表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第7章 第3学年
254/281

240 コルネリウスは



「カール!」


「アグニ、まだ帰ってなかったんだな。」


「おう!来週から2週間くらいまた特別区行ってくるから、挨拶しとこと思ってな。」


俺の発言にカールは目を見開いた。


「また行くのか!なんだか大変だな。」


「いや、そんなよ?」


特別区への移動は大変じゃないし、農業も興味ある。ちゃんと変化も見届けたい。

俺が少しでも役立てるなら、全然大変じゃない。


「そうか……。そういえばコルネリウスも来週からしばらく休むらしい。軍部の遠征についていくそうだ。」


「え、あ、そうなんだ……」


「ん?どうした?」


先ほどの、コルネリウスから感じた刺すような視線を思い出してしまったのだ。



   ……きっと気のせいだったよな。

   うんうん、きっとそうだ!

   たぶんコルは眠かったんだ!!



俺はカールに笑顔を見せた。


「なんでもない!コル、本当に軍部に入りたいんだな!偉いよなぁ。」


「……アグニ、もしかして噂を知らないのか?」


「え?コルの噂?」


なにそれ、微塵も知らないんだけど。


「なんだ?コルネリウスの話か?」

「コルって聞こえたけど……もしかしてあの話??」

「……あれ、本当…なの…?」


パシフィオとバルバラ、セシルがやってきた。

俺らが集まっているのをみて、他の生徒もやってきた。


『え、あれってほぼ確実なんじゃないの?この前のパーティーでお母様が聞いたって……』

「俺んちでもそう聞いたぞ。」

「文部でもその話広まってるらしいわよ」


「え?なに?そんな有名な話??」


みんな何か知ってるっぽい。しかもみんなその話をしたそうだ。面白い話なのか?

俺がキョロキョロしているとカールが説明してくれた。


「どうやらコルネリウスがペールシュベルト侯爵家の養子になるらしい。」


「養子?!!」


ペールシュベルト侯爵家・・・あ、あれだ!黒髪嫌いなオバ様だ!リシュアール伯爵家の社交パーティーで会ったことあるぞ!

たしかペールシュベルト侯爵夫人はコルネリウスの父ちゃんのお姉さんだった。そんでコルネリウスのことをすごく大切に思っていた。


「ペールシュベルト侯爵夫妻には子どもがいないからな。コルネリウスを養子に迎えて侯爵位を継がせるらしい。」


そういえばコルネリウスより2つ年上の従兄がいたけど事故で亡くなったと聞いた。


「あれ?でもそれじゃあ……コルネリウスは軍部に就職しないのか?」


俺の質問にパシフィオが頷いた。


「ああ。だから学生である今のうちに軍部の演習とかに積極的に参加しているらしいぞ。侯爵家を継ぐなら今後は無理だからな。」


「そんな……それでいいのか?本当に?」


あんなに武芸が好きなのに。

あんなに自身の父親を尊敬していて、いつか自分も、いつの日かと目を輝かせて夢を語っていたのに。

あんなに軍部への憧れがあったのに。


「『「『 …………。 」』」


皆が無言で俺のことを見つめてきた。


「……え、な、なんだよ?」


皆んながやれやれ…とため息を吐いた。

その意味がわからず首を傾げると、カールが真剣な表情で聞いてきた。


「コルネリウスは……もちろん天使の血筋ではないが、お前より高い爵位になるんだぞ。そこに何か思うことはないのか?」


「へ!?」



   え、なんの話だ?

   それって何かマズイのか?



「……おぉん、そうだな…?」


俺はよくわからなかったのでとりあえず相槌を打つと、周りの生徒は少し気まずそうな顔をした。


「くっ……はははっ!!!」


「カ、カール??」


カールが声を上げて笑い出した。こんな様子なかなか見ないのでみんな驚いている。


「ああ、もうやめよう!こんな下らない話。アグニ、帰るぞ。」


「え?あ、おう……」



   帰るって……

   別々の馬車じゃないのか?



