……の続きの間。

俺が執務室のガラスを割ってしまったので今そちらは使えない(まじすまん)。

そこに隊の責任者であるリオンと副責任者のコロンを呼んだ。こちらにはシモン以下、特別区の重鎮達と俺がいる。


「まず……正直に、私たちにもなぜそんなことが起きたのかわかっておりません。だから事実のみお話しします。」


リオンは一度深く呼吸をした。


「……中隊の半数が、もう半数を襲ったのです。」


「『「 なっ……なんだと?! 」』」


リオンからの話では、最西端の村までは難なく辿り着き、その村も普通だったそうだ。

ただその帰り道、急に深い霧が出た。

その場所は特に霧がよく出るところではなかったため一時的なものだろうと判断し、一旦移動を中止した。そして実際に霧は上がった。


だがその途端・・・


「……私を含め襲われた半数側は、もちろん油断してました。まさか仲間から切られるなんて思わずに。」


だからコルネリウスの背中には剣傷があったのだ。あれほどの大きな傷だったのは……仲間に背中を見せ、当たり前のように油断していたからだ。


「私たちは襲ってくる半数の制圧を…行いました。」


制圧……

メンベルまで帰ってきたのが半数ほどしかないないことも加味すると、襲ってきた半数の隊員たちを殺したのだろう。


「でも、でも!私は聞きました!!」


副責任者のコロンは仲間に喉を裂かれたらしい。本来ならば出血死は免れないが、治癒師が殺される前に治療していたため、生きて帰ってくることができた。


「俺を襲ったのは一個下の後輩で……よく飲みに行く奴で……そいつが俺を見てひどく驚いてたんです。そんで、『よくも…!!』って言ったんです。まるで恨んでるみたいに。」


「『「 …………。」』」


たしかに不自然ではある。幻影の可能性は高いと思う。ただ、まだ決め手に欠ける。


「………特別区の部隊を現場に向かわせます。遺体の回収と現場検証が必要ですから。同時に組織的な犯行の線も考え、総司令官殿に各隊員の情報を洗い出してもらいましょう。」


シモンは今後すべきことを冷静に告げ、俺を見た。


「調査部隊の準備はすでに整ってます。そして現場到着は2日後になるかと思います。ただシュネイ、あなたを何が起こるかわからない危険な現場へ連れて行くことは、特別区の指導長官として容認できません。」


「っ……!」


シモンは一度大きく頷いて、続けた。


「ただ、私はここから3、4日ほどはあなたに構う暇がないでしょう。なのでシーラの屋敷で、ゆっくりしていてください。」



   ・・・シモンは、優しいな。



俺もシモンに大きく頷き返した。


「……わかった、ありがとう。そうさせてもらう。」


シモンは俺に、自由に動ける時間を与えてくれたのだ。





俺はシーラの屋敷に戻って仕度し、メンベルを出た。シリウスはすでにメンベルを出ている。


「あいつは……あ。」


芸素探知で、シリウスは近場の森にいることがわかった。

そして俺がシリウスの居場所に気づくと、すぐにシリウスは3度、少し主張するように強めの芸素を放った。


「………そうか、すごいな。俺が芸素探知してるってことが、逆に芸素探知でわかるのか。」


だから俺が芸素探知をしてないって、ずっとバレバレだったんだな。


「エメル、マルガ、シーラとルシウスにすぐに俺らの後を追うよう伝えといてくれ。」


「「 かしこまりました。」」


俺は2人に言付けを残し、すぐに首都を出た。


森に入ると、すぐにリュウの笛音が聴こえた。

リュウの音の方へ進んでいくと、永く生きた木が倒れ、光が射し込む空間へ出た。

小さな息吹は光と古き仲間を養分に変え、懸命に上へ上へと向かってゆく。

それを優しく肯定するように、シリウスの周りではキラキラと芸素が震えていた。


「………お待たせ、シリウス。」


シリウスはリュウを吹くのを止め、にこりと微笑んだ。


『………さて、それじゃあ向かおうか。』





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