けどカールは楽しそうに笑っていた。

そしてどこか安心したような、気持ちのいい芸素が伝わってくる。


「なぁ、さっきはなんで笑ってたんだ?」


第一学院の正門に向かいながら俺が尋ねると、カールはくくっと笑い、答えてくれた。


「……普通はな、自分より爵位の高い同級生なんて扱いづらいんだ。みんな嫌なんだよ、横並びじゃなくなるのが。」


「………そっか。そうだよな。だから俺とかシルヴィアのこと、みんな扱いづらいんだもんな。けどコルネリウスは元々伯爵家でシルヴィアを除いて一番身分の高い家柄だったじゃん。それが侯爵家になるって、別に扱いは変わらなくないか?」


「ああ。だから今回のは、純粋に『嫉妬』だ。」


「……嫉妬?」


カールは綺麗な笑顔のまま、前を向いて歩いた。


「侯爵家に養子として迎えられてそのまま爵位を継げるなんて、そんなことはほどんどない。強運の持ち主だ。普通は、嫉妬するんだよ。」


「……そんなこと言ったって……コルネリウスはそのせいで夢を絶たれるんだろ?」


カールはちらりと俺の方を見て「優しいな」と呟き、また前を向いた。


「夢と爵位なら、爵位を取るんだよ普通は。結局俺たちは、爵位で判断する貴族社会から抜け出せない。」


「……普通普通って……それじゃあカールもそうなのか?」


カールは急に歩みを止めた。


「カール…?」


「……少し前の俺ならきっと普通にそう思っていた。」


驚いた。

カールはどうしてこんなにも清々しく笑っているのだろう。


「けどな、知っちゃったんだよ俺は。もっと広くて、楽しくて、危険な世界を。」





・・・・・






特別区は相変わらず平和で、幸いなことに新しく栽培した作物(稲)の成長も順調そうだった。

俺は『流浪の賢者』のリーダー的存在で、今回特別区の立て直しに力を入れてくれているミンスと水田を観察しながら現状を聞いた。


『もともと稲栽培向きの土壌だったこともあり、比較的順調に成長しております。』


「そうか!!」


綺麗な緑色の葉が風に揺れサラサラと鳴っていた。


『あとは病気や虫の防除ですな。それと収穫間近に天候が荒れなければ良いのですが……こればかりは神に祈るほかありませんからな。』


「んあぁ〜………」


もし嵐が来ても俺が天変乱楽を出しちゃえば問題ない……とは言わないでおいた。

それは賢者たちの努力は必要ないと言っちゃうようにも思えたから。


『そして海岸沿いに作った果樹園ですが、』


「おう!そっちはどうだ!?」


ミンスはニッと笑って言った。


『今のところ、順調でございます。』


「おお~!!!!」


俺が拍手すると、俺の護衛でついてきていたオンリも拍手し始めた。可愛い、君はしなくていいんだよ。


『もちろんまだ最適解だとは思っておりませぬ。またブラウン商会に何十種類か稲と野菜の種を用意してもらう予定です。』


「そうか!どんどん挑戦してみてくれ!!」


カールんとこの商会に正式に依頼を出し、稲や野菜の種、そして果樹の苗などを輸入しているのだ。追加注文とその他報告についてをミンスから聞き、俺はメンベルに戻っていった。



・・・


シモンに会いに行ったり、エドウィンとエッベ、ヴェルマンやカミーユと会い、また農地に戻ったりして1週間が過ぎた頃。


「ルグルからの手紙?」


「おう、ちょっとなんか……芸獣に関わることだし、アグニにも伝えとこうと思ってな。」


エドウィンとエッベの元にルグルから手紙が届いたらしい。ルグルは現在、特別区の西側へと拠点を移して生活している。たまに会ったり、こうして手紙のやり取りをしているらしい。

そして今日届いた手紙には「芸獣が以前にも増してよく西から現れるようになった」と書かれていた。



「…ってことらしいんだよ、シモン。西側の芸獣が強くなってるってちょくちょく聞くんだけどさ、何が原因なんだ?」


シモンは俺の話をじっと聞いていたが、芸素からはどこか迷いのようなものが伝わってきた。


「……………なにか、知ってるのか?」


「……さすがですね。まぁ伝えておいた方がいいでしょう。」


シモンは軽く笑い、諦めたように一通の手紙を見せた。

封筒には帝都軍の紋章が付いていた。


「………帝都軍から、何か言われたのか?」


シモンは表情も変えず冷静に告げた。


「……帝都軍が100人規模の中隊で旧カペー最西部の村に遠征に行ったんですよ。特別区の支援としていらしたんですが、まぁ西側の芸獣が強くなっているという『噂』を聞き、観察も兼ねていたのでしょう。」


嫌な予感がする。

俺の同級生で一人、この時期に、軍部の遠征に行っている人がいる。


「原因は不明ですが、村人・中隊それぞれ死傷者多数。村は焼け落ち、状況は酷いようです。」


「っ……もしかして……」



シモンはちらりと俺の顔を見てから、手紙を差し出した。


「………コルネリウス・リシュアール、意識が戻らないようです。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